笑顔…
翌朝、俺の病室には俺を入れて5名の人が集まっていた。
向井さん、小林さんは勿論のこと、看護婦さんに、それと現在の病院の代表者である医者がいた。
ここは広目の病室であるため、この人数が入っても、まだ余裕がある。
情報共有のための話し合いが始まった。
最初は、俺からあの地震の日の話をした。
みな、さまざまな反応を示す。
女子二人はあの日の恐怖を思いだし、顔色が悪い。
医者と看護婦さんは半信半疑ではあるが、信じざるをえないかと漏らしていた。
その後は、俺が川に落ちた後の話を小林さんから聞いた。
一弥の事、先生の事、公民館での惨劇全てを聞き、俺は驚きを隠せずにいた。
「公民館で、何があったかわかるかね?」
医者の言葉に小林さんも向井さんも首を横に振っていた。
だが、それよりも俺は一弥の事が気になっていた。
何があったんだよ、一弥…
お前、いったいどこに行っちまったんだよ…
そんな思いに囚われていると、看護婦さんが重要なことを訪ねる。
「あの泥は川に、いえ、水に弱いって事かしら」
看護婦さんの言葉に、小林さんが考えながら答える。
「直接見たわけではありませんが、先生と久我君が、川に落ちた泥が溶けて消えていくのを確認したそうです」
これには、1つの光明が見えた。
医者はすぐに対策案を立てると言った。
そして、当然次に行き着く話は、俺の事だった。
あの日、あの時の事をできる限り丁寧に説明した。
俺の話を聞き、皆驚愕していた。
「その声は今も聞こえるのかしら?」
「夢では話せましたが、今は…」
看護婦さんの問いに、否を返す。
暫しの沈黙が、病室を包む。
それを破ったのは、今まで1度も口を開いていなかった向井さんだった。
「坂倉君の言う小さな光って、その子の事?」
皆の視線が、向井さんの見ている先、俺の右肩へと集まった。
そこには、小さな蒼い女の子がいた。
女の子には羽のようなものがついている。
今はそれを畳んだまま、俺の右肩に腰かけている。
小林さんにも見えているようだが、医者と看護婦さんには見えていないようだ。
蒼い女の子が口を開く。
やっと普通に話せるね…
その声は耳ではなく、直接頭に響いてくる。
「蒼華…なのか…?」
そうだよ…
俺の言葉に、是を返した蒼華は羽を広げ、俺の顔の前に来る 。
君が優斗なんだね…
蒼華がいとおしそうに俺の頬に触れる。
その光景を向井さん、小林さんは黙って見つめていたが、医者が堪えきれずに言葉を発する。
「そこに何がいるのかね?」
医者の問いに、俺はそのままを説明した。
さすがに信じられないのか、顔からふざけるなという色がありありと出ている。
そんな険悪な雰囲気をぶち壊したのは向井さんだった。
「可愛い!」
そう言って、彼女は蒼華のところへ近づく。
蒼華は俺に目を向けてくるが、俺は大丈夫だという意を込めて微笑みかける。
蒼華は恐る恐る向井さんの手に触れ、挨拶を交わす。
初めまして…、私、蒼華…
「初めまして、蒼華ちゃん。私は向井 奏、奏でいいよ」
二人は互いに笑いかける。
そんな二人を見て、私もと小林さんがそこに加わった。
女の子達が話を始めると、医者は付き合いきれんとばかりに病室から出ていってしまった。
それに続いて看護婦さんも、
「後で、お話し聞かせてね」
と、言って病室を後にした。
女の子三人の自己紹介とスキンシップ(主に蒼華の羽を二人が触れる)による親睦が深めあった頃に、4人の来客があった。
「お兄ちゃ~ん」
「失礼します」
最初の二人は俺が助けた女の子とそのお母さんだった。
女の子はトテトテと駆け寄ってきて、俺にお礼を言う。
「お兄ちゃん、この前は助けてくれてありがとう」
「本当にありがとうございました。あなたがいなければ、娘を失っているところでした。本当になんとお礼を言っていいか」
そう言って、お母さんは深々と頭を下げた。
「や、止めてください。俺は、ただ運がよかっただけなんですから」
俺はお母さんに頭を上げるように促す。
「それでも、本当に感謝しています」
「はい、お兄ちゃん!これあげる」
俺は女の子から1枚の画用紙を受けとる。
そこには女の子と手を繋いでいるお母さんと俺が書かれていた。
こう言ってはなんだが、とても上手いとは言えない。
だが、その絵を見た俺の目からは涙がこぼれだしていた。
「……は、ははは。変だな、何で泣いてんだ、俺」
拭っても、拭っても涙は途絶えず流れ続けていた。
俺はその1枚の絵に顔を埋めて泣き続ける。
「………た。
…かった。
よかった。
本当によかった。
俺の方こそありがとうございます。
こんな…暖かい絵、生まれて初めて見ました。
本当にありがとうございます」
俺は、ポツリポツリと感謝を告げる。
その姿を見て、女の子は心配そうにしている。
そこに、蒼華が茶々を入れてきた。
優斗は泣き虫だね…
「ははは、ホントだな」
蒼華の言葉に、反論できない俺は素直に認めることにした。
蒼華の事を女の子も見えているようで、ふわ~妖精さんだ~と、目を輝かせていた。
そんな微笑ましい光景に、俺達は笑顔になった。
そして、俺達の笑い声が収まった頃に、もう二人が入ってきた。
それは、図書館で作業監督をしていたおっちゃんと、あのヤンキーだった。
「和んでるとこ、本当にすまねぇが、どうしてもこいつに一言わび入れさせたくてな。
ほら!皆さまにご迷惑をおかけして申し訳ありませんと言え!!」
「……クッ!…ご迷惑をおかけして申し訳ありません」
「声がちいせぇッ!!」
おっちゃんの言葉に、ヤンキーは苛立たしげにもう一度謝罪する。
「ご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした!!」
「本当にすまねぇが、これで許してやってくんねぇか?
俺からもよぉくいい聞かせとくからよ」
そう言って、おっちゃんも頭を下げる。
「もういいですよ、皆無事だったんですから」
俺は何でもないように、笑って水に流す。
だが、ヤンキーにはそれも癪にさわったようで、舌打ちをして病室を後にする。
あれは全然反省してないな…
ですね…
俺の思考に、蒼華が相づちをいれる。
何にしても、皆が無事で本当によかったという思考に、蒼華がまたしてもそうですねと相づちを入れていた。
……迂闊に妄想できん
迂闊にも、そんな事を考えてしまい、蒼華はニヤリと俺を見ていた。




