表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/29

笑顔…

翌朝、俺の病室には俺を入れて5名の人が集まっていた。


向井さん、小林さんは勿論のこと、看護婦さんに、それと現在の病院の代表者である医者(せんせい)がいた。

ここは広目の病室であるため、この人数が入っても、まだ余裕がある。


情報共有のための話し合いが始まった。


最初は、俺からあの地震の日の話をした。

みな、さまざまな反応を示す。

女子二人はあの日の恐怖を思いだし、顔色が悪い。

医者と看護婦さんは半信半疑ではあるが、信じざるをえないかと漏らしていた。


その後は、俺が川に落ちた後の話を小林さんから聞いた。

一弥の事、先生の事、公民館での惨劇全てを聞き、俺は驚きを隠せずにいた。


「公民館で、何があったかわかるかね?」


医者の言葉に小林さんも向井さんも首を横に振っていた。

だが、それよりも俺は一弥の事が気になっていた。


何があったんだよ、一弥…


お前、いったいどこに行っちまったんだよ…


そんな思いに囚われていると、看護婦さんが重要なことを訪ねる。


「あの泥は川に、いえ、水に弱いって事かしら」


看護婦さんの言葉に、小林さんが考えながら答える。


「直接見たわけではありませんが、先生と久我君が、川に落ちた泥が溶けて消えていくのを確認したそうです」


これには、1つの光明が見えた。

医者はすぐに対策案を立てると言った。


そして、当然次に行き着く話は、俺の事だった。

あの日、あの時の事をできる限り丁寧に説明した。


俺の話を聞き、皆驚愕していた。


「その声は今も聞こえるのかしら?」

「夢では話せましたが、今は…」


看護婦さんの問いに、否を返す。

暫しの沈黙が、病室を包む。

それを破ったのは、今まで1度も口を開いていなかった向井さんだった。


「坂倉君の言う小さな光って、その子の事?」


皆の視線が、向井さんの見ている先、俺の右肩へと集まった。

そこには、小さな蒼い女の子がいた。

女の子には羽のようなものがついている。

今はそれを畳んだまま、俺の右肩に腰かけている。

小林さんにも見えているようだが、医者と看護婦さんには見えていないようだ。


蒼い女の子が口を開く。


やっと普通に話せるね…


その声は耳ではなく、直接頭に響いてくる。


「蒼華…なのか…?」


そうだよ…


俺の言葉に、是を返した蒼華は羽を広げ、俺の顔の前に来る 。


君が優斗なんだね…


蒼華がいとおしそうに俺の頬に触れる。

その光景を向井さん、小林さんは黙って見つめていたが、医者が堪えきれずに言葉を発する。


「そこに何がいるのかね?」


医者の問いに、俺はそのままを説明した。

さすがに信じられないのか、顔からふざけるなという色がありありと出ている。


そんな険悪な雰囲気をぶち壊したのは向井さんだった。


「可愛い!」


そう言って、彼女は蒼華のところへ近づく。

蒼華は俺に目を向けてくるが、俺は大丈夫だという意を込めて微笑みかける。

蒼華は恐る恐る向井さんの手に触れ、挨拶を交わす。


初めまして…、私、蒼華…


「初めまして、蒼華ちゃん。私は向井 奏、奏でいいよ」


二人は互いに笑いかける。

そんな二人を見て、私もと小林さんがそこに加わった。


女の子達が話を始めると、医者は付き合いきれんとばかりに病室から出ていってしまった。

それに続いて看護婦さんも、


「後で、お話し聞かせてね」


と、言って病室を後にした。


女の子三人の自己紹介とスキンシップ(主に蒼華の羽を二人が触れる)による親睦が深めあった頃に、4人の来客があった。


「お兄ちゃ~ん」

「失礼します」


最初の二人は俺が助けた女の子とそのお母さんだった。

女の子はトテトテと駆け寄ってきて、俺にお礼を言う。


「お兄ちゃん、この前は助けてくれてありがとう」

「本当にありがとうございました。あなたがいなければ、娘を失っているところでした。本当になんとお礼を言っていいか」


そう言って、お母さんは深々と頭を下げた。


「や、止めてください。俺は、ただ運がよかっただけなんですから」


俺はお母さんに頭を上げるように促す。


「それでも、本当に感謝しています」

「はい、お兄ちゃん!これあげる」


俺は女の子から1枚の画用紙を受けとる。

そこには女の子と手を繋いでいるお母さんと俺が書かれていた。

こう言ってはなんだが、とても上手いとは言えない。

だが、その絵を見た俺の目からは涙がこぼれだしていた。


「……は、ははは。変だな、何で泣いてんだ、俺」


拭っても、拭っても涙は途絶えず流れ続けていた。

俺はその1枚の絵に顔を埋めて泣き続ける。


「………た。


…かった。


よかった。


本当によかった。


俺の方こそありがとうございます。


こんな…暖かい絵、生まれて初めて見ました。


本当にありがとうございます」


俺は、ポツリポツリと感謝を告げる。

その姿を見て、女の子は心配そうにしている。


そこに、蒼華が茶々を入れてきた。


優斗は泣き虫だね…


「ははは、ホントだな」


蒼華の言葉に、反論できない俺は素直に認めることにした。

蒼華の事を女の子も見えているようで、ふわ~妖精さんだ~と、目を輝かせていた。

そんな微笑ましい光景に、俺達は笑顔になった。


そして、俺達の笑い声が収まった頃に、もう二人が入ってきた。

それは、図書館で作業監督をしていたおっちゃんと、あのヤンキーだった。


「和んでるとこ、本当にすまねぇが、どうしてもこいつに一言わび入れさせたくてな。

ほら!皆さまにご迷惑をおかけして申し訳ありませんと言え!!」

「……クッ!…ご迷惑をおかけして申し訳ありません」

「声がちいせぇッ!!」


おっちゃんの言葉に、ヤンキーは苛立たしげにもう一度謝罪する。


「ご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした!!」

「本当にすまねぇが、これで許してやってくんねぇか?

俺からもよぉくいい聞かせとくからよ」


そう言って、おっちゃんも頭を下げる。


「もういいですよ、皆無事だったんですから」


俺は何でもないように、笑って水に流す。

だが、ヤンキーにはそれも癪にさわったようで、舌打ちをして病室を後にする。


あれは全然反省してないな…


ですね…


俺の思考に、蒼華が相づちをいれる。

何にしても、皆が無事で本当によかったという思考に、蒼華がまたしてもそうですねと相づちを入れていた。


……迂闊に妄想できん


迂闊にも、そんな事を考えてしまい、蒼華はニヤリと俺を見ていた。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
冒険
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ