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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
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優しい嘘

作者: 雪猫
掲載日:2026/09/13


義母は嘘つきだった


いつも優しい嘘をついた


「あなたを愛してる」


「私の子どもだから」


「よく出来てる」


「あなたはいい子」


義母が自分自身に言い聞かせて、思い込んで、


自分で自分を洗脳しているかのようだった


小遣いも多くなり、都合が良いことも多いため、否定はしなかった


ただ時々、義母の目は本心を語った


私を責める、なじる目


『あなたに対してこんなに努力してるのに、なぜ慕わないの』


『なぜいい子にしないの』



『なぜ「お母さん」と呼んでくれないの』



口には一切出さなかったけれど




やがて、嘘が増えた


私に対してではなく


父に対して


実母が私を置いて逃げた原因が、


再び父に表れたから


そして、口の暴力は拳の暴力に変わった


暴力は、義母に向かい、私に向かい、また義母に向かった


お嬢様育ちの義母には耐えられそうもなかった


父は、他人に分からぬよう、証拠を残さぬよう、暴力を続けた


外では良い顔をして、決してバレないように、調子良く、良い夫・良い父を演じた


口が上手く、人を楽しませるのが何よりも好き、天然で善良


父の仮面は完璧だった。父の両親も友人も騙されていた


本当の父は卑劣で臆病で、良心はなく、


自分より弱いものへの暴力を生きがいとする


本物の屑だった



私は、父が義母と会い、結婚し、暴力が収まっていた時間の短さに、絶望した


義母と初めてあった時、私は嫌われるように努力し、


義母が父から離れるように努力したが、無駄だった


何より、父の殺意ある一瞥で、私は何も出来なくなった


いや、それよりも、私は誰かに痛みを共有してもらいたかったのかもしれない


自分だけ逃げることの出来ないこの痛みを


被害者を増やしたかったのかもしれない。なぜ自分だけが、と。


だとしたら、私は両親の子に相応しい


弱者に暴力を振るうことに生きがいを覚える父、


その父の元に血の繋がった我が子を置き去りにして自分だけ逃げた母、


その両親の子に相応しく、私も本物の屑だ



限界が近づいた、ある日の夕暮れ時


義母は、服を畳む途中で止まっていた


その頭で、ここから逃げることを必死に考えている


それは、その表情から分かる


私も何度も考えたから


だが、小学生の自分には、満足に逃げることは出来なかった



ふと、義母が私に気付く


私がそこに居たことに初めて気付いた目


一瞬のその目で、思ったことが分かった


『この子をどうしよう』


『この子も連れて行こうか』



次の瞬間、目から表情が消えた



『この子は、あの人の子』



『他人だ』



冷たい、モノを見る目だった



実母の目を思い出した




私の失望に気付いたのだろうか


自分の心にも私にも取り繕うように、その目に表情が戻り、


夕飯のリクエストを聞いてきた



「何でもいい」



本当に何でもいい


もう、どうでもよかった





それから1週間後のある夜


酔い、父が眠り続ける中


そっと隠していた荷物を持ち、


一人家を出ていこうとする物音が聞こえた



私は、


起き上がりたい気持ちを、ぐっと抑えた


起き上がって「私も連れて行って」と言いたい気持ちを、ぐっと抑えた


撥ね付けられることは分かっていたから



「なんで連れて行ってくれないの」



「私が悪い子だから? いい子にするから」



「本当の子どもだったら連れて行ってくれた?」



「なんでお母さんは私を置いて行ったの?」



「なんでお母さんは、また私を置いて行くの?」



「愛してるって言ったじゃない」



「私の子どもって言ったじゃない」



「なんで」


ぐっと抑えた



玄関のドアが静かに閉じた音がした



身体は震え、涙が後から後から溢れだした


声を出さずに泣いた



被害者を増やしたかった訳じゃない


助けてほしかった


助けてくれるかもと思った


思いたかった



だって






あんなに優しい嘘を言ってくれたから













小さな音


玄関のドアが静かに開く音がした


小さな足音が近づいてきた


私の部屋のドアが静かに開き


荷物を持った義母がそこにいた



「行くよ」





抱きついた


「お母さん」と呟いた声が


聞こえたかどうかは分からない



私の顔が涙と鼻水でぐしょぐしょだったこと


私が普段着で寝ていたこと


押し入れに荷物が隠してあったこと(中のスマホに大量の暴力の証拠が入ってる)に


驚いたようだ



私の手は、しっかりと優しく握られ


二人静かに外へ出た






道を進むが


表通りまでは明かりも少ない


外は暗く


ぼんやりとして顔も見えない




温かい手の感触を感じ、隣に気配を感じながら、


私は尋ねた




「なんで…?」



少し上から、声がした





「だって、愛してる。


私の子どもだから」










それは、優しい真実だった



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