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【短編小説】天網ドロップ

掲載日:2025/12/17

 鳥は飛んだ高さが高ければ高いほど、落ちた時には酷いことになるのを知っていると言う。

 燕が低く飛ぶのはそのせいだろうか。

 とにかく暇でこんなことばかり考えていたし、落ちていく最中に気を失うと言うのが嘘だと気づいた。

 つまりおれはいま絶賛落下中なのだ。

 もしかしたら不眠症の人間みたいにどこかで一瞬くらいは気を失っているのかも知れないが、少なくともいまはこうして覚醒している。

 これが覚醒している夢だとしたらそれはそれで仕方ないと思うが、取り敢えずは覚醒している前提で話を進める。



 さっきも言ったが、おれは今こうして落下している。

 どこからか?と訊かれるとアトラスだとしか言えない。

 むしろアトラス以外から落ちる奴なんているのか?そうだとしたら、とんだマヌケがいたもんだ。

 アトラスを知らない田舎者の為に説明すると、それは軌道エレベーターと言うやつで巨大なバベルの塔みたいなものだ。

 バベルの塔くらいは知っていると思うが、万が一バベルの塔も知らない無教養な人間もいると申し訳ないから説明するが、でっかい塔だ。



 そいつが完成するとそこをベースにして移動できるようになる。

 物流拠点でもあるし交流拠点でもあるし、まぁ地球規模のターミナル駅みたいなものだと思ってくれていい。

 おれはそこの工事現場で働いている。

 いや、働いていた。さっきまで。

 2095年現在こいつは未完成で、完成予定は2,150年だと言う。おれが生きている間には完成しそうにない。

 昔はサグラダなんとかと言う教会が200年とか300年かけて作られたらしいが、似たようなものだと思う。



 おれはその外壁工事中に落下した。

 運の悪い事にハーネスを付けていたカラビナが劣化していてぶっ飛んじまった。

 おまけに安全装置の天網が作動しなかった。悪いことは重なるもんだ。

 天網ってのは、でっかい投網みたいなもので誰かアホがモノを落としたり本人が落ちたりした時に使う装置だ。

 天網恢恢疎にして漏らさず、と言う故事に因んだ装置らしい。

 中華製を批判するつもりは無いが、疎にして漏らさずと言う割にはまず起動しない事には漏らさずもなにもと思う。

 思う余裕くらいはある。

 暇だからな。



 まず助からない事はわかっているんだが、飛行機の墜落とは違って家族と連絡しようにも圏外だから無理なのが悲しい。

 正確には、おれの落下中にネットワーク圏が頻繁に変わるから相手が出るタイミングでこっちの通話が切れてしまう。

 これはもう試してみたと言う事だ。

 そしてその電話はおれから数メートル先を同じ様に落下している。

 おれとスマホが同じ速度で落ちていくのは面白いが腹立たしい気持ちにもなる。

 少し控えて欲しい。

 弁えて欲しい。

 画面がチラチラ見える度に着信が増えているのも腹が立つ。


 アトラスに設置された天網が頭から落下してるおれの足元で開く。つまり間に合っていないと言うことだ。

 パラシュートの故障や不具合に関する使用者からのクレームが無い、と言う古いジョークがあるがこれもそうだろう。




 おれは墜落死するとして、ボディーカメラが生きていれば何とかなるかも知れないが、落ちた衝撃でデータごと壊れたらどうしようもない。

 それこそ飛行機じゃないのだから、そんな頑丈に作ってあるとは思えない。そもそもおれたちが仕事をサボってないか監視するのが目的の装置だ。名前は……忘れた。

 そう言えば労災は降りるんだろうか?

 妻に何か残ればいいが、今さら確認ができないのは歯がゆい。

 落下中も労働時間に含まれて欲しいが、とにかく待つしかない。



 

 それにしても高くまで来たものだ。

 最後の晩餐がチョコレートバーとコーラと言うのも考えものだ。煙草も吸っていないし、コーヒーだって飲んでおきたかった。


 そろそろかな、じゃあまたどこかで。

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