拾
「また、誰もいなくなっちゃった」
座敷童の、ぞっとするような、それでいて寂しそうな声。
その声と同時に、人間がここに入ってきた感覚がした。
それを、座敷童は感知したのだろう。はっと顔を上げた。
「パシリ!座敷童を止めろ!」
「「「分かりました!!」」」
湊音は、ハッとして三馬鹿に指示を出す。それと同時に、湊音は懐から、形代が連なったものを取り出す。
それらは意思を持っているかのように宙を舞う。そして座敷童に巻き付き、きつく締めあげる。
「ぐ……」
座敷童は、苦しそうにうめく。
「助手!高校生たちを守れ!」
「分かった!」
「いいか、助手!お前は神だ。大体のことは何でもできる!」
「待って!」
俺がこの空間から出るときに、湊音がそんなことを言った。そして、そんな俺を止めようとする、幼い少女の声。
俺は、慌ててあの長い階段を駆け上がる。なんだか、とても長く感じる。そう思って、階段の上を見てみると、出口がどんどん遠くなってないか……!?
「行かせはしない……」
声がした方をみると、そこには座敷童が空を飛んでいた。湊音が持っていた形代がちぎれている辺り、無理矢理拘束から抜け出したんだろう。
俺のものではない足音が、後ろから聞こえる。
「邪魔をするな!!」
「きゃっ」
俺は座敷童を押し退けるイメージで、そう叫ぶ。すると、何かが割れるような音がし、いつの間にか俺は一階にいた。
「よし、でた!」
俺は、すぐさま建物から外に出る。
ここに肝試しに来ていただろう、渡辺と代々木らしき高校生は、俺が建物から出てきたことに対し、驚いていた。
俺は、二人に事情を話そうと近づこうとする。
しかし、二人は警戒しているようで、俺が近づいた分、俺から距離をとる。
「おい、俺は怪しい者じゃ――」
ガシャン!
そんな、不毛な争いにしびれを切らし、口を開いたときだった。上で不穏な物音がした。
俺は、反射的に上を向くと、四階のところから、仮設足場が落ちてくる。
三馬鹿を体に巻き付けた座敷童は、下にいる俺たちを見て、にたにたと笑っていた。
「「うわあああああぁぁぁぁぁ!!!」」
二人の叫び声で、俺は駆け出す。だが、間に合わない!!
「止まれええ!!!」
渡辺と代々木は、腕で自分の頭を庇う。匠眞が言っていたあの怪我は、それが原因でついたのだろう。
俺は、二人を死なせないために、声を張り上げる。湧き上がる力を、声に込める。
だが、鉄筋は彼らの姿を、俺の視界から遮った。もうだめだ――。そう思ったが、鉄筋はそこで止まっているようだった。
――ギリギリ間に合った。
俺は、彼らの頭上すれすれで止まった鉄筋を見て、安堵した。
彼らは、いつまでも落ちてこない鉄筋を不思議に思い、上を向いた。鉄筋が、目の前で止まっているのを見て、ギョッとしている。
俺は、二人を連れて、その場から離れた。そのまま、俺はフェンスから出ようとする。ここは危険だ。一刻も早く、二人を座敷童から遠ざけないと。
「結界から出るな!!」
「!!」
三馬鹿の隣にいた湊音の声が聞こえた。俺は、思わず立ち止まる。
「お前らもこっちに来い!」
「「は、はい!」」
有無を言わさぬ湊音の声に従い、俺は二人を伴って、建物内に入ることにした。
「お前、まさか須藤直哉か?」
「は?なんで俺の名前知ってるんだ?」
他クラスだろ?三馬鹿はともかく、なんで俺?
「やっぱり……」
「まじかよ……」
二人は、何かに絶望したようだが、俺は気にせず湊音と三馬鹿がいる、四階に向かった。
「俺たちでもなんとか拘束できたぜ!」
「須藤、何かやってくれたか?」
「いや?全く?」
本当に覚えがない。
「須藤がさ、止まれ!!!って叫んだだろ!?その時、座敷童が止まったんだよ」
「あぁ……」
あれは、鉄筋を止めるためだったが、どうやら渡辺と代々木に危害を加える存在である、座敷童にも有効だったらしい。
「放せ!」
座敷童はもがくいて脱出を図ろうとするが、うまく行かないらしい。よく見ると、お札が貼ってあった。
「これで、一件落着、なのか?」
「いや、まだだ。今後、絶対にこういう事件が起きないようにしないとな……?」
「ヒッ!」
座敷童は、湊音の剣幕にカタカタ震えていた。
「お前、寂しいのか?」
俺は、湊音が言った、座敷童は寂しがりやだ、という事を思い出しながら、座敷童に問うた。
このままここでずっと一人。それは、寂しがりやらしい座敷童のことを考えると、とても可哀想だ。
確かに座敷童は人を殺したかもしれない。それは褒められるべきものではない。きちんと罪を償うべきだ。
ただ、このまま祓うのは違うと思った。
「うん……」
座敷童は悲しげにうつむいた。俺はそんな座敷童を見て、湊音に提案する。
「なあ、この座敷童、事務所に連れていくのはどうだ?」
「事務所に?まあいいが。うち座敷童いないし。先住との喧嘩の心配もないしな」
俺の提案を、湊音は了承した。
「さっきから、一体何の話をしてんだ?」
「この子、見えないのか?」
「須藤?お前一体何の話してるんだ?なんか髪染めて、カラコンも付けてるし。頭、おかしくなったのか?」
どうやら、彼らには座敷童が見えていないらしい。
「いいの……?」
「変に暴走されても困るしな」
「でも、事務所につくと、夜とか一人じゃないか?」
松山が、そんなことを言った。確かにそうだが、座敷童って、外出れるのか?
「須藤に取り憑けばいい」
「いいの!?」
「何で俺に……」
俺は渋った。当然だ。怪異に取り憑かれるとか、冗談じゃない。
だが、座敷童は嬉しそうだ。それこそ、俺が事務所に連れていくと言ったよりも。
「言い出しっぺだろ。それに須藤、座敷童に取り憑かれると、かなりいいこと続きになる」
「よし、いくらでも取り憑け」
「ひどい手の平返しだな……」
三馬鹿が何か言ったが、気にするか。
座敷童の幸運で、まずは四馬鹿の汚名を取り除く!!
湊音は、座敷童に張り付けたお札を取り、座敷童は俺に取り憑いた。
少し、体が軽くなったような感じがする。
「なんか、体が軽いな」
「元々いい怪異だからな」
俺が感想を言っていると、周囲が銀の光に包まれた。
「な、なんだ、これ……!」
周囲が段々と眩しく光り、そして目を開けていられなくなった。
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