表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
52/56

「テンペイ様、争いごとはきらいだよ〜」

王都に広がる噂。


「魔物被害が減った」と人々は囁き、テンペイ様はますます人気者に。


けれど――

子どもたちから届いた小さな声は、

魔物の“涙”と“痛み”を伝えていました。


そして遠く離れた祠は、確かに脈動を始めています。


ゆるやかに流れる日常の中で、

確実に動き出す不穏な気配。


どうぞ、ゆっくりお楽しみください。


夜空を裂くように――


遠く離れた“古い祠”が、再び脈動した。


石壁の奥から浮かび上がる光の紋章。


その震えは、王都の塔の水晶球を赤く染め、

老魔術師レメルの瞳に鮮烈な光を映した。



「……あの祠が告げる明日。

 ならば――この者こそ……」



老人の呟きは、夜風にかき消された。

しかし、その確信だけは消えず、王都の空気に静かに滲んでいく。


 

一方その頃。


王都の裏通りを歩いていたテンペイの耳に、

子どもたちの悲鳴のような声が飛び込んできた。



「テンペイ様! 牙角獣人(がかくじゅうじん)の子どもたちが……

 いなくなっちゃったの!」


「大人たちは……殺されてたんだ……!

 牙も角も、魔力石まで……全部取られて……」



涙でぐしゃぐしゃの顔をした子どもたちが、

テンペイの袖を必死に掴んで訴える。


 

テンペイは、ふわりとした笑顔を消した。



夜風にさらされたその瞳には、

怒りの光が淡く揺れていた。



スライムが“ぷるんっ”と震える。



その小さな震えは、主の感情を映すように鋭く伝わってくる。


 

「……それはね〜……すっごく、美味しくない話だよ」


 

レオネルが横で息をのむ。


(……やはり、この男は――怒っている)


 

王都を包むざわめきの裏で、

静かな影が確実に広がり始めていた。




裏通り――。


夜の闇に包まれた細道の奥で、

木箱を積み上げた商人たちが声を潜めていた。


 

「牙角獣人の子どもも捕まえろ。

 あいつらの角と牙は高値がつく」


「大人は処分した。

 子どものほうが魔力石は純度が高いからな」


 

男たちは笑いながら、

袋に詰めた角や牙をざらざらと振って見せ合った。

硬質な音が、夜の冷気に不気味に響く。


 

その背後から――


「……それ、よくないでしょ〜」

 

ふわりとした声が落ちた。


商人たちは振り返る。


そこには、スライムを肩に乗せたテンペイが立っていた。


 

「誰だ?」


「チッ……ガキかと思ったら、王都の噂の……」


 

男たちの視線が鋭くなる。


だがテンペイは一歩も動かず、ただ笑顔を浮かべていた。


 

「牙角獣人さんはね〜……

 森で仲良く暮らしてただけなんだよ〜。

 それを傷つけるなんて……美味しくない話だね〜」


 

スライムが“ぷるんっ”と揺れ、

木箱の前に飛び乗った。


箱の中では、小さな獣人の子どもが怯えて震えていた。


 

「っ……! まだ生きてやがったのか」


「早く処分しろ!」


 

男が手を伸ばした瞬間――

テンペイの瞳から、笑顔が消えた。


 

「……やめてあげて」


 

その声音は柔らかい。

だが、裏通りの空気が凍りつくような重みを帯びていた。


 

レオネルが後ろから駆けつけ、

その光景に息をのむ。


(……これは……怒っている……!)



 

次の瞬間。


スライムが小さく光を放ち、

子どもを優しく包み込むように覆った。


傷ついた体が淡く光り、

小さな獣人は安堵の吐息を漏らす。

 

商人たちが後ずさる。



「な、なんだ……? 治ってる……?」


「馬鹿な、回復術士でもないのに……!」


 

テンペイはそっと膝をつき、子どもの頭をなでた。



「もう大丈夫だよ〜。

 泣かなくていいからね〜」


 

レオネルは固唾(かたず)をのんだ。



(……この力……やはり常人ではない。

 だが、なぜ“争い”ではなく“癒し”に使う……?)


 

テンペイはふわりと立ち上がり、

商人たちを真っ直ぐに見つめた。


 

「争いごとを作るのは、魔物さんじゃない。

 ……人族の方じゃないか〜?」


 

その言葉が裏通りに落ちた瞬間、

遠く離れた“古い祠”が、再び小さく脈動した。


 

夜空の星々が、まるで答えるように瞬いていた。



テンペイはふわっと笑い、子どもを抱き寄せるようにして言った。



「もう大丈夫〜。

 争わなくても、生きていけるんだよ〜」


 

その声に安堵したように、スライムが“ぷるんっ”と揺れた。



だが――夜の空気には、確かに別の“ざわめき”が混じっていた。



 

森の奥。


牙角獣人たちの集落では、

帰らぬ子どもたちを探し続けた親たちが、

怒りと悲しみを胸に、戦支度を始めていた。


 

「人間どもが子を奪った……」


「仲間を殺し、角と牙を売り物にした……」


「ならば、奪われたものを取り返すまでだ!」


 

燃え上がるたいまつの火が、夜空を照らす。


低い咆哮(ほうこう)が重なり合い、地響きのように響いた。


 

――牙角獣人たちの報復が始まろうとしていた。


 

その予兆を、祠はまた脈動で応えていた。



今回も読んでくださり、ありがとうございました。


テンペイ様は今日も“ふわっと”していましたが、

魔物たちを傷つける人間の行いに、

確かな“怒り”をのぞかせました。


そして、祠が脈動を始める夜――。


それは、彼が背負う存在の証かもしれません。


次回、テンペイとスライム、そしてレオネルは、

「争いはいけない」という信念を胸に、

迫り来る怒りの波へと立ち向かう。


どうぞ、次回もお楽しみに。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ