壱
キーンコーンカーンコーン。
チャイムが鳴り、授業が終わりを告げる。
「起立、礼」
「「「「「ありがとうございました」」」」」
授業終わりの挨拶をした後、教師は教室から立ち去る。生徒たちは休憩時間で、思い思いの時間を過ごしていた。
俺――須藤直哉は今まで、普通の人生を送っていた筈が、とある事件をきっかけに、非日常に引き込まれた。
朝起きた時の窓の外、いつも乗る電車の中、机の中だったり、あるいは教室の天井。ただの道端にも、異形の存在がいる。
それらは怪異と呼ばれ、人型をしていたり、全くの異形だったり、様々だ。
「なあ須藤、結局心霊探偵ってなにすんだろうな」
「俺が知ってる訳ないだろ」
俺の席に来た木戸の言葉に、俺は若干呆れつつ返す。
木戸が言った、心霊探偵とは先日、木戸たちが起こした事件――俺たちの間では、黒水晶事件と呼ばれている――を解決に導いてくれた人物、廣田湊音がやっていることだ。
湊音は、どこか胡散臭い。湊音がやっていることと言えば、ちょっとした怪異絡みの相談と、普通の探偵のように、不倫調査やペット探しをしているくらいだった。
その中で、心霊探偵らしいことといえば、ラブホに住み憑く怪異から話を聞いたり、猫の怪異に行方不明の猫探しを手伝ってもらったり。
この前は、怪異絡みの依頼があったが、結局依頼人が亡くなり、有耶無耶になってしまった。
俺がしたことと言えば、依頼人の話を聞いただけ。
助手なんかいらないだろ、と思うくらいには、俺たちは役に立たなかった。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「おい須藤、聞きたいことがある!」
一時間目の授業が終わり、十分休憩。友永と松山は俺の席の周りを取り囲んだ。
ここに木戸がいないのは、絶賛遅刻中だからだ。
松山は、俺に突きつけるように言った。
「俺も聞きたいことがあるぞ、友永、松山」
松山の言葉に、俺は同じように返す。
「なんだよ、一体?」
「まずはお前の話から聞こうか」
松山が不思議そうな表情をするが、俺はまず松山に話を促した。
「ふふん、聞きたいか?」
「ものすごく聞きたくない」
「いいだろう、いいだろう。喜べ!俺たちはこれから、三馬鹿じゃなくて四馬鹿に――!!」
「殴るぞ貴様」
俺は握りこぶしを、馬鹿なことを言う松山に見せつけた。
三馬鹿とは、木戸、友永、松山の総称だ。遅刻や居眠り、赤点それぞれの常習犯だ。
そんな三馬鹿と一緒にされるなんて、心外だ。
「そのことについて聞きたい。俺が三馬鹿の一員って?」
「なんだ、もう出回っていたのか」
友永は、少し驚いた様子だが、俺はそれに腹が立って、げしげしと足を踏みつける。
「痛い!痛いから!」と声を上げる友永を、俺は無視する。
「誰がオカルト馬鹿だ!センスないあだ名つけんな!」
「でも、存在がオカルトじゃん」
事実なので否定できない。怪異にとって、ご馳走らしい俺は、オカルトの域に、一歩足を踏み入れているようなものだ。
だが、俺がこいつらと同類だと思われるのは癪だった。
「俺は三馬鹿の一員になりたくない!」
「でもさ、俺たちとよく絡んでんじゃん」
「ならこれから絡まない」
俺は、そう言って友永と松山をしっしっと追い払った。
「そんなこと言うなって!寂しいだろ~?」
「どうせ事務所で会うんだ。高校でまで一緒にいる必要はないだろ。というか、変なあだ名をつけられたくない」
俺はきっぱりと、縋りつこうとする友永と松山に言い切った。
「「ちぇー、ケチー」」
俺の言葉にむくれながら、友永と松山は案外素直に離れていった。
「はあ」
「最近、仲いいな、三馬鹿と」
溜息を吐いていたら、前から声がかかる。
椅子に後ろ向きに座る男子生徒は、佐藤という。俺の前の席で、黒水晶事件が起こる前から、よく話していた相手だ。
「前だって、仲はよかっただろ」
「今ほどではないだろ?」
俺は、苦い顔をした。佐藤は、そんな俺に楽しそうに笑う。
「な、しかもあいつら、須藤を加えて四馬鹿になる!とか言ってるし。本当になれば?」
友永と松山がいなくなったからなのか、前々から佐藤と一緒に話していた友人、坂田が茶化すように俺に話しかける。
坂田は、俺の右隣の男子生徒だ。一見眼鏡をかけて真面目そうだが、頭の中はさほど三馬鹿と変わらない。赤点のいつもギリギリを攻める。
本人は、スリルがあって楽しいとか言っているが、完全に俺と佐藤への負け惜しみである。
「やめてくれ」
俺は心外だ、という表情を作りながら、心の底からの本音を言った。そんな俺に、二人はゲラゲラ笑った。
「なんでさ。あいつら、いい奴らだよ?」
「それは知ってる。けど、馬鹿とは誰も言われたくないだろ」
俺は苦い顔をした。佐藤と坂田は笑いながら、「「確かに」」と言っていた。
「ところで須藤、オカルト馬鹿って何?」
「センスないよなー」と言いつつ、佐藤は聞いた。
「知らん。俺はオカルトなんか信じてない」
オカルト体験はしたが。何なら今朝も、それっぽいのを見かけたが。それでも、見えてないと言えば、見えてないのだ。
「ならさ、心霊スポット行かね?」
「はあ?」
佐藤の言葉に、俺は思わず嫌な声を上げた。だが、坂田は佐藤の提案に目を輝かせている。
「いやー、楽しそうなとこみつけちゃってさ。最近暑いだろ?地球温暖化とかで」
「行かない」
自ら危険なとこには行きたくないし、ああいう体験は三馬鹿が起こしたので十分だ。
「いいだろ?」
「面白そうじゃん」
二人は乗り気のようだが、俺は全く乗り気じゃない。絶対に行きたくない。
「なあ、どこ?その心霊スポットって」
「それはな――」
「おい、俺は行かないからな!」
俺は一人だけ、抗議の声を上げた。
「よっしゃ、間に合った!」
突然教室の戸が、ガラッと開く。
そこには、木戸がいた。息を切らしているが、その顔は達成感で満ち溢れている。
「木戸、放課後生徒指導室に来なさい」
そんな木戸に、たった一言、生徒指導の先生である鬼島先生が言った。
「うわあぁぁ!!ど、どうか情けを……!!」
しかし、そんな木戸の懇願は空しく、 鬼島先生は去っていってしまった。
「あれま、ドンマイ」
松山は、一気に絶望に叩き落とされた木戸を慰めた。
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