「テンペイ様、三色団子と……夜の影?」
王都で屋台を出したテンペイ様。
スライムや魔物までお手伝いして、
子どもたちと一緒に“ふわっと”甘い一日を過ごします。
でも、その夜。
石畳に響く杖の音と、
古代語の祈りが……物語を揺らし始めました。
どうぞ、ゆっくりお楽しみください。
王都の広場。
朝の光に包まれて、人々の声が弾んでいた。
「今日は団子屋台が出るらしいぞ!」
「しかも、あの“テンペイ様”が作るって!」
ざわめきの中心に、のれんを掲げた屋台がひとつ。
そこには、のほほんとした笑顔で団子を並べるテンペイの姿があった。
「はい〜、できたてだよ〜。三色団子さん、どうぞ〜」
スライムが“ぷるんっ”と跳ね、団子の皿を押し出すお手伝い。
昨日助けられた魔物までもが、のっそりと団子を運んでいる。
その様子を見て、レオネルが深くため息をついた。
「……私はいつから“世話役”になったのだ」
「え〜? レオネルが一緒にいると安心するんだよ〜」
「安心ではなく……振り回されているんだ、私は」
スライムが“ぷるんっ“と跳ねた。
レオネルがスライムに「……お前も大変だな」と呟いた。
子どもたちが次々と団子を受け取り、嬉しそうに頬張る。
テンペイはにこにこしながら説明を始めた。
「このピンクの団子はね〜、食べると心がふわっと落ち着くよ〜」
「緑は元気がでるの〜。体がぽかぽかするんだよ〜」
「白はね、なんか……みんな仲良くなれる気分になるんだ〜」
「ふざけているのか?」
レオネルが腕を組み、一本の団子を渋々受け取った。
口に入れた瞬間――表情がピクリと変わる。
「こ……これは……?」
「え? 美味しいでしょ〜?」
「いや、味もだが……体が軽い。疲労が和らぐような……。
おい、何を入れたんだ?」
テンペイは首をかしげる。
「えっとね〜……みんなが笑顔になれるように作っただけだよ〜」
「……答えになっていない……」
スライムは“ぷるんっ“と揺れた。
「……やはりお前の方が誠実だな」
子供たちが笑い、魔物も“くぅん”と喉を鳴らす。
広場は甘い匂いと笑い声に包まれた。
レオネルは小さく息を吐き、団子をもう一口食べた。
(……まったく。普通の団子にしか見えんのに……。
やはり、彼はいったい何者なんだ……?)
屋台を片づけ終えた夜。
テンペイはスライムと並んで、石畳にごろんと寝転んでいた。
夜空には無数の星。
スライムが“ぷるんっ”と揺れ、月を映すように光る。
「今日も楽しかったね〜。
みんな、団子さん喜んでくれたし〜」
そのときだった。
カン……カン……。
杖が石畳を叩く音が、静かな夜にこだました。
背後に気配が近づき、テンペイのすぐ後ろでぴたりと止まる。
かすれた声が、低く紡がれた。
「……サラ……エル……リム……」
それは、古代語の祈りの冒頭。
しかし、続きが紡がれる前に、言葉は“バチッ”と弾け、夜気に消えた。
特別な魔術の力を持たぬ者が唱えようとすれば、
その詠唱は必ず途中で砕け散る――。
テンペイは、空を見たまま、のんびりと声を投げた。
「それ……よくないでしょ〜」
スライムが小さく“ぷるんっ”と震えた。
老人――レメルは、杖を握る手に力を込めながら、
細めた瞳でテンペイを見下ろす。
(……やはり反応したか)
祠に眠る“古代の力”。
祈りの冒頭に応じることができるのは、祠の主と――その眷属のみ。
レメルは胸の奥で確信した。
「……あの祠が明日を告げる。
ならば――この者こそ……」
夜風が吹き抜け、星々が瞬いた。
ゆるやかな空気の中に、確かな予兆だけがひっそりと芽吹いていた。
テンペイはそんな彼の心配など気づきもせず、
今日もふわっと笑って、団子を手渡していた。
今回も読んでくださり、ありがとうございました〜!
屋台で三色団子を売るテンペイ様。
魔物も子供たちも楽しそうにしていて、
ほっこりする“癒しの回”でしたね。
……でも最後に、夜の杖の音。
古代語の祈り。
そして“祠の主”をめぐる、不穏な気配。
次回は、ゆるふわの奥に潜む――
世界の秘密へ、もう一歩。
「ブクマや評価で、スライムも“ぷるんっ”と大よろこび〜!」




