「テンペイ様、初めての怒り?〜魔物さんを守るよ〜」
王都で人気者になったテンペイ様。
でも、子供達から聞いた“魔物の
ツノや爪を売る人間”の話が、
今回の物語を少し違う方向へ動かしていきます。
どうぞ、ゆっくりお楽しみください。
王都の広場は、今日もにぎやかだった。
果物や布を並べる商人たちが声を張り上げ、
香辛料の匂いが風に混じって漂う。
その中を、テンペイがのんびり歩いていた。
「テンペイ様だ!」
「お花を咲かせたんだって!」
子供たちや商人たちが声を上げ、
テンペイを取り囲むように笑顔が広がる。
テンペイは首をかしげて、ふわっと笑った。
「わぁ〜……みんな元気だね〜」
スライムが“ぷるんっ”と揺れ、
子供たちの歓声がさらに弾んだ。
迎賓館に戻る途中。
レオネルが横で声を落とす。
「テンペイ。裏通りに“魔物素材”を
扱う者がいるらしい。」
「ツノや爪を並べ、闇の商売をしていると……」
テンペイは目を丸くして、ぽつりと呟いた。
「ひどいな〜……魔物さん、痛そうだよ〜」
その言葉は、柔らかい響きだった。
だが、レオネルは横顔を見て、
一瞬だけそこに――怒りの色を感じ取った。
ちょうどそのとき。
「テンペイ様!」
子供たちが駆け寄ってきた。
小さな声が震えている。
「昨日のおじさん、まだいたよ!
魔物さんのツノや爪、いっぱい並べてた!」
「魔物さんたち、どこにいったのかな……
殺しちゃったのかな……ひどいよー……」
「泣いてたみたいだったよ……」
小さな声は、広場のざわめきにかき消されそうに震えていた。
テンペイの笑顔が、ふっと消えた。
スライムが“ぷるんっ”と揺れて、
彼の膝のあたりで小さく震える。
レオネルは、息をのんだ。
(……今、彼は“怒った”のか?)
その夜。
王都の片隅――薄暗い裏通りにて。
木箱に押し込められた、
弱った魔物の影がうずくまっていた。
その横で、男たちが笑いながら
ツノや爪を値踏みしている。
「こりゃあ高く売れるぞ」
「まだ生きてる個体もいる。
利用してから処分すりゃ、もっと稼げる」
「どうせ魔物なんて、人間に害を与えるだけだ。
生きてても迷惑なんだから、売れるうちに利用しちまえばいい」
テンペイは、静かに一歩踏み出した。
「……やめてあげて」
その声は、柔らかいのに、
どこか空気を変える響きを帯びていた。
スライムが“ぷるんっ”と箱の上に飛び乗り、
中の魔物を庇うように揺れる。
男の一人が苛立って、手を伸ばした瞬間――
テンペイがその手を、そっと押さえた。
「魔物さんを……傷つけないで」
その瞬間。
遠く離れた“古い祠”が、
ごくかすかに――脈動を始めた。
誰も気づかない。
けれど、大地の底で、
確かに“何か”が動き出していた。
テンペイは、子供たちに向かって
笑顔をつくろうとした。
けれど、その瞳だけは静かに怒っていた。
「……守らなきゃね」
それは、これまでで一番、
真剣なテンペイの表情だった。
テンペイ様は今日もほんわかしていました。
でも――子供たちの小さな声に、
初めて“怒り”を見せました。
そして遠くで動き始める“古い祠”。
テンペイ様の物語は、
いよいよ穏やかさの奥に潜む、
世界の“深い部分”へと近づいていきます。
次回もどうぞ、お楽しみに!
「読んでくれてありがとう〜!
ブクマや評価で、スライムも“ぷるんっ”と大よろこび〜!」




