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永久の輪廻  作者: 大野 幸村
第一章
2/7

誕生日の夜に

またこの日が来てしまった。

宿の中で一人毛布にくるまった青年は心の中で呟いた。

もう数えきれない程繰り返し迎えた

・・・・・・

『20才の誕生日』。

この日はいつもあの平穏で退屈だけど幸せだった最後の日を思い出してしまう。


もう戻ることの出来ない遠い昔の事を。


そして、合わせて思い出したくもない最低な日のことも記憶から甦ってしまう。

出来れば消し去りたい記憶なのに。








「誕生日おめでとー」「happybirthday!」


クラッカーが鳴らされ、ろうそくに火が灯される。息が吹きかけられ、火が消える。


今日は、俺の20才の誕生日。

同じ大学に通う友人達が誕生日会を開いてくれている。

いよいよ大人の仲間入りと言うのに、子供っぽいとは思いつつもそんな心遣いが嬉しい。


俺の名前は桐島 輪廻。


一人っ子の俺は両親の愛情を受けなに不自由なくここまで育てられた。

両親から見たら非常に出来の良い優秀な子らしいが、それはいわゆる親バカってやつで自分で言うのもなんだが、特にこれといって特徴の無い普通の人間だ。

強いて上げるなら、名前でよく女の子に間違われるくらいか。

こうして誕生日を祝ってくれる友人はいるが、特別友人が多い訳ではない。恋人には三ヶ月前にフラれた。今では、未練がないと言ったら嘘になるがなんとかいつも通りの生活を送ることが出来ている。


そんなどこにでもいるような大学生だ。


輪廻本人もあまり意識していないある特別な能力を除いては。





「輪廻もやっと酒が飲めるな!」


友人達の中で一番誕生日の遅かった俺は、これでやっと誰の目を気にすることなく飲酒する事が出来るようになった。

こうして昼間から酒を飲みながら、だらだら過ごす誕生日も悪くない。初めて飲む酒の味を噛み締めながらそう思った。



「あれっ。酒もつまみもなくなったぞ。」


友人の一人が手元にあるビールや酎ハイの缶を振りながら皆に聞こえるボリュームの声で呟いた。

かれこれ四時間も飲んでいるのだから、当たり前と言えば当たり前だ。


「よしっ。じゃんけんで負けたやつ買い出しな。」


「外さみーからなぁ。絶対負けたくねぇな。」


「せーの、最初はぐー じゃんけん」


輪廻が、じゃんけんの動作をせずボーッとしていると、


「おいっ。輪廻も出さないと負けだぞ。」


「えっ。俺今日誕生日で主役なのに?」


「甘えるんじゃねぇ。金は俺たちで出すんだから、労働は平等にじゃんけんだよ!」


(まあ、それもそうか)


そう思い、他の四人に並んでぐーの手を作る。


「よしっ。いくぞ。」


「最初はぐー じゃんけんっぽんっ!!」








「ちぇっ。誕生日なのに俺が買い出し役かよ。」


一人文句を言いながら家を出る。


「あーあ。マフラーも巻いてこれば良かったな。」


酔っぱらって火照った顔を、冷たい冬の夜風が撫でる。初めてにしては、かなりの量を呑んでいるにも関わらず足取りはしっかりしていた。

コンビニで酒やつまみを買い込み、これまた初めて吸うために買ったタバコに火を着けながら帰り道を急ぐ。


ゴゴゴゴゴゴゴッ


「あれっ、地震か? あー、これがヤニクラってやつか?」


そう呟きながら次の一歩を踏み出した瞬間、輪廻の体は闇に落ちていった。





「うぅ 暑い!?」


汗だくになっている体を起こし辺りを見回すとそこは一面の焼け野原だった。彼が倒れていた場所を残し、草も木も全て燃え尽きていた。


「なんだこりゃ。どっどこだここは?」


現状が全く理解できない輪廻は背中に通常の汗とは別の冷たい汗が流れていくのを感じた。


「貴様とんでもないことをしてくれたな!」


「!!!!」


どこからともなくとてつもない怒気をはらんだ声が聞こえてきた。

その声は、英語のように聞こえるがどこか違う。そして話している言葉は聞いたことがないのに、何故かすぐ頭の中で変換され、聞こえてきた言葉の意味が理解できた。


辺りを見回すと焼け焦げて真っ黒な炭になった木の中から一人の美しい女性が現れた。

流れる銀の髪、薄い緑の大きな瞳、すっと通った鼻筋、つやつやと潤んだ唇、少し冷たい印象を与えるが輪廻はこんな美しい女性を見たことがなかった。

また、女性にこんなにも険のある眼を向けられたこともなかった。


何がなんだか分からなかった。なぜこんな所にいるのかも、なぜ女性がこんなにも怒っているのかも。


その女性はひどく疲れているようだった。最後に残された僅かな力を振り絞って輪廻をにらんでいるようなそんな感じだった。


「理由はなんじゃ! なぜあんなものをここに放った!」


女性は怒りの感情を少しも緩めることなくそう問いただした。

しかし、輪廻には全く身に覚えがない。それに現状も理解できていない。


「どうゆうことですか? あとここは何処なんでしょうか?」




「どうゆうことかじゃとっ!これだけの事をしておいてとぼけられると思うのか!」


輪廻の口から出た言葉は紛れもない日本語だったが、女性にも通じているようだ。


(???)

(全く分からない。何を言ってるんだ? この人は。)


「あの異界の炎を呼ぶ魔法は並大抵の魔術士に手に負えるモノではないはずじゃ。しかもこの神界の森の結界を越えて内側から放つなど貴様いくつかの最下層到達者じゃろう!」


(シンカイの森? そんなとこうちのアパートの近所にあったか? それにこの人普通に魔術士とか言ってるけど・・・ 最下層到達者ってなんだ?)


「あのー、すいません。何がなんだか分からないんですけど。 ここって何区ですか? それに魔術士ってどうゆう意味ですか? あと最下層到達者って言うのも。」


「しらばっくれるのも大概にするのじゃ。ここはその辺の冒険者が探し出すことも、ましてや結界を越えることなど出来るはずがない最上位の神界じゃぞ。それを、ここまで燃やし尽くしておいて知らぬ、存ぜぬで通用する訳がなかろう。」


ふと今投げ付けられた言葉を考えながら下を見ると、俺が吸っていたタバコの燃えカスが落ちていた。

始めはなんとなく見つめていた輪廻だったが、ある事実に気が付く。

タバコの燃えカスは輪廻の倒れていた所から数メートルのところに落ちていた。

そして、その辺りは焼け野原となっている一面よりも一際燃え方が激しい。その周辺は、岩ですらボロボロになっており、先ほどからパラパラと破片が落ちている。



(もしかして、俺とんでもなくヤバい事してしまったんじゃ。この山火事の原因ってタバコの火?)


「すいません。もしかしたらこれが原因かもしれません。」


そう言ってタバコの残骸を拾い上げる。


「なんじゃそれは! そんなものからは魔力の欠片も感じぬわ。誤魔化すでないっ!」


どう説明しようかと考え、輪廻はポケットからタバコとライターを取り出す。

タバコを一本取り出し、火を着けようとするが着かない。吸いながらじゃないとタバコに火は着かない事に気が付き、タバコ口にくわえた。

ライターに火を着け、タバコに火をつけようと近づけた瞬間更なる怒声が響いた。


「貴様っ!次は森だけではなく結界ごと燃やすつもりか!この神界が無くなれば、ケーキース大陸全体にも影響が出るのだぞ!」


(ケーキース大陸? そんな大陸絶対に聞いたことない。これ現実なのか? )


輪廻は自分の手や足の感覚を改めて確かめ、手を握ったり開いたりしてみる。

どう考えても夢ではないし、実際に暑さや汗が顔を流れる感覚を感じている。


(夢じゃない。)


この女性の言ってることが少し理解出来てきた。それは、輪廻にとって信じがたい事実ではあるが。


(何だか分からないけど、俺異世界に来てしまったらしいな。さっきからあの人うっすら光ってるし、若干宙に浮いてるし。それにこの言葉の聞こえ方も普通じゃない。ポケットから出てくる秘密道具でも有れば別だが。異世界だというのは断定してもいいだろう。

次は現状の把握だ。

ここは異世界の中でも特別な場所らしいな。しかも世界の人にとってかなり大切な場所。 それで、あの人の怒り方からするとここが燃えたのはまず間違いなく、俺がくわえてたタバコの火が原因だ。)


輪廻の推理は、ずばり正解だった。

現在輪廻がいるこの世界から見ると元いた世界は異世界である。

理由は分からないが、輪廻が異世界に転移した際に一緒に転移してしまったタバコの火は、神界を焼くほどの凄まじい炎の魔法『異界の炎』として転移していた。

輪廻がその魔法を使えるはずが無いのだが、その事はこの女性には知るよしもないことである。


そして考え込む輪廻を無視し、女性が口を開いた。


「貴様が更にここを破壊する魔力が残っているなら仕方がない。妾に残された最後の魔力と生命力を使いこの神界を復活させよう。そうする事で妾は死ぬことになるが神の力を使う事でしか発動出来ない呪いを貴様にかけてやろう。」


(この人神様なのっ!? 神様って死ぬの? 神様ならもうちょっと人の話聞けよ。さっきから俺のはなし何にも聞いてないぞ。

それに呪いってヤバいだろっ。)


「ちょっと待ってください。意識的にやった訳じゃないんです。何か方法があるかも知れないんで探しましょうよ。」


「今さら言い訳しても無駄じゃ!貴様の犯した罪は、人一人の寿命では償いきれぬ程重いものじゃ!

貴様には『時戻りの呪い』と『堕天の呪い』をかけてやろう。記憶を無くし永遠にこの世界をさ迷うか、地獄をさ迷うか二つに一つじゃ。どちらにせよ苦しみ続けるがいい。」


『時戻りの呪い』はかけられた年齢に達すると全ての記憶や能力を無くし、一歳の年齢まで戻りこの世界のどこかに転生すると言うものだ。そしてそれを永遠に繰り返す。

本来『時戻りの呪い』は死ぬことも出来なくなる呪いなのだが、もう一つの呪いがそれを許さない。


『堕天の呪い』とは生き物の魂を輪廻転生の輪から外す呪いである。この呪いをかけられた者が死ぬと地獄をさ迷うことになり、その先に待っているのは完全な無である。


「せいぜい魔神に殺されるがいいわ!」


そう言って女神の体は大きく宙に舞い上がり、光の粒になり焼け焦げた森を元に戻した。

森を全て元に戻した後、その光の粒は一つに集まり二つの宝石がはまった腕輪に形を変えた。

腕輪は銀の台座に金で唐草模様が描かれている。そして唐草模様の一部が名乗ってもいないのにリンネと読めるようになっていた。

(此方の世界の言語で書かれていたが、何故か輪廻にも読めた。)


腕輪が一瞬消えたかと思うと次の瞬間には輪廻の左腕にはまっていた。

その腕輪はたった今腕にはめられたばかりなのに、昔からずっとつけられていたような、そして外すこともずらすことも出来ないだろうという感覚を輪廻に与えた。


こうして輪廻は最悪の組み合わせで二つの呪いをかけられることになってしまった。

そして、輪廻の意識は徐々に薄れていった。


(嘘だろ?何で俺こんな事になってるんだよ。夢なら覚めてくれー。)


そして輪廻の体は閃光に包まれていった。








そんな遠い昔の『20才の誕生日』を思い出していた輪廻の体が、ぼんやりと光に包まれた。


「もうそんな時間か。」


そう言って輪廻は、荷物をひとまとめにし部屋の外に出した。金貨や銀貨の入った巾着袋でさえも。

そして、最後に一枚のメモを置いた。メモにはこう書かれていた。


「ご自由にどうぞ。」


今身に付けている衣服とポケットに入っている小物と左腕にはまっている腕輪以外は全て部屋の外に出してしまっていた。

そうこうしているうちに、彼の体を包む光が目を開けていられないぐらいの閃光に変わった。

まばゆい閃光が治まった頃には、部屋のなかに彼の姿はどこにもなかった。




現在の輪廻の記憶にもあの女神が消え自分が閃光に包まれた後の記憶は存在しない。

輪廻本人がいなかった場面の記憶など存在する訳がない。

しかし、輪廻が消えた後の記憶を持つ者がいた。


「あの女の力を感じるな。そうか今日はあのおまけの転生の日か。」


豪華な装飾がされた手摺の上から、すぐ脇のサイドテーブルに手を伸ばしグラスを掴みながら、その男は呟いた。

そして、その男は女神が消え、輪廻が閃光に包まれた場面を思い出していた。

そう、あの女神と輪廻がやり取りしていた場所にこの男もいたのであった。



「あの女が死んだのなら、俺の当初の目的は達成した。

くくくっ。それにしても『時戻りの呪い』と『堕天の呪い』とはな。俺でもやらないぐらいひどい組合せだな。

異界の炎のおまけだったのになぁ。」


そうこの男は、女神や輪廻知らない全ての理由を理解していた。

「あの場で殺しておいても良かったがそれじゃあつまらないからな。今回の転生でも俺の前に立つことはなかったが、一体いつになることやら。」


口調とは裏腹にその男の表情は、遊び相手を待つ子供のようであった。


そして男は立ち上がり、扉の向こう側に姿を消した。

後に残されたグラスが、音もなく炎に包まれ燃え尽きた。


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