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「祠の光、眠りへと還る」

お読みいただきありがとうございます。


55話で動き出した“祠の血脈”――


そして今回は、牙角獣人の母ガルネアの涙と、

テンペイ様の胸の紋章が、静かに物語を導いていきます。


この56話で一旦、

“覚醒前”という形で一区切りとなります。


テンペイ様たちの物語は、

次の章で新たな旅へ続いていきますので、

どうぞ最後までごゆっくりお楽しみください。



王都の空に、

静かに金色の粒が舞いはじめた。


最初に気づいたのは老魔術師レメルだった。


「……祠の“慰めの光”じゃ……

 まさか、この時代に再び見られるとは……」


兵士たちのざわめきが遠くで響き、

街はまだ緊張の色を残している。


だがその中で――

テンペイの胸元の紋章が、ふわりと淡く輝いた。


スライムが“ぷるん”と震え、テンペイの肩に寄り添う。


レオネルが眉をひそめる。



「おい……また光ってきてるぞ。

 本当に大丈夫なのか?」


テンペイは空を見上げ、柔らかく笑う。



「大丈夫だよ〜。

 ……あっちの涙が、止まったからね〜」


レオネルはため息をつく。


(なんだよそれ……説明になってないんだよ……)


それでも、

その“ふわっとした答え”に、どこか救われる自分がいた。


テンペイが誰かの涙を感じている――

その不思議な感覚が、

なぜだか“嘘じゃない”と本能が告げていた。






──同じ頃。森の奥。


土に還った小さな墓標を前に、

牙角獣人の母・ガルネアは静かに両手を合わせていた。


腕には、生き残った一人の子。


テンペイに救われた命。



「……あなたのお兄ちゃん、

 “祠の子が笑ってた”って言ってたわね……」


風が吹き抜け、

額の古き紋章が淡く光を帯びる。



ガルネアは空に向かって祈るように呟く。



「祠よ……

 どうか……この子たちの未来だけは守って……」



その涙が、土に落ちた瞬間――


ぽつりと広がる光が、

やわらかな風となって王都へと流れていく。





王都の空気が、ゆるやかに震えた。


レメルが声を上げる。



「……来たぞ。祈りの風が……!」


金色の光がテンペイの体へ

吸い寄せられるように集まり、

胸の紋章が急激に輝きを増した。


レオネルが叫ぶ。


「テンペイッ! 無理してるだろ!」


テンペイはふわっと笑う。



「……ん〜……ちょっと眠たいだけだよ〜……」


そのまま、ふらりと膝をつく。



スライムが必死に震えて、

レオネルがその体を支える。


「おいッ! しっかりしろ!」


テンペイの瞳が、すこし霞んでいく。



「……大丈夫……

 もう、泣いてる声……どこにもないから……」


レメルが息をのむ。



「これは“神眠しんみん”じゃ……!

 祠の子が覚醒する前に訪れる、深い眠り……!」



レオネルの胸がざわつく。



「覚醒……? 本気で言ってんのか……」


テンペイの体を包む金色の光が、

やわらかく脈打ち始める。



まるでテンペイを守るように。



スライムがちいさな声で鳴く。


「ぷる……」


テンペイは、眠りに落ちる寸前で――

ぽつりと、夢を語るような声で呟いた。



「……ぼくね……

 昔、“祠の中”で……

 泣いてる子を……抱きしめたことが……あるんだよ〜……」



レオネルとレメルが息を止めた。



「祠の……中だと……?」


テンペイは微笑む。



「名前……思い出せないけど……

 ずっと……泣かないでって……言ったんだ〜……」


その言葉を最後に、

テンペイの体は完全に光に包まれた。



深い眠りへと――

祠の呼び声へと――

彼は静かに還っていく。





夜空に、一筋の光が走った。


ガルネアのいる森へ。

そして、もっと遠く――

まだ見ぬ“いくつもの祠”へ。


レメルが静かに呟く。



「祠の子は……旅に出ねばならん。

 世界の“歪み”を、整えるためにな……」



レオネルは光を見つめ、

テンペイの眠る横で拳を握った。



「……行くんだろうな、テンペイ。

 だったら――俺もついてくぞ」



スライムが力いっぱい震える。



「ぷるんっ!」



テンペイは眠りながら、

穏やかな笑みを浮かべていた。



まるで――

新しい旅を夢の中で、もう歩き始めているかのように。


今回も読んでいただき、本当にありがとうございます。


テンペイ様の“深い眠り”と、

祠の光に包まれていくラストシーン。


牙角獣人の母ガルネアの祈り、

スライム、レオネル、レメル――

それぞれの想いがひとつになった回でした。



次章では、

テンペイ様の“覚醒”と“新たな旅”が中心になります。


祠の謎、古き血統、テンペイ様の正体、

そして各地に眠る“祠の子”たちの物語へ――


新章でもぜひ一緒に旅を続けてください。

どうぞよろしくお願いします。


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