漆
「つーか、ここどこだ……?工事現場?」
「ここはな――」
かくかくしかじか。湊音が、状況を何も知らない三馬鹿に、今俺たちが陥っている状況を、説明した。
「ほほう、つまり俺たちはあの心霊スポットに来た訳だな!?」
「ああ、悪いな、色々と用事があったのに」
赤点補修なり、部活なり。こちらの勝手で呼び出してしまった。
しかし、そんな俺の謝罪に、三人はハテナを飛ばした。
「用事?別にないが?」
「というか今日、部活ない日だろ?それに、昨日の赤点補修は全員なし!ありがとな~須藤」
「え?そ、そんな訳ないだろ?今日は火曜日だぞ?」
うちの高校は、大会が近い部活を除いて、水曜日が部活休みの日だ。今日は、顧問が病欠だったから、俺が所属しているバスケ部が休みになったのだ。
「須藤こそ何言ってんだ?今日は水曜日だ。今日用事あるって言うから、別々で帰ったのに。これが用事なら、俺たちも一緒に来ればよかっただろ」
「用事……?」
友永の言葉に、俺は全く心当たりがなかった。今日が火曜日でないことも驚きだし、用事があると言って、自分だけ先に探偵事務所に来ていたのも驚きだ。
「つーか月曜、前回のテストで、俺と松山が赤点取ったからって、木戸も交えて須藤が探偵事務所で勉強、教えてくれただろ。それでこの前のテスト、赤点じゃなくて、各務がめっちゃびっくりしてたじゃねーか」
各務先生とは、俺たちの古典の教師だ。定期的に小テストを実施して、赤点を取った生徒は、後日補修する形を採っている。
赤点の常連だった松山と、比較的赤点を取りがちな友永が、赤点を回避したため、各務先生がかなり驚いた。俺は、そんな各務先生の様子に、鼻高々な気持ちになったのは、覚えている。
「覚えてないな……」
俺は、記憶を探ってみるが、今日一日のことは、全く覚えていない。
先程まで、今日は火曜日だと思っていたくらいだ。
パン!隣から突然、乾いた音が聞こえ、俺はびっくりして、そちらを見た。
その音を出した張本人である、湊音はにっこり笑って言った。
「そのことも含めて、お前らのことを教えてやる。まず助手!」
「なんですか」
俺は、満面の笑みを浮かべる湊音に、嫌な予感がした。
「そういえば須藤、お前見ないうちに髪染めたんだな……」
「は?何言ってんだ?」
「だってそれ……」
三馬鹿が、俺の頭や眼を指さす。湊音は、いたずらに成功した子供のように、笑いながら俺に鏡を渡す。俺はそんな湊音にむっとしながら、鏡を受け取って覗き込む。
そこには、透明に近い銀髪、薄水色の瞳。瞳の奥には、時計の針のような模様があり、秒針らしい針が、チクタクと動いていた。
「な、なんだこれ……!」
俺は、驚いて鏡を取り落とす。
そう言えば、俺が黄色いテープをくぐったとき、野次馬たちがより騒がしくなった。それって、急に髪の色が変わったからだったのか……。
湊音は鏡を回収して、こう言った。
「助手、俺の事務所に神棚あったの、覚えてるよな?」
「覚えてます」
「あれ、お前を祀ってるんだ」
「はい……?」
それはまるで俺が神のような。いや、俺人間だぞ?
「現人神を知ってるか?」
「分かりません!」
木戸が、元気よく手を上げる。友永と松山は、さも当然のように、頷いていた。
「この世に人間の姿で現れた神だ。その点、助手の場合は人でありながら、神になった人物、でもあるな」
「俺が……神……?」
――このイケメン何言ってんだ。そんなこと、あ、ありえないだろ。
そう言いたいが、言葉にできない。なぜなら、気にかかることがあるからだ。
そもそも神聖な気配ってなんだ。普通、神聖な気配というのを感じるのか?それは、場所にのまれているから感じるだけでは?
それに俺は、湊音の祝詞に反応していた。その感覚は今でもそうだ。
それと、あの水晶。一体、何故いきなり神聖な気配を帯びるようになったのだろうか?
というか、あれは元々呪物だ。決してお守りには使えない。
「黒水晶事件で、お前らは死んでいた。あの呪いについて覚えているな?」
「確か、人を取りこんで強くなる呪い……」
木戸が、記憶を探りながら答える。
「そう。そして、助手はかなり霊力が高い。この俺よりも、だ」
「まさか、俺を取り込んだ呪いが本格的に手を付けられないくらい強力になって、神になった、とか?」
「似たようなものだ。当時、お前は神らしき者だった。だからあの時、お前はあの場所だけで、神のような力をふるえた。その一つが、時戻しだ」
俺は、さっきのあの光景を思い出す。あれが、時戻し。そして、俺の力。
俺は、人知を超えた力を持ったことに、理解はしたが、感情が追いつかなかった。
だが、もう過去に戻った。だから、認める他ないのだろう。
「あとは、下僕に自分の力を分け与えることができる、だな。三馬鹿、なんか感じるだろ、ここに来てから」
「え、俺の下僕は三馬鹿なんですか!?」
「「「何で嫌そうなんだよ!」」」
俺の悲壮な声に、三馬鹿は声を上げた。そして湊音は、笑い転げていた。
「ともかく、今からすべきことは、被害者が来る前に、怪異を何とかすることだ」
「なんとかって……」
「ここには、どうやら呪いがかけられているらしい。と言っても、前、遊園地跡地だった時に俺が来たときには見つからなかったがな」
「「「終わった」」」
三馬鹿が早速絶望した。
「早いな。まだ、呪いが原因だって決まった訳じゃない。だから、さっさと行くぞ」
「待ってくださいよ!一体、何を調べれば……」
「そんなもん、決まってるだろ。禍々しい気配があれば、それを調べろ」
「「「分かるか!!」」」
三馬鹿は吠えた。正直、俺も同感だった。何をすればいいのか、分からない。
「お前らは、神である助手の御使いなんだから、実際見たらわかる。あ、忘れてた」
湊音は、俺が持っているのと同じお守りを、三馬鹿に渡した。
「これは?」
「あの水晶」
松山が不思議そうに聞いたから、俺は教えてあげた。三馬鹿はぎょっとしていた。俺も同じ気持ちだったから、よくわかる。
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