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八十五年前のアングン まんまと戦場に行かされた件抜粋

作者: 開運満足 
掲載日:2026/08/18

ドラマを散文のように書いて能の幽玄ぽい世界を作りました。散文詩として発表します。

八十島海人と奥山紅葉が、偽装夫婦として交換船龍田丸でアングンに着き、八十島が感じたこと。

これで、興味が出たら本編もお楽しみください。

 八十島夫妻は港の憲兵事務所まで出迎えに来た軍の車に乗って、その英国人夫妻が待つ帝都物産事務所に向かう。

 

 令和時代の数週間前に八十島らがいた街、河から塔へと立ち昇る湿った空気が夕日で陽炎を作っていたスマゴトと呼ばれる街。

 その街は、多くの白いタクシーと中古バスとサイカ―が行き交い、少女たちが笑い声を立てている街だった。

 そのスマゴトは何処にもない。


 八十島の目前には八十五年前のアングンと呼ばれる街があった。


 街の主要道の路面は凸凹

 それは日英両軍の爆撃の傷跡

 まだ補修は充分でなく

 瓦礫が残り

 道路の隅のあちこちに寄せ集められ

 山となっている

 かって英軍が整備した道を

 今は日本軍が整備している

 それも急ぎの仕事と命じられ

 元はと言えば日本軍が壊したのに

 援蒋ルートの入り口だからといって

 躍起になって爆撃したのに

 それをまた日本軍が舗装している

 また連合軍が来て壊すのに

 そしてまた誰かが作り直すのだ


 戦争はいつも皮肉屋で無駄使いの浪費家


 あの日夕日を反射し

 人々の日常の雑踏と陽炎の中で

 輝いていた仏塔

 同じ仏塔が朝もやを纏っている

 その仏塔が

 東からやって来て

 日の沈まぬ王国を追い払った

 太陽の帝国の軍人たちを

 見つめている

 どこに向かうのだろう

 ザッザッ、ザッザッ

 軍靴の音

 その横を荷車を引く牛が通る

 凸凹の道にガラゴロ、ガラゴロ

 音を立てて

 その多くが荷駄を乗せている

 時に負傷者を乗せているのも通る

 多数行き来する

 日本軍の九四式自動貨車(ぐんようトラック)

 時折鹵獲した外国産が混じる

 生活のために行きかう人の道が

 軍の道と化している

 そんな軍の街中に

 突然歌声のような読経が響く

 僧侶の托鉢だ

 在家信者から施食を受けている

 すれ違う僧侶たちだけが

 性懲りなく戦乱・内乱・軍政に翻弄されるこの国で

 八十有余年後も変わらない

 僧侶たちよ

 追い求め続けているものは

 見つかったのかい

 早く見つけることを祈っているよ


 道路のあっちこっちに穴があり、あちこちで補修が行われているせいで、八十島らが乗った車も二度三度と譲り合いが必要になる。

 こちらでは牛の引く荷車の車輪が穴に落ち、三人がかりで車を引っ張り上げている。

 そのおかげで、目ざす到着点まで、思いのほかに時間がかかってしまう。


 『今さっき見えてた朝もやの中の仏塔が「四分の三世紀以上も昔」の仏塔で、「ひと月ほど前に見た」夕日の反射で金色に眩しく光っとった仏塔が「未来」の仏塔の姿なんやと思うと奇妙やな』

 街の何処からも見える仏塔を見ながら、八十島は感慨に耽る。


 また隊列とすれ違う。

 軍靴の音が、乗っている車の発動機(エンジン)音の後ろに遠ざかってゆく。


 「ひょっとしたら、あの隊列の後を追いかけな、いかんかも知れへんなあ」

 と八十島は思わず呟いた。



 令和時代の場所と寸分変わらぬ場所に帝都物産のビルがあった。今あるビルと同じ建物だ。

 ビルの前で車を降りて、荷物を受け取る。

 

 どこからか英語が聞こえる。

 現地人は現地語のほかに英語を話す人が多く、日本語はまだあまり得意ではない。

 ちょっと前まで英国の支配下だったから仕方がないだろう。


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