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片翼  作者: 鮎川 拓馬
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汚く散らかった部屋の中、テレビだけがついている。

そのテレビに流れているのは、とある有名な小説が映像化されたもの。



布団の中から動く気力もない私は、虚ろな目でそれを見ている。



かつて私は、物書きを夢見ていた。

様々な賞に応募し、Web媒体にも投稿してきた。

しかし、誰からも、何からも評価されることは、ついとしてなかった。


これが人生で最後だと思って、賭ける思いで書いた物語ですら、最初の関門すら通過することができない。Web媒体にも投稿すれど、閲覧数をみれば、誰も最後まで読んでいないことは明らかであった。


『……才能が、なかったんだ』


最後にあがいて書いたその物語。一冊だけ本を作り、私はすべてのデータを削除した。

そして、すべてを地下書庫(あそこ)に置いてきた。


そうして、いい歳をしてまで抱いていた夢をあきらめ、普通の人並みの人生を手に入れようとした。

普通に就職もし、結婚もし、子も育んだ。



なのに、すべてを失った。不幸な事故だった。



『……』


最近世間で人気だという、とある物語。

タイトルもまったく違う。ストーリーもまったく違う。そのはずなのに。

どうしても、何もかもの端々に、あの物語を思い出してしまう。

あの場所に置いてきた、夢の残滓(のこりかす)の物語を。



きっと、妄想だ。そう何度も言い聞かせた。

だけど、分かるのだ、どうしたって。たとえ、どんなふうに姿を変えていようと、変わり果てていようとも、分かってしまうのだ。

引き離されてしまった子供と何十年会わずにいても、一目見ればわかってしまう親の心地が、今や理解できてしまう。


きっと、この物語の作者は、私が置いてきたあの本を、読んだのだ。



『……』


夢はあそこに捨てた。だから、捨てた自分が言うのはお門違いだと分かっている。


しかし、心のどこかで、

何もかも、すべてを失ったとしても、私が書いた物語、それだけは、

永遠に、最期まで私の傍に寄り添ってくれると、思わずとも思っていた。


だけど、ああやって、生まれ変わり輝いている姿を見れば、本当は私が生み出した物語ですら、もっと早くに、私みたいなみじめな者を見限って、輝きたかったのかと思う。

もう二度と飛べない私を置いて、大空で。


小説が自分の子供だというのなら、幸せになってね、というのが普通の親心なのだろう。

だけど。




――拝啓 ああ、見知らぬ作者さま



私は家族だった者達の遺影を抱き、ベランダの手すりに立つ。

眼前には、星一つない都会の、漆黒の闇が広がっている。



妬みなんてないと言えば嘘になる。憎しみなんてないと言えば嘘になる。

きっとあなたは生まれた時から、いずれ皆から愛される運命を約束された、祝福された身だったんでしょう。

そうでない私は、こうやって地べたをみじめに這うしかない。大空を翔るあなたを、折れた羽を背に、うらめしく見上げるしかない。



あなたはきっと今、とても幸せなんでしょうね。

ああ、



――世界はなんて、理不尽で、不平等で、残酷で、醜いのだろうか



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