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廣田探偵事務所の事件簿~寂しがりやな福童子~  作者: 七海飛鳥
寂しがりやな福童子

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3/12

「湊音、依頼だ――って誰だ」

 どうやら、戸を叩いていたのは生きた人間らしく、俺は恐る恐る目を開けた。

 目の前には、背の高い、スーツを着た男が立っていた。


「助手だよ」

「お前助手取り始めたのか!?昔、邪魔だからいらない、とか言って、軒並み助手志望者を断ってた奴が!?」

 男は、湊音の発言にかなり驚いていた。正直、耳元で叫ばれてうるさい。

 俺は、男を応接間セットに座らせ、しれっと距離を取ることに成功した。


「いい拾い物をしたもんだよ。その子じゃなければ、俺は助手にしなかったね」

 湊音は、コーヒーカップを片手に、男の反対側に座った。


「それもかなり気に入ってるな……。実家との軋轢(あつれき)で、人嫌いになってたのに」

 湊音とこの男は、旧知の中らしい。

 俺は二人の間で交わされる会話に、意味が分からず、戸惑うことしかできない。


 それにしても湊音が人間嫌い?いつも人をおちょくって楽しんでるのに?



「そういえば、パシリは?」

「今更ですか!?」

 俺が来てから、随分と経っていた筈だが。その証拠に、あたりが夕日に染まってきている。


「パシリもいるのか、お前……」

 男は、湊音の発言にドン引きしていた。



「木戸は先生に呼び出し食らって、友永と松山は部活です」

「お前は?」

「今日は部活休みです。――それで、この人誰ですか?依頼という言葉が聞こえましたが」

 話が進まないため、俺は話を無理やり進めることにする。



「ああ、刑事だ、そいつ」

「刑事」

 改めて見てみると、今風の若者、という印象しかない。だが、湊音と知り合いだ、という事も理解できる容姿を持っていた。この中にいると、自分がいかに凡庸な容姿の人間か、強制的に理解させられる。



「そうそう。捜査一課の刑事だよ」

 男が、柔和に笑う。刑事ドラマでしか聞かないセリフに、俺は驚く。


「それって、殺人とかを捜査する……?」

「当然だろ」

 湊音はそう言うが、普通は捜査一課の刑事と会うことなんかない。



「それで、名前は?」

「えっと、須藤直哉です」

 現役の刑事相手に、何もやましいことはないが、自然と緊張する。



「それなら直哉か。俺の名前は一ノ瀬匠眞(たくま)。匠眞と呼んでくれ」

「匠眞さん?」

「呼び捨てでいいよ。――なんか君、見覚えがあるような……」

 匠眞が目を細める。それに俺は、内心慌てた。

 なんだか、刑事に顔を覚えられているのは、あまりいい印象はないからだ。



「そりゃそうだろ。助手はあの事件の被害者だ」

「どのだよ、どの」

 そんな匠眞に面倒くさそうに、湊音は口を開いた。

 匠眞は、湊音の雑な説明に呆れていたが、俺の顔をじっと見て、あることに気づいたようだった。


「ああ、高校のか!」

 高校の……黒水晶事件、警察が出動したのか?そんな、大きな事件でもなかった気が……。


 湊音がすぐに駆け付けてきてくれたことで、すぐに終わった筈。全てが終わった後、周囲には俺たちしかいなかった筈だ。


 だから、俺は二人の会話の内容が、全く意味がわからなかった。


「それとお前、いつの間に神棚設置したんだ?」

「え?本当だ」

 今まで、気づかなかった。目立たないように設置されているため、今まで気が付かなかったらしい。

 というか、これわざとだろ。前に掃除した時、こんなのなかったし。



「まあまあ、どうでもいいだろ?それで匠眞、依頼というのは?」

 雑にはぐらかす湊音。正直、こういうところが胡散臭いのだが、言っても仕方ない。

 どうせ、教えて貰えないだろうし。


「あ、ああ、最近、話題になっている、心霊スポットがあるだろ?」

「心霊スポットなんか、常に話題にのぼるじゃないか。山の中の廃神社とか、けやき並木の坂とか。一体どこの心霊スポットなんだよ」

 さっきは、同じことを匠眞に言っていたのに。俺は、白い眼を湊音に向けるが、湊音はどこ吹く風だ。


「ここから五駅先の工事現場。あそこで死人が出た。ほとんどの確率で怪異絡みだろう。だからこれから行くぞ」

「今からかよ……」

「俺はパスで……」

 匠眞の言葉に、湊音は面倒くさそうに、俺は顔を青くして同行を拒否する。


「お前は行くの確定だ。ほら、行くぞ」

 湊音は勝手に俺の行動を決めた。


「ええー」

「手ぶらでいいから行くぞ」

 俺は仕方なく、湊音の言う事に、従うことにした。



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 俺たちは、匠眞が乗ってきたワンボックスカーで、現場まで向かっていた。

 割と遅い時間なので、家には湊音から連絡して貰った。


 湊音は、車に乗ってすぐ、スマホをいじっていたが、すぐにポッケの中に入れていた。一体、何をしていたのだろうか。



 運転手の匠眞の話によると、心霊スポットの工事現場は、どうやら佐藤が話したあの心霊スポットで合っているらしい。


 突然、そこの鉄筋が落ちて、高校生が二人死んだ、と。

 大きな音に驚き、慌てて家から出てきた、現場の近所の専業主婦が、通報したとのことだった。


 なんだか嫌な予感がした。できればその予感が外れてくれることを祈りつつ、匠眞の話にまた集中した。


「中には、その高校生二人以外は誰もいない。だから、警察は二人を事故死として見ている」

「なら、事故死じゃないのか?別に心霊スポットが本物でも、死んだ原因が怪異とは限らないだろ」

 なんだか、湊音はあまり乗り気でなかったようだが、匠眞はまったく気にした様子がない。



「できれば、最初は軽い事件が良かった」

「事件をより好むな」

「最初は、軽い方がいいだろ?」

「直哉の初陣か?なら連れていかなきゃよかったじゃないか」

「別に俺だけでもなんとかなるが、そろそろ助手らしい仕事をさせたいしな」

 意味がわからない会話。だが、俺の名前が聞こえたので、俺のことについて話していることが分かった。


「おい、直哉がついて来てないぞ。お前、全く説明してないのか?」

「追々するつもりだったんだよ」

「それ、いつまで経ってもしないやつだろ……」

 匠眞が呆れたように言うが、湊音はその言葉を無視し、持っていた小さな鞄の中を漁った。

 しばらくすると、湊音は目的の物を見つけたらしく、「あったあった」と嬉しそうに布袋を取り出した。


 俺は、それを見て驚いた。だってそこには――。

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