第1話 ショベルと狂科学者
薄暗い廃工場。鉄の匂いが立ち込めるその中心で、両陣営は対峙していた。
Dr.Jの巨大な肉体が放つ熱気を背に受けながら、助手のMr.MSは対面に立つ男を鋭い眼光で見据える。
その男、ショベル・ザ・スコップから漂う空気は、かつて知るものとは明らかに異なっていた。
底知れぬ狂気と、爆発寸前の圧迫感。
Mr.MSは低く呟いた。
「ショベさん・・・ですか」
その肌を刺すような異変を瞬時に察知したMr.MSは、即座に背後の巨漢へ声をかける。
「Jさん、ここは一旦様子を見ましょう」
だが、肉体改造の代償として知性を失った暴走重戦車に、静止の言葉など届くはずもなかった。肥大化した筋肉を軋ませ、Dr.Jは獣のような咆哮をあげる。
「ツッコンデ、ブッコロス!」
制止の声を完全に無視し、地面を爆砕しながら文字通り猪突猛進するDr.J。その背中を見送りながら、Mr.MSは深い溜息をついた。
「やれやれ、やはりこうなりますか。それではいつものプランでいきますよ。」
いつものことのように冷静に対応するMr.MS。懐からカードのようなものを放ち、Dr.Jの突撃ルートを切り開くための援護攻撃を開始した。
真正面から迫るDr.Jに、ショベル・ザ・スコップの額に青筋が浮かぶ。
その瞳にドス黒い怒りの炎が灯った。
「もしかして僕のことナメてる?」
静かに怒りを露わにするショベル。
全身から、凄まじいプレッシャーが噴き出す。
彼は襲い来るDr.Jを迎え撃つべく、両腕を大きく後ろへと引いた。
全筋肉が異常なまでに膨張し、限界まで力が溜められる。
そして、突撃してくるDr.Jに対してショベルは、その怒りを爆発させるように叫んだ。
「ダブルチーズバーガーッ!!」
前方へと凄まじい勢いで突き出された両拳が、大気を割ってDr.Jの巨大な肉体を真正面から捉えた。
あまりの質量差を覆す圧倒的な破壊力。
肉体改造で得たはずのDr.Jの巨体が、信じられないほどの勢いで後方へとあっけなく吹き飛ばされる。
「グッ、ガッ・・・」
地面に倒れ苦しみの声を漏らすDr.J。
すぐに立ち上がって再突撃しようとするが、何かが身体に貼りついてるかのようにびくともしない。
「罠・・・ですか」
Mr.MSは見えないネット状のものがいつの間にか周囲に張り巡らされていることに気付いた。焦燥に駆られたDr.Jは激しく身体を動かすがビクともしない。
その時、どこからか冷酷な嘲笑が響き渡る。
「こんな罠に引っ掛かって草」
その声の主を、Mr.MSは聞いたことがあった。
戦場において姿を見せぬ狡猾な罠師。その影を感じ取ったMr.MSは再び呟く。
「ぼのさん・・・ですか」
――BONOxⅡ。
ショベルと共に行動するその男は、決して表舞台に姿を現さない。
戦場を冷徹に見下ろし、死角から無数の罠を張り巡らせる。
獲物が自らのトラップにかかり、絶望の中で身悶えする姿を暗闇から見下ろしては嘲笑する。
極めて陰湿で冷酷な戦術家であった。
いまやDr.Jは、そのBONOxⅡが仕掛けた罠の上で、さながら蜘蛛の巣に絡まった蝶のようにもがいている。
この絶好の好機にショベル・ザ・スコップは冷酷な笑みを浮かべ、身動きの取れないDr.Jに向けて、トドメの攻撃を繰り出すべく再び身構えた。
その口から、さらなる破壊の号令が放たれる。
「ガーリックチーズソースッ!!」
身動きの取れないDr.Jに、必殺の追撃が迫る――!




