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第2話 深夜のコンビニにて

5月15日深夜。

コンビニエンスストア、ピコマートにて。

タイムカードを押したあと、従業員控え室のテーブルに置いてあった新聞の記事に、穂積隆也は何気なく目をやった。

三日前のものだ。


《5月12日早朝。行方不明の少年(中1)、深川峠付近の山道の崖下で、遺体で発見される。車に衝突したあと、ガードレールを越えてそのまま転落、もしくは遺棄されたもよう。》

《頸部を絞められたような鬱血痕も見られ、更に詳しい死因を調査中。死亡推定時刻は行方不明になった5月10日の夕刻と見られている》

《なお県警では、この数ヶ月間の少年ばかりを狙った連続殺人事件との関連も、合わせて慎重に調査を進める方針》


わりと近くの国道での死亡事故だ。

まったく嫌な事件だよな・・・と、隆也は控え室で1人、眉をひそめた。

大学生になって、ひとり暮らしするようになってからは、親が悲しみそうなこういう事件には、特に腹立たしさが込み上げる。

この犯人捕まえられなかったら警察は能無しだ。こんな奴、さっさととっ捕まえて、袋だたきにしてやればいい!

隆也は心の中で発憤した。

曲がったことが見逃せず、すぐにヒートアップする性格は相変わらずだった。

もっとも本人にその自覚はあまりなく、大学の友人たちから「すぐ熱くなるな」「うざい」と言われるのが解せずにいたのだが。


従業員ユニフォームに着替え、しばしボンヤリしていると、店のセンサーベルが来客を知らせた。

隆也は慌ててレジに滑り込んだ。

今夜は0時から2時まで、隆也1人で店番だ。

この小さなコンビニでバイトを初めて半年になるが、雇われ店長が少々頼りなく、シフトがうまく回らない深夜は、今夜のように1人で任されてしまうことも、たまにあった。


深夜は客が少なくて楽なのだが、俗に言う「変な人」が、かなりの確率でご来店になる。

酔っぱらいならまだ可愛げがあるが、要注意の常連クレーマー男が出没するのも、深夜だ。

バイト仲間の間では、このクレーマー男は02(ゼロツー)と呼ばれている。

深夜0時から2時に現れる確率が高いのだ。

隆也は02が来る度に、自分の短気を押さえ込むのに苦労する。

さて、今入って来たのは、その02だろうかと店内を見渡した隆也は、ほっと安堵の息をついた。


商品を手に、こちらに歩いてくるのは酔っぱらいでも02でもない。

それどころか、隆也の荒い気性を中和してくれる貴重な清涼剤だった。


トンと、男にしては綺麗な指が、おにぎり2つと缶コーヒー1本をレジカウンターの上に置いた。

タラコと、おかか。コーヒーは、いつも無糖なのに、今夜は微糖だ。

疲れているのだろうか、などと思いながら、「おにぎり、温めますか?」と訊いてみる。

彼は無表情で首を横に振る。

「いえ、結構です」

少し楽しくなってきた。

「おにぎりはすぐに食べてくださいね。朝になると、タラコが孵化します」

「・・・」

失敗か。

今度はレジを打ちながら本心を言ってみた。

「お客さん、肉も野菜も摂らなきゃダメですよ。また痩せたんじゃないですか?」

やっと彼はこらえきれないように笑い出した。

「お節介な店員だな」


春樹は高校一年の頃から、隆也にとって唯一無二の親友だ。

そして春樹にとっても、彼の一番苦しい時期を全て知っている自分は、大切な存在であるに違いないと自負していた。


「632円のお釣りです」

隆也は差し出された春樹の掌に、わざと触れるように釣り銭を押し込もうとした。

けれど絶妙なタイミングでその指は釣り銭とレシートだけを受け取り、隆也の肌触れることなくスルリと引っ込められた。

「あ?・・・」

「ね。うまいもんでしょ」


喜々として答えた春樹を、隆也はあっけにとられて、改めて見つめた。

緑がかった琥珀色の瞳が、《ねえ、褒めて》と言いたげに細められた。



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