拾弐
「なんだこれ?」
事務所での出来事。俺と座敷童――ユキは、湊音が買い出しに行っている間の留守番をしていた。
ユキという名は、俺が付けた。座敷童は幸福を招く。だから、幸と名付けた。
俺は、ふと気になったので、神棚あたりを見ていた。
そしたら、ユキがとあるものを俺に渡した。
「マガトキの匂いがするよ?」
「俺の?」
ユキは、俺のことをマガトキと呼ぶ。俺の神としての名前が、廻禍祓大神というとは湊音談。
若干オタク気質がある松山が、俺に神としての名はないのか、と湊音に聞いた。それで教えて貰ったのだ。
ユキは禍を祓い時を操る、という側面から、禍時と呼ぶようになった。どこぞの三馬鹿とは違い、とてもセンスがある。
俺は、ユキから俺の匂いがするらしいものを受け取った。
「ぐぅっ!?」
突然の、刺すような鋭い頭痛に、俺は頭を抱えた。痛みと共に、俺の頭に流れ込んできたものがある。
「これは……」
「マガトキ、大丈夫?」
「ああ、大丈夫。――でもこれって……」
「ただいま。今日は暑いな」
湊音が帰ってきた。見ると、パタパタと手をうちわ代わりに仰いでいる。湊音は、自分をじっと見つめる俺に少し首を傾げた後、前髪をかき上げた。
「なんだ?汗も滴るイイ男ってか?」
自分で言うから、全て台無しになる気がする。
俺は、そんな湊音に呆れつつもつかみかかった。
「俺の記憶がなくなったの、湊音の所為じゃないか!!!」
「助手?どうしたんだ?」
湊音は、飄々と笑っていた。相変わらず、それがイケメンな顔に嫌味なほど似合っている。
「あれま、ついにバレちゃった感じ?」
湊音は、俺が手に持っているものを見て、自分の悪事が俺に知られたことに、気づいたようだった。
俺に流れ込んできたのは、忘れていた筈の水曜日の記憶だ。
水曜日。湊音は俺が通う高校に、呪物を置いたらしい。
高校は、俺のテリトリーらしく、俺がどんな反応をするか、試してみたらしい。
結果、俺は記憶を引き換えに、全ての呪物を浄化した。中には、特級呪物とまではいかないものの、それなりにやばいものも混ざっていた。
あの時、俺が三馬鹿に言った用事とは、湊音が高校に呪物を置いたことに、文句を言うことだったらしい。
それは三馬鹿連れてかないわ。
「結果よければ全てよし、だろ?呪物の処理、ありがとな」
「どこもよくないです」
この男、全く油断ならない。
だが、俺はもう人として生きていけなくなった。人として生きていくためには、この男に生き方というのを、教えてもらう必要がある。
正直、この男に全て任せていいものなのか……。俺の心に、そこはかとない不安が沸き起こった。
「わっ、もういたのか、須藤!」
「ユキも!」
「こんにちは」
三馬鹿がやってきた。
「どうした?」
「いや、何でもない」
湊音は、三馬鹿が来たのにもかかわらず、反応を返さない俺を、不思議に思ったのだろう。
俺はハッとして湊音から離れた。
「これ、美味そう」
「それ、来客用だから食うな。こっちを食え、こっち」
「どうせ来ないだろ」
「だからそれ、賞味期限近いだろ?依頼人が来るより前に、賞味期限が切れる」
「あ、本当だ」
「うっま」
相変わらず、騒がしい。俺は、案外この日常が好きなのかもな。
だんだん、以前の日常から離れ始めたが、戻れる訳がない。
俺たちは一度死んだ。でも、生き返って人として再び暮らせるのは、実は幸せなことなのかもしれない。
そんなことを考えつつ、俺は湊音が淹れたコーヒーを飲んだ。
「苦っ」
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Side Takuma
――少し前。
「どうした?いきなり」
湊音は、コーヒーを飲みながら向かいのソファに座り、俺がここに来た目的を問う。
「まず、報酬は振り込んだ。あとで確認してほしい」
「分かった」
俺は、賞味期限が近いお菓子をつまむ。
気心の知れた仲だからだろうが、もうちょっとお客様対応でもいいんじゃないか?気にしないけどさ。
湊音は、俺の話に興味なさげだ。それも仕方ないだろう。こう見えて、湊音はかなり稼いでいる。
彼ら――直哉たちは詳しく知らないだろうが、湊音はかなり力の強い霊能者だ。
だからこそ、こんなに立地が悪くとも依頼が来るし、依頼料をはずむ依頼人も来る。
漠然と、なんか稼いでいる、という認識くらいだろうな、あるのは。
「それで、いつから気づいてたんだ?」
俺は、湊音に聞いた。工事現場の事件に関しては、車で事の顛末を聞いていた。
「気づいてたって何に?」
「真相に。あれ、結構前から気づいていただろ?」
俺と湊音は、幼馴染だ。だからこそわかる。湊音は、結構最初から、真相に気づいていた。
「最初に気づいたのは、五年前。明らかに怪異の数が少なすぎた」
「怪異が?」
俺は驚く。五年前から気づいていたのか。
「そう。だから俺はあそこに餓鬼がいるという事は、分かっていた」
「対処はしなかったのか?」
もっともな質問だと思う。悪霊は祓うべきだ。
「別に、餓鬼単体だったらこれといって、何かある訳でもないしな。実家で祀っている神の力を、できるだけ借りたくないのもあった」
「本当に、実家のこと嫌いだな……」
「あんな堅苦しいこと、俺に強要してきたからな。無理だ無理」
相変わらずな湊音に、俺は苦笑する。
「じゃあ、座敷童は?流石に五年前は分かんなかったんだろ?」
「そうなんだが、それは過去に戻ったとき、子供の声がしたから、気づいた。そこで、大体わかったな」
「大体?」
すべてではないのか?という意味を込めて聞いた。
「予想外だったのは、別に座敷童と餓鬼は、そこまで仲良くなかったこと。座敷童は、他の怪異と餓鬼の区別がつかなかったらしい」
「そういうことか」
流石は探偵。結構早めに真相に辿り着いていた。
「じゃあなんで解決を直哉たちに任せたんだ?お前がすればよかっただろ」
「だから言っただろ?軽い事件が良かったって」
「お前……」
俺が依頼した時から、こういう展開にするのは、織り込み済みだったらしい。全ては、湊音の手のひらの上ですか。
「これで、変にパニックにならずに助手も自分が神であることを受け入れたし、パシリたちもわかっただろ。助手とパシリは、結構繋がっていることに」
「ああ、だからパシリか。直哉の力が強くなるから」
「それに、助手は優しいからな。助手は、あの呪いに呼ばれたが、パシリは助手に呼ばれたんだ」
「あの三人が、直哉にとって、かなり重要だった、という事?」
「そう。――そろそろ助手たちが来るから、もう帰れ」
湊音は、今の話を直哉たちに聞かれたくなさそうだった。急に話の腰を折り、俺を事務所から追い出した。
「さて、俺は署に戻って報告書でも書きますか」
俺は警察署に戻ることにした。
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