「祠の脈動と怒りの波――牙角獣人たちの進軍」
牙角獣人たちが動き出す――。
その怒りは、夜の森を燃やし、王都を震わせる。
一方その頃、テンペイ様の胸に刻まれた紋章が、
再び淡く光を放ちはじめていた。
“祠の脈動”と“怒りの波”。
世界が静かに揺れはじめる中で、
テンペイ様は――ただ、微笑んでいた。
どうぞ、ゆっくりお楽しみください。
夜の森。
ドドドドド……ッ!
地を揺らす轟音が、森全体を震わせていた。
たいまつの炎が乱れ、闇にうごめく黒い影が幾重にも踊る。
「グルルルルル……ッ!」
「ガアアアアアアッ!」
牙角獣人たちの咆哮が重なり合い、
夜空を切り裂いた。
その叫びは、ただの怒号ではない。
血に刻まれた誓い――戦歌のごとき響きだった。
「奪われた子らのために!」
「人間どもを――許すな!」
「血と牙で償わせろ!」
たいまつが燃え上がり、赤々とした炎が夜を覆う。
ドドドドド……ッ!
地鳴りのような足音は止まらず、
森を抜け、村と町を目指して進む。
怒りの波は、もはや止められなかった――。
その咆哮が森を震わせた瞬間、
遠く離れた“古い祠”が――静かに脈動した。
金色の光が空を切り裂き、
王都の魔術研究棟に置かれた水晶球が、
森と“共鳴”するかのように赤く染まっていく。
二つの場所が、ひとつの心臓のように脈打っていた。
老魔術師レメルは、水晶をじっと見つめていた。
「……あの祠が……告げたのか」
同じ頃。
王都の広場では、人々の声がざわめいていた。
「牙角獣人が……進軍を始めたぞ!」
「村や町が襲われる……!」
恐怖に駆られた住民たちが逃げ惑い、
兵士たちは慌ただしく武具を手に取っていた。
その様子を、広場の片隅で子どもたちが見つめていた。
不安そうに唇をかみしめ、目には涙を浮かべながら――。
「魔物さん……あんなことされたから……」
小さな声が震え、悲しげな視線が兵士たちへと注がれた。
その視線に気づいた若い兵士が、一瞬だけ手を止めた。
握った槍の先が、わずかに震える。
その報せは、すぐにレオネルの耳にも届いた。
「……テンペイ様、事態は深刻です。
牙角獣人たちが動き出しました」
レオネルの表情は険しい。
しかし、テンペイはのほほんとした声で返した。
「争いごとは……よくないよ〜」
ふわっとした笑顔。
だが、その胸に浮かぶ古代の紋章が――
ほんのりと光を帯びていた。
レオネルは目を細めた。
(……彼の本心は……?)
テンペイ自身も、胸の奥に小さな葛藤を抱えていた。
“怒り”と“優しさ”が揺れるその心。
祠の脈動と牙角獣人の怒り――
二つの波が、静かに、しかし確実に王都をのみ込み始めていた。
今回も読んでくださり、ありがとうございました。
牙角獣人の怒り、王都の混乱、
そしてテンペイ様の胸に光る古代の紋章――。
争いを望まぬテンペイ様の“優しさ”と、
世界を揺るがす“眷属の力”が、
少しずつ交わりはじめています。
次回、テンペイとスライム、そしてレオネルは――
「争いはいけない」という信念を胸に、
迫りくる“怒りの波”へと立ち向かいます。
どうぞ、次回もお楽しみに。




