「怒りの波、祈りの光」
牙角獣人の進軍によって、王都が緊張に包まれはじめます。
祠の脈動が強まり、テンペイの胸の紋章も静かに光を帯び――
ふと、テンペイは「誰かが泣いてる」と呟く。
その声の先にいるのは、あの時救われた魔物の子の“母”。
彼女の涙は、祠の光と共に夜を照らし始めます。
“怒り”と“祈り”が交差する時、世界が再び動き出す――
どうぞ、ゆっくりお楽しみください。
王都の空気がざわめいていた。
牙角獣人の進軍――その報せが届いた瞬間、
兵士たちは走り、鐘が鳴り、街は慌ただしく揺れた。
老魔術師レメルは、水晶を握りしめながら小さく呟く。
「……祠が呼んでいる……波動が、強くなっておる」
その言葉が届くより早く、
テンペイは空を見上げていた。
胸元の紋章が、ふわりと淡く光っている。
「……誰かが、泣いてる」
スライムが“ぷるんっ”と震え、テンペイの肩にしがみつく。
その震えは――祠の鼓動と同じリズムだった。
レオネルは小さくため息をつく。
「泣いてる? ……誰がだ」
テンペイは首をかしげ、ふわっと笑った。
「ん〜……わかんないけど、悲しい声だったんだ〜」
レオネルは額を押さえた。
(……まったく。俺はなんで、こんな奴の世話役なんか……)
そう心で苦笑しながらも、
彼はテンペイの隣に立つ位置を、そっと崩さない。
――どこかで分かっていたのだ。
この男の“ふわりとした笑顔”が、
やがて世界を変えることを。
――同じ夜。
森の奥。
たいまつの明かりも届かぬ、静寂の地。
ひとりの女――牙角獣人の母、ガルネアは膝をついていた。
土に還った小さな墓標の前で、
震える手を合わせ、唇を噛みしめる。
「……あなたが……いなくなって、
もう、どれくらい経つのかしらね」
声が震える。
それでも、抱きしめる腕の中には、もう一人の子がいた。
まだあどけない瞳。テンペイに救われた命。
ガルネアは、そっとその髪を撫でた。
「あなたのお兄ちゃんは……
優しい“祠の子”に助けられたって言ってたわね」
ふと、風が吹き抜ける。
額に刻まれた古き紋章が淡く光を帯びる。
「なぜ、あなたは――敵を助けたの……祠の子よ……」
その言葉は夜風に溶け、
怒りと悲しみの間を揺れていた。
「人は私たちを“魔”と呼ぶ。
牙も角も、肉も、石も奪って……それでも足りないの?」
頬を伝う涙が、土に落ちる。
ぽつり、ぽつりと地を濡らし――
その雫が、金色の光を帯びていった。
「でも……あの子は違った。
“泣かなくていいよ〜”って……笑ってたの」
小さく笑い、すぐに嗚咽へと変わる。
「どうして……どうしてそんな顔ができるの……」
額の紋章が、強く輝いた。
まるで祠の鼓動が彼女の涙に呼応するように。
遠く離れた王都――
テンペイの胸の紋章が、同じ光で淡く脈打つ。
スライムが小さく“ぷるんっ”と震えた。
テンペイは空を見上げ、静かに呟く。
「……やっぱり、誰かが泣いてる」
レオネルが苦笑する。
「……ほんとに聞こえるのか、それが」
テンペイはふわりと笑って、
「うん、たぶんね〜。でもね……泣いてる声って、すぐわかるんだ」
祠の脈動と母の涙が――ひとつに溶け合っていく。
夜空の奥で、金色の光がゆるやかに流れた。
まるで、**怒りの波の中に差し込む“祈りの光”**のように。
今回も読んでくださり、ありがとうございました。
牙角獣人族の母ガルネアと、その涙。
そしてテンペイ様が感じた“誰かの泣き声”。
ふわっとした彼の優しさの裏で、
確かに“祠の血脈”が動き始めています。
次回――
テンペイ、スライム、レオネル、
そしてガルネアの運命がひとつの“光”で結ばれる時。
「争いはいけない」という言葉が、
祈りとなり、力となる瞬間をお届けします。
どうぞ、次回もお楽しみに。




