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廣田探偵事務所の事件簿~寂しがりやな福童子~  作者: 七海飛鳥
寂しがりやな福童子

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5/12

 中に入ったあと、スーツ姿の中年の男が俺たちの姿を認めて、歩きよってきた。


 匠眞は、その中年男に話しかける。


「長谷川さん、鑑識はもう入ってます?」

「ああ。――遺体はそのままだ。第一発見者は、署で話を聞いている」

「分かりました。ありがとうございます」

 匠眞は、中年男――長谷川に礼を言って、去ろうとしたが、長谷川は匠眞を呼び止めた。


「ところで一ノ瀬。その子供は誰だ?」

「彼は須藤直哉君。廣田の助手らしいです」

「助手、ねえ……」

 遠慮のない視線が、俺を上から下まで滑る。俺は、それが不快だった。

 どうやら、彼はそういうものを信じていないのだろう。


 少し、沈黙がこの場を支配した。


 かと思うと、突然風が吹いた。本当に、突然。

 俺には心地いい風だったが、長谷川にとっては、気持ち悪い風だったのだろう。

 大袈裟に身震いさせて、「め、迷惑をかけるなよ!」と言い捨て去ってしまった。


 俺はぽかーん、としていたが、湊音と匠眞は身を震わせて笑っていた。


「ふ、ふふ……見たか?匠眞」

「ははっ……こ、これは確かに湊音が気に入る訳だ」

「一体何の話をしているんです?」

 まるで、俺が風を起こしたような言い草だが、俺は普通の人間だ。そんな力はない。


「さあ、現場を見るか」

 湊音の言葉に、匠眞はハッとして、現場を案内する。少し歩くと、鉄の匂いがした。どうやら、死んでいるのは屋外のようだ。

 俺は、祈るような気持ちで、遺体を見る。

 そこにいたのは――。


「佐藤……じゃ、ない?」

 仮設足場が落下したのか、死んだ男子高校生の上に、足場が落ちていた。遺体はリュックを背負いながら倒れていたが、それは佐藤や坂田が持っていたリュックではなかった。


 俺は、情けないが、座り込んでしまった。ずっと、佐藤と坂田がここに忍び込んだ結果、死んでしまった、と思ってしまったからだ。

 亡くなった彼らには申し訳ないが、友人が死ななくてよかった、と思った。


「あ、制服同じだね、知り合い?」

 湊音が楽しそうに聞くのが、意味わからない。俺は、そんな湊音に言い返す気力もなく、ただ首を振って、「分からない」と答えることしかできなかった。


「男子高校生か。うつ伏せで顔が見づらいな」

「学生証で身元が割れたんだが、名前は渡部元太と代々木太一。歳は17。――知ってるか、直哉?」

「……知らないですね」

 俺は素直に言った。他クラスの奴か。


「どうやら、仮設足場が落下したことによって、頭部に鉄筋が直撃したことによる、頭頂部の陥没(かんぼつ)骨折に、脳挫滅(ざめつ)。一人は即死、もう一人も長くはもたなかったようだな。(てのひら)や肩に、(にぶ)いものでぶつかった跡があるが……恐らく、とっさに頭を庇ったからだろう」

「それだけで、警察がこの俺を呼び出す訳がないだろ?」

 俺は、匠眞の状況説明に、ついうっかりその状況を思い描いてしまい、顔を思い切りしかめた。

 

 そんな俺をお構いなしに、自信満々な口調で、匠眞に更に詳しい状況説明を求める湊音。


「ああ、仮設足場って、ボルトで固定されているだろ?」

「当然だな。もしかして、あれが外れていたのか?」

「そうだ。それに、この男子高校生以外、ここには誰も侵入していなかった」

 湊音は慣れた様子で推測を語った。もしかしたら、他の現場でも同じことがあったのかもしれない。


「それなら、俺が呼ばれるのも当然だな」

 湊音は、自分が呼ばれた理由に、かなり納得していた。



 そして、俺が不思議そうな顔をしているのに気づいたらしい湊音は、俺に分かりやすく、今の状況がどれだけあり得ないか、説明してくれた。


 仮設足場は、固定ボルトというもので固定されているらしい。

 それは、厳重に管理されており、基本緩むことはない。


 だが、管理が十分でない場合は、今回のように緩むことはある。

 この事件も、それに類するものだと思われたが、どうやら工事を中止した後も、キチンと点検を行っていたらしい。

 その点検も、昨日行ったばかりだそうだ。その時に、少し緩んでいたボルトを締め、侵入者もいなかったらしい。


「この程度人間でもできるが、そうすれば確実に気づかれるしな」 

「そう簡単にボルトは外れないし、外そうとしたら音が出る。けれど怪異なら、音もなくボルトを外すことは可能かもしれない」

 匠眞の補足で、ようやく合点がいった。


 確かに普通、上で変な音が鳴ってたら気になって上を見るだろう。

 そこで、不審な人物がいたら、逃げる。しかしそうではない、ということは、怪異の仕業の可能性がある。



 その後俺たちは、周囲を調査することにした。


 初めての死亡事故が起きている現場。

 俺は、独特な暗い空気に緊張しつつも、何かを探そうとする。


 しかし、何も見つからない。そもそも、何を見つけるのか、分からない分、当然かもしれない。


「うーん、怪異が見つからない」

「怪異が?なんでまた」

 湊音の言葉に、匠眞の顔が曇る。前も、そんなことがあって、かなり厄介な思いをしたのだろうか?



「たぶん、中にいるんじゃないか?助手、入るぞ」

「分かりました」

 俺は、湊音の声に返事をし、建物の中に入ろうとする湊音に続く。

 中は、殺風景だった。心霊スポットとして有名になったのが、案外最近だからだろうか。コンクリートで囲まれた空間には、落書きが一切見受けられなかった。


「中、結構綺麗ですね」

「そうだな。さて、怪異はどこだ?」

 湊音は、あたりをキョロキョロする。俺もそれに倣って、周りを見るが、一切そんな感じのものが見えない。


「四階に行きませんか?」

 俺は、ここに到着したばかりの時のことを思い出し、四階へ行くことを提案した。


「そうだな、各階を確認しつつ、四階へ行こう。――四という字は、死を連想させるし、もしかしたら怪異は、そこに集まっているのかもな」

「悪いな、俺、怪異は見えないから」

 匠眞は、そう言って、首の後ろをかいていた。


「別に今更だろ。ほら、この階いないから次行くぞ、次」

 湊音は、そう言って、階段へと足を運んだ。俺たちはそれに続き、二階へ上る。


 それから、三階も調査するが、結局怪異を見つけることができず、四階へと足を踏み入れた。


「ここも、特に違和感はないな」

「そうですね……。禍々しい空気は、何も感じません。――な、なんですか!」

 俺は、注意深く四階の気配に集中したが、何の収穫もなかった。湊音の方を振り向きながら、そのことを告げると、湊音が俺を凝視していることに気が付いた。


「いや、何でも。――ここか、怪異がいたという窓は」

「はい。でも、いませんね」

 あれから、それなりに時間が経ってしまっていた。いないのは、当然かもしれない。


「――いや?そうでもない。ほらここ、感じないか?」

「確かに感じます。なんだか、この世のものではない感じが……」

 直感的に感じる。禍々しい気配でもないため、見逃してしまっていたが。

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