拾壱
「終わった……」
俺はホッとして、座り込んだ。
目を開けると、そこには匠眞がいた。
俺たちは無事、現在に戻ったらしい。
「お、帰ってきた。こんな感じなんだな。お疲れ様」
「え?誰?」
松山が匠眞の存在に気づき、目を白黒させていた。
「あ、そうか。三馬鹿は過去に戻ってから連れてきたんだったか」
「「「そうだぜ!!!」」」
三馬鹿がまたハモったところで、外でどよめきが起きた。
俺たちは窓に駆け寄り、外を見てみると、死んだ筈の高校生たちが生き返った!という声が聞こえた。
どうやら、うまく行ったようだ。
「ところで、その増えてる三人は?」
「俺のパシリ。木戸、友永、松山」
「ああ、君らが……」
匠眞は三馬鹿に気の毒そうな表情をしたが、三馬鹿は気づかなかったらしい。
「そういえば、あの長谷川って刑事はこういうの、あまり信じなさそうだったような……」
俺は、来た時のあの、訝しげな視線を思い出し、気分が悪くなった。
「ああ、あれ?単純にあの人、黒髪以外が嫌いなだけだよ」
「え?」
「昔ながらの人だから、髪染めてる人は不良とか思っているらしい。湊音も直哉も、髪の色黒じゃないからな。髪染めてる、とか思って、毛嫌いしてるのかもな」
むしろ、人一倍怪異とかそういうの、信じてるよあの人、と言う匠眞に、俺はかなり驚いた。
確かにその後、ここに来た筈のない三馬鹿に驚いていたが、おおむね好意的だった。怪異の存在に疑問視していたら、こうはならないだろう。
その長谷川の話によると、渡辺と代々木は、警察に厳重注意を受けた後、家に帰されるようだ。
そのうちここは、更地になるらしい。確かにここは危険だしな。いっそ、何もない方がいいのかもしれない。
元凶である座敷童がいなくなったとて、他の怪異が入り込んで悪さをする可能性がある。
「あ、元に戻ってる!」
木戸の言葉に、湊音は俺に鏡をくれる。鏡面を覗くと、そこには黒髪に戻った俺がいた。なんだかそれに、ひどく安心した。
座敷童は、そんな俺に驚き、興味深そうに俺の髪をいじっていた。
足が宙に浮いていることを除けば、とても子供らしい反応だった。
「あれはどうするんです?」
俺は、周囲の反応に戸惑う渡辺と代々木を指差した。
「警察の預かりになるね。一応、不法侵入だから」
「あ、確かに」
警察の匠眞の言葉に、俺は納得した。死んでも、罪は消えないもんな。
「おい、帰るぞ。送っていってやる」
湊音は、そう言って車へと向かう。匠眞は、そんな湊音に呆れていた。
「お前がどうやって送るんだよ。ペーパーのゴールドの癖に」
「お前が運転するんだろ」
「へいへい」
かくして俺たちは、座敷童と一緒に、帰路についた。
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翌日、あの死ぬ筈だった渡辺と代々木が、うちのクラスに来た。どうやら、礼を言いに来たらしい。
「ありがとな!あの時死にかけたの、助けてくれて!」
「お前は命の恩人だ!」
「言い過ぎだって……」
実際、こいつらは一回死んでいるし。死んだ人は生き返らない。
だから、湊音は彼らに、臨死体験をして気絶した、と伝えた。だから、俺は彼らにとってただの銀髪の人だ。
座敷童が見えてなかった、という事は、そういう世界に縁ができなかった、という事だと、湊音は言っていた。
俺たちは、地元のワイドショーに出ていたらしく、家に帰ってから母さんにこっぴどく叱られた。事故現場に入るなんて!と。
俺はそれを、甘んじて受け入れた。かなり心配をかけたらしいし。
途中、銀髪になったことを突っ込まれたが、光の反射とかなんとか言って、誤魔化した。
渡辺と代々木の声に、クラスメイト達は色めきだった。
「なあ、確か須藤って、昨日テレビ出てたよな!」
「うん、びっくりした」
そんな声を右から左に聞き流す。俺は、何も聞こえてない。
「それにしても、きちんと戻したんだな、髪と眼の色」
渡辺が、俺の頭を見ながら言う。確かに俺の頭は黒い。
だが、それは黒髪のかつらだ。それと黒眼のカラコンも付けている。
どうやら俺は、結界内だと神となり、髪と眼の色が変わってしまうのだ。
特に、俺が神になった場所である高校や、俺を祀っている神棚がある事務所だと、近づくだけで色が変わる。
生きにくいったらありゃしない。
だが、昨日までそんなことはなかった。
だから、抜け目ない湊音が、事前に俺の黒髪そっくりのかつらを用意してくれていてよかった。
こいつが俺のことを神にしたがな。
「戻したというか、なんかいつの間にか変わってたというか……」
「今の方がいいと思うぞ!切に……切にな!」
「じゃ、これからホームルーム始まるから!」
「待て、一体何のフォローだ!?」
俺の声も空しく、渡辺と代々木は言い逃げしていった。
訳も分からず俺は、自分の席に戻ると、そこにはにやにや笑っている、佐藤と坂田がいた。
「よっ、テレビデビューおめ」
「昨日行かなくてよかったわ」
「それは俺への当てつけか?」
俺は、佐藤と坂田を睨んだ。
二人はそう言ったものの、三馬鹿が回避した赤点補修を、急に水曜にやることになってしまい、佐藤と坂田はそれに巻き込まれた。
坂田はともかく、佐藤は普段赤点を取らないから、不思議だったが、もしかしたら俺が何かしたのかもしれない。
「「まさか~」」
佐藤と坂田は、気持ち悪い声を出した。
「あ、そう言えば、三馬鹿は、四馬鹿とか騒がなくなったな」
「ああ、そうだな」
結局、いい感じのが思いつかなかったのか、周囲から一刀両断されたのか。
座敷童パワーのお陰なのかもしれない。
だが、ずっとニヤついている佐藤と坂田がうざい。
本気で殴ろうかと迷っていると、チャイムが鳴った。
「ホームルームするぞー、席につけー」
担任の言葉に、クラスメイト達は返事をしつつ、席に移動した。
何だかんだ、一番日常が落ち着く。人の命を救うなんて事態、もう巻き込まれたくないと、切に願った。
「まず、須藤。お前、各務先生が感激してたぞ。あの三馬鹿が、全員赤点回避ってな」
「そうですか」
担任の言い回しが不穏だ。
「そこでだ。生徒指導の鬼島先生とも話し合った結果、お前を三馬鹿の世話係に任命する!」
「お断りします」
「出来高で、内申点が上がるぞ」
これは、断れないやつだ。
「はあ、わかりましたよ……」
「「「なんでそんなに嫌そうなんだよ」」」
「お、そうかそうか、それはよかった」
担任は、嬉しそうに笑った。
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