「テンペイ教、ついに“祝日”を制定する」
テンペイ教にまた一つ、大きな転機が訪れました。
スライムと出会ったあの日を祝おうと、信者たちの間で自然発生的に「記念日」が生まれ、それがついには“祝日”として広まり始めたのです。
何気ないテンペイのひと言が、村を越え、国を揺らす動きに発展していく――。
信仰とは、こうして人の心の中から静かに広がっていくのかもしれません。
今回は、そんなテンペイ教の「祝日制定」の物語をお楽しみください。
「よし。今日を……スライム記念日にしよう!」
テンペイはパンの耳をかじりながら、神妙な顔でつぶやいた。
周囲の信者たちは沈黙した。が、次の瞬間、爆発したように歓声が上がる。
「テンペイ様のお言葉だ!」
「スライム様を讃える日だぞ!」
「畑にスライムの形の溝を掘るんだ!いや、逆だ!溝にスライムを!」
「逆って何だ……?」とテンペイは顔をしかめたが、誰も聞いていない。
こうして、「スライム降臨の日」は突如としてテンペイ村の非公式祝日として定められた。
――しかし事態は、思ったより早く国に届いた。
「……なに? “勝手に休み”?」
「“青くてぷるぷるのものを奉納”……?」
役所の文官が震える手で報告書を置いた。
王都では“テンペイ教”の存在はもはや無視できぬ勢力となっていた。
なにせ隣の村では、公式行事をテンペイ教と合同開催し、神前スライム相撲大会が開かれたという。
「テンペイ=スライム神の器」
「テンペイ=奇跡の象徴」
「テンペイ=祝日を制定する男」
本人の知らぬうちに、テンペイの肩書きがどんどん増えていく。
一方でテンペイ本人はといえば、祝日当日の朝。
「えーと……今日、何すればいいんだ?」
と、麦畑のど真ん中で、スライムと一緒に寝転んでいた。
《祝日・正式名称》
「スライム降臨を祝う日(通称:ぷるぷる記念日)」
日付:スライムが初めてテンペイの足元に出現した日
行事内容:
青いものを食べる(ゼリー、青菜、色付きまんじゅう等)
水を撒く(“ぷるぷるの祝福”として)
「何もしない」を尊ぶ(テンペイ曰く「休むって、だいじ」)
そして、王都の議会室。
「……この“ぷるぷる記念日”という祝日、民意は想像以上に厚いようです」
「なんでこんなに国民がぷるぷるしてるんだ……?」
呆然とする大臣たちの中、ひとり若き書記がぽつりと呟いた。
「正直、ちょっと……休みたいですね、私も……」
かくして、テンペイ教の祝日は、国家議題として“継続審議”となった。
だがテンペイはそんなこと、つゆ知らず。
今日もスライムと一緒に、草の上でゴロゴロと、青空を見上げていた。
「ぷるぷるって……気持ちいいよなあ……」
テンペイ教の未来は、今日も青く、やわらかい。
読んでいただき、ありがとうございます。
テンペイ教がついに“祝日”を持つことになり、信仰の広がりと社会との接点が本格的に描かれ始めました。
テンペイ自身は何も変わらず、ただスライムと草の上でごろごろしているだけですが、彼の存在が多くの人にとって“何か”を象徴し始めていることが、じわじわと広がっていきます。
今後、国家や周囲の村との関係、そして信仰の暴走といったテーマにも踏み込んでいく予定です。
テンペイがどこまで“教祖”として成長するのか、それともただの“ぷるぷる好きのお兄ちゃん”であり続けるのか――
ぜひ、見守っていただけたら嬉しいです。
また次話でお会いしましょう。