告白
こんにちは!秘伝悠々です!
これまでは、自分が物語を楽しむだけでしたが、「自分でも書きたい」「いろんな人に楽しんでもらいたい」と思うようになり、筆をとりました。
見よう見まねで、試行錯誤しながらですが、面白い作品をたくさんお届けできればと思っています!
応援よろしくお願いします!
※こちらの作品には、幼馴染目線のアナザーストーリーがあります
私は、自分の顔が好きじゃない。
丸顔で、笑うと頬の肉がぎゅっと上がって、目が小さくなる。
中学に入学して早々、男子に「アンパンマン」と呼ばれたのがとどめだった。
自分がコンプレックスに思っていたことを、的確に言語化されてしまった。
的確であるがゆえに、まだ幼かった私の心を深く傷つけた。
それ以来、前髪を伸ばし、髪で顔の輪郭を隠すようになった。
笑うときも手で顔を隠し、大きく口を開けないようにした。
男子とは距離を置くようになった。
でも一人だけ例外がいた。
幼稚園からの幼馴染だ。
家が近所で、昔からよく一緒にゲームをした。
彼も漫画やアニメが好きで、趣味が合った。
ただ彼は、私と住む世界が違った。
サッカーをしていて、シュッとしていて、いわゆるクラスの一軍だった。
そんな彼が学校で私に話しかけることはほとんどない。
―――仕方ない。
私と仲良くしていたら、彼もからかわれるかもしれない。
彼が私のせいで嫌な思いをしているのは見たくない。
―――違うな。
嫌な思いをして、私のせいだって思われたくなかった。
嫌われたくなかった。
でも、お互いの家を行き来して遊ぶのは途切れなかった。
家で遊んでいるときだけは、お互い昔と同じだった。
二人でテレビゲームをして、くだらないことで笑い合った。
私は、その時間がたまらなく好きだった。
必死に自分の気持ちを隠した。
この時間が終わってしまわないように。
そんなとき、変化が訪れた。
成長するにつれて、ホルモンのせいなのか、私の体が変わり始めた。
小学校の高学年の頃から、顔がさらに丸くなり、胸がふくらみ、腰まわりに肉がついた。
もとからインドア派だった私は、運動不足も相まって、あっという間に太った。
それで中学校に上がったとたん、冒頭の事件が起きた。
しかも、幼馴染の彼の前で。
彼が心配そうにこちらを見ているのに気づいて、余計に恥ずかしくなった。
私は縮こまってしまった。
髪をさらに伸ばし、前髪で目を隠した。
教室ではうつむいて、なるべく目立たないように過ごした。
何とか中学を卒業した後、私と彼は、同じ地元の高校に進学した。
進学校といえるほどではないが、そこそこの偏差値の学校。
校則が厳しくなかったので選んだ。
相変わらず、彼とは学校ではほとんど話さなかった。
高校に上がり、彼はサッカー部での活動がいそがしくなったらしい。
遊ぶ頻度は格段に減った。
それでも一月に一回くらいはお互いの家を行き来した。
高校二年の冬になった。
その日は久しぶりに彼の部屋でゲームをしていた。
窓の外では雪が降っている。
格闘対戦ゲームで、ステージから落ちそうなキャラクターを私が必死で復帰させているとき、彼がぽつりと言った。
「そういえば、隣のクラスのユキちゃんから告白された」
握っているコントローラーがみしりと音を立てる。
「ふーーん。………それで、どうしたの?」
「断った。」
「えっそうなの!? 隣のクラスのかわいい感じの子だったよね?」
「まあ、いい子だけど、好きってわけじゃないし、受験前だし」
「え~~もったいない。 まあ、あんたじゃ付き合ってもサッカーバカすぎてすぐ振られるか。」
「うっせぇ! そんなことないわ」
「はは。 けどじゃあ、今は付き合う気ないんだ」
「ん~~受験終わってからかな。 ……気になる人くらいは、いるんだけど」
心臓がうるさい。
私の操作していたキャラが、復帰できずにステージから落ちた。
「えっ、誰?」
「言う訳ないじゃん」
「え~~幼馴染の特権で教えてよ!」
「俺がその子に告白したら教えてやるよ」
「ケチ!」
聞きたくてたまらない気持ちを隠して、軽く返した。
けど、頭の中はぐちゃぐちゃだった。
画面には、「YOU LOSE」の表示が点滅している。
余計なお世話だ。
彼には気になる人がいる。
受験が終わったら、関係が変わってしまう。
このすばらしい時間が終わる。
猶予は、あと一年。
―――いや、猶予じゃない。
これはタイムリミットだ。
私は決めた。
痩せて、告白する。
卒業式の日に。
*****
その日から生活を変えた。
間食のお菓子をやめ、ジュースを水に変えた。
勉強の休憩中のアニメ観賞は、家の近所をウォーキングしながら見るようにした。
途中、お父さんが私のダイエットをちゃかそうとしてきた。
そして妹にシバかれていた。いい妹だ。
妹は、私とは真逆で、バスケ部のキャプテンをやるような活発な子だ。
美人で、ハキハキしていて、要領がいい。
彼女も疑うことのない一軍だ。
―――私の周りは一軍ばっかだな。
同じ遺伝子で、なぜこうも違うのか。
そんな優しい妹は、昔から「お姉ちゃん、素材はいいのにもったいない」という。
いつも信じていなかった。
昔からコツコツ努力するのは得な方だった。
個体値の厳選や、地道なレベル上げの作業で鍛えられたのだろう。
そんな私は、一年かけて、目に見えてわかるくらい脂肪を落とした。
志望校には合格した。
少しだけ、鏡を見るのが嫌じゃなくなった。
でも、髪を切るのだけは怖かった。
痩せても丸顔は変わらない。
これはもう、遺伝子に刻まれた私の運命だ。
ふふっと笑ってみた。
また、頬に肉が集まる気がした。
「そんなんでどうするの! 告白するんでしょ!」
私の決意は、妹にはとっくにバレていた。
告白するとは言ってないはずなんだが―――
「はぁぁぁしょうがないなぁ~。 じゃあ一緒に美容院行ってあげるよ。 仲良しの美容師さんができたんだ」
妹よ、コミュ力が高すぎるだろ。
卒業式の前日。
妹に付き添われて、美容院へ行った。
「さわやかすっきりショートヘアにしてください。 この人、明日告白するので!」
妹が美容師さんにハキハキと伝える。
私は恥ずかしくてうつむいていた。
「んん〜〜〜青春ね! そういうの大好きよ! おねえさんに任せなさい!」
二十代後半くらいに見える美容師さんが目を輝かせた。
カットが始まる。
長かった髪が、一束ずつ肩から落ちていく―――。
「……完成! ほんの少し茶色を入れて、明るくしてみたの。 あの学校は、女の子ならこれくらいセーフよね?」
鏡の中に、知らない人がいた。
髪だけじゃなく、眉毛も整えてもらって、顔の産毛も剃ってもらった。
特別サービスで薄い桜色のリップまで塗られている。
「肌白めだから、薄い色のリップが合うわね。……どう?」
「……正直、自分じゃないみたいです」
「お化粧覚えたらもっと化けるわよ! けどまあ、それはこれからだね。 明日は自信もって、いっておいで!」
卒業式の朝。
昨日教わったように髪をセットし、リップを引いて、準備を整える。
学校に向かう途中、いつもよりすれ違う人に顔を見られている気がする。
恥ずかしい。
顔から火が出そうだ。
教室に入り、いつもたむろしている端っこの席に向かう。
学校で数人しかいない仲良し―――三人のオタ友達が、いつものように喋っている。
今日、私が彼に告白することは、みんなに伝えてある。
近づいた私にみんながいっせいに視線を上げ、一瞬、全員が怪訝な顔をした。
それから、漫画で衝撃の展開を読んだときみたいに揃って目を見開いた。
「え!? まじで!!?」
「うぉぉぉぉぉ!!??」
「誰かと思った!!」
オタク特有のオーバーリアクション。
けどすぐ我に返ったのか、身を小さくして周囲をきょろきょろしている。
「ダイエットしてたのは知ってたけど、変わりすぎだろ。 悪魔の実でも食ったんかと思った」
「正直、さっきまで慰め会の相談してたのに………笑」
「絶対無理だけど清算するだけの儀式イベントかと思ってたよ………笑」
「おまえら人の心とかないんか!?」
もう高校生なので「おぃぃぃぃぃ!」とは言わないが、はやりのフレーズでツッコんでおく。
「ごめんって(笑) 決戦は、帰り道だっけ?」
「……うん。 昨日DM送っといた」
昨日の夜に、勇気を振り絞って送ったのだ。
彼からは、「了解」という簡素な返事だけが来ていた。
「見に行ったり野暮なこたぁしないから、頑張ってこいよ!」
「今ならいける!」
「当たってくだけろ!!」
照れるけど、ありがたい。いい友達だ。
一人だけ応援してないやつがいたけど、この際無視する。
*****
体育館の冷たいパイプ椅子に座り、名前が呼ばれるのを待つ。
順番が来たら舞台に上がり、校長先生から卒業証書を受け取る。
卒業か―――
漫画みたいな青春は送れなかったけど、友達もできて、楽しかったな。
一瞬だけ感慨に浸る。
けど、この後のことを想像し、すぐに胸がドキドキと高鳴って、呼吸が苦しくなった。
待ち合わせは、学校からの帰り道。
桜がアーチ状に連なる小路。
友達の少ない私は早々に写真を撮り終わり、
約束した小路で彼を待つことにした。
相変わらず人気者の彼は、校門の近くで見かけたときには、多くの友達に囲まれて写真を撮っていた。
約束の時間は20分後だが、あの調子だと遅れてくるかもしれないな。
私の気持ちの準備時間にはちょうど良い。
これから私は、人生で初めての告白をするのだ。
胸が痛いほどドキドキして、呼吸が早くなり、顔が火照っているのを感じる。
卒業証書の入った筒を無意味に開け閉めしてみる。
ポンッポンッという間抜けな音が鳴って、緊張を紛らわせる。
そんなことをしているうちに、彼が遠くから小走りで向かってくるのが見え、慌てて髪を整える。
「お待たせ! 待った…?」
「ううん、私も今来たところ」
「すまんな~。なかなか一人になれなくて」
「最後だもんね、みんな写真撮りたいよ。 もういいの?」
「うん、大丈夫。 また後でサイゼで会うから。」
「そっか。」
「じゃあ、帰ろう。」
「うん。」
二人とも、桜のアーチに足を踏み入れる。
なんとなく気まずいのは私だけだろうか。
「……満開だな」
「……満開だね」
「……お互い、卒業おめでとう」
「……うん、おめでとう」
やっぱり気まずい。オウム返ししかできない。
もっと話したいことがたくさんあった―――気がする。
けど、私の頭には一つのことが端から端まで占拠している。
もじもじしながら、私と彼は並木道を歩く。
ここで言わなきゃ、なんのために頑張ったのか―――。
彼の顔をチラチラ見て、目が合いそうになるたびに顔を背ける。
やっぱりかっこいいな、なんて思ってしまう。
よし、あの木まで歩いたら切出そう。
そんなしょうもない決意をした矢先、隣で彼が息を吸うのが聞こえた。
何か言われる―――。
そう思った瞬間、私は急速に自信を失った。
これまでの人生の大半を陰キャとして過ごしてきたんだ、仕方ない。
みんなが褒めてくれるから調子に乗ってたけど、やっぱり髪を切ったくらいじゃ、だめなんじゃないか。
登校中もいろんな人にジロジロ見られたし。
卒業シーズンで浮かれている痛い女に見えるのだろうか。
彼も「何こいつ卒業式になって急にイメチェンしてんだ」とか思っているのだろうか。
―――先に言わなきゃ、ダメだ。
せっかくいろんな人に助けてもらって、ここまで来たんだ。
告白もしないで振られるなんて、情けないことはできない。
私は意を決して素早く息を吸う。そして―――。
「……ずっと前から好きでした付き合ってください!!!」
オタク特有の早口でいっきに言い切って、目も合わせずに頭を下げた。
―――沈黙。
風が吹く。
桜が一枚、視界の端を落ちていく。
「……顔、上げてよ。 今日はまだ、一回も目、合ってないでしょ」
ようやく彼が言葉を発した。
言われて気づく。
彼を盗み見た回数は数え切れないが、そういえば彼と目を合わせていなかった。
顔を上げると、彼が少し困ったような顔でこちらを見ていた。
やはりだめか――――――。
―――あれ。
ワックスで固めているから、いつもと印象が違うのかと思っていた。
けど、彼も髪が短くなっている。
「……お互い、考えることは一緒だな」
「え?……それ、どういう……」
「昨日の夜にあんなDM来たら、そりゃ精一杯の準備するだろ。 けど、俺から言おうと思ってたのに、先に言われちゃったな」
……え?
「……ずっと好きだったよ。 じゃなきゃあんな頻度で遊ばないだろ、サッカー忙しかったのに……」
「いや、サッカーバカすぎて友達いないのかと……」
嘘だ。
いつもクラスの中心にいたことくらい知ってる。
恥ずかしくて、つい、ボケてしまう。
「ちゃんと友達もいるわ!」
「ならいいけど」
「……小学生のときから好きだった。 笑った顔が、たまらなく可愛くて」
嬉しくて、恥ずかしくて、泣きそうになる。
「けど、中学くらいから、あんまり笑わなくなったよな。 二人のときはそこそこ笑ってくれてたから、関係壊したくなくて……言えなかった」
「……考えること、同じだね」
「だろ?」
「うん」
「せっかく可愛いのにずっと髪で顔隠してるから……告白して、もしうまくいったら、自信つけてもらって、昔みたいにショートカットにしてって頼むつもりだったんだよ。 それも先越されちゃった」
私は夢をみているのだろうか。
私は安堵して、ドッと
安心したら、肩の力が抜けた。
それと入れ替わるように、あたたかさが胸から体中にじんわりと広がる。
チラりと彼を盗み見ると、彼は穏やかな笑みを浮かべて私を見ていた。
いつもの癖で、すぐに目を伏せ、前髪で顔を隠そうとした。
けど、もうそんな髪はない。
これからは、もう、何も隠すことはないんだ。
そう思ったとたん、私は、彼に可愛いと思ってほしくなった。
じゃあどうするのか。
決まっている。
私は、とびっきりの笑顔を彼に見せた。
「私のショート、どうだ!?」
―――少し恥ずかしいけど、もう、大丈夫。
最後まで読んでいただきありがとうございました!
リアリティを求めるなら、中学生~高校生は、こんなに物分かりがよくなかったり、もっとエグいいじめをしたり、恋愛に素直になれなかったりするんだと思います。
けど、いいんです。
物語くらい、夢がなくっちゃ!
こんな青春味わってみたかったなぁ~~
気軽にコメントをお願いします!
※本書掲載作品の無断転載を禁じます。
※転載・引用・利用等のお問い合わせは「メッセージ」機能からお願いします。




