捌
とっとっと……。くすくす、くすくす。
「「「ギャアアァァ!!!」」」
「うるさっ」
俺は思わず、三馬鹿を殴った。頭を押さえて蹲っているが、大げさだ。そこまで強く殴ってない。
というか、今のは子供が走り回る音と、笑い声か。
そこまで不気味に感じなかったが、三馬鹿は顔を青くして震えていた。
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俺たちは、建物内を探していた。しかし、どこにも怪しい気配はない。
そこで俺たちは、手分けして探すことにした。
「どこなんだ……?」
「うまそう……」
「!!??」
突然聞こえた声と禍々しい気配に、俺は勢いよく振り向く。
そこには、喉が折れそうなほど細く、反対に腹が大きく膨らんだ、ぼさぼさの長い白髪の老婆がいた。その老婆は、禍々しい気配を身にまとい、空を飛び、明らかに人ではないことが分かった。
あまり恐怖の感情はわかなかったが、それでも脳が警報を鳴らす。
「うまそう……。食わせておくれ……。食わせておくれええぇぇえ!!」
「誰だ!!」
老婆は、俺に噛みつこうとしたのを、俺はとっさに右に避けた。その時、ポッケの中のお守りが熱くなったのを感じた。
「食わせろおおぉぉぉ」
「あ……」
俺は、恐怖に襲われる。醜く、大きく口を開く老婆。
黄ばんだ歯が、自分の肌に食い込む想像を、ついしてしまう。
恐怖でおののいていると、老婆は、俺に襲い掛かってきた。
その距離、たったの数cm。一体、こんな距離で何ができるのか。
もう駄目だ。そう思い、俺は目を閉じた。
「ぐおおおぉぉぉ――――…………」
「は?」
老婆に肩を掴まれたと思った途端、老婆は苦しみながら、禍々しい気配と共に消え去った。
呆気にとられながらも、俺は周囲を見る。もう、禍々しい気配を感じることはなかった。
そこに、慌ただしい足音が四つ、近づいてきているのが聞こえた。
「助手!」
「須藤!大丈夫か!?」
俺がすっかり安心していると、湊音と三馬鹿がこちらへ駆け寄ってくるのが見えた。
どうやら、禍々しい気配がしたと、急いで駆けつけてみれば、俺と老婆の声を聞きつけたらしい。
「大丈夫……。なあ、あの老婆!」
「ああ、恐らくあれがここに怪異がいない原因だろうな」
「遊園地に老婆って……」
「似合わな……」
確かに。遊園地に老婆はないわ、老婆は。
とっとっと……。くすくす、くすくす。
「「「ギャアアァァ!!!」」」
「いい加減慣れろ」
子供なら、遊園地にいてもおかしくないだろ。俺と湊音は、三馬鹿が再起動するまでしばらく待つことになった。
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「あれは、餓鬼だな」
「餓鬼?」
三馬鹿が無事再起動し、湊音は老婆の怪異について、説明を始めた。
「ああ。餓鬼は、常に飢えている怪異だ。だから、食欲に意識を乗っ取られ、考えることができない。だから、遊園地には来にくい筈。食えるほどの何かが十分に集まらないからな」
「何かってなんだよ……?」
湊音の含みのある言葉に、松山が恐怖で顔を歪める。
「本当になんでもだ。ただ、よっぽど強い餓鬼でもないかぎり、生者を食らうことはできないし、食い物以外じゃ、怪異しか食えない。遊園地には、確かに怪異は沢山いるんだが、基本群れてるから、餓鬼は太刀打ちできない」
「じゃあ、なんでここに餓鬼が……?」
湊音の口ぶりから察すると、多少死亡事故が起きたところで、餓鬼が来るとは思えない。
「誰かが連れてきたんだろうな」
湊音の言葉は、この場の静寂を支配した。三馬鹿の顔色は、とても青白かった。
「誰かって、まさか子供の……?」
「「「ギャアアアアアァァァ!!!」」」
「何で自分で言って、自分で驚いているんだよ」
勝手に自滅した三馬鹿に呆れる。どこかで、子供の笑い声がした。
ほら、怪異に笑われてんぞ。
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「な、なあ、お、俺さ、地下に向かう階段を見つけたんだよ……」
木戸が、未だに震えながら階下へと続く階段を指さす。
「ここに地下なんてないぞ……?」
「ヒッ!」
俺の言葉に、木戸はひどく怯えた。別に、そこまでビビることでもないだろ。実際、過去に戻ってる訳だし。
ここでは、あり得ないことがあっても、不思議じゃない。
「行ってみるか」
湊音の言葉に、俺たちは頷いた。
俺たちは、階段を下りる。足音が、コンクリートの空間に反射する。三階、二階、一階――。
「ある、な……」
俺たちは、一階に降り立ち、そしてその階段に先があるという事を確認した。そこは、暗くて先が見えず、そして禍々しい気配が漂っていた。
とっとっと……。くすくす、くすくす。
「「「ギャアアァァ!!!」」」
本当にいい声出すな……。俺は、もはやそんなことを考えていた。
俺たちは、誰が言うでもなく、地下への階段を下りた。
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「な、なあ、なんか、長くね?」
友永が、不安そうにつぶやく。
とっとっと……。くすくす、くすくす。
「「「ギャアアァァ!!!」」」
三馬鹿は、また大袈裟に驚いた。三人で、顔を青くして抱きしめ合ってる。
怪異含め、お前らワンパターンすぎだろ。
どう考えても、怪異に遊ばれている。
こいつら、反応いいからな……。
「空間がねじ曲がってるんだろうな」
湊音が、周囲を観察しながら、そう答える。三馬鹿の悲鳴は、完全に無視されていた。
「「「空間がねじ曲がる?」」」
「仲いいな、お前ら」
三馬鹿がハモり、俺は思わずそう言った。
「ほら、黒水晶事件。あれ、現実世界にほとんど影響なかっただろ」
湊音はそう言うが、校門の鍵が壊れていたり、水晶が割れていたりなど、結構大きい変化があった気がするが。
「確かに、家庭科室にまき散らした塩は、なかったことになってたな!」
松山の言葉に、木戸と友永は大きく頷いていた。
確かに、大きくひしゃげた校門も、鍵以外は元通りだった。
「あれは、空間がねじれていたから、起きたことだ。そもそも、ここに本来は空間がないから――」
「ここも、空間のねじれって訳か……」
俺は、湊音の続きを引き継ぎつつ、コンクリート製の壁を叩いた。確かな質感は、まるでここに実在しているように思える。
いや、実際実在しているのか。だから湊音は、実在しない筈なのに実在している、空間のねじれ、と称したのだろうし。
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