「“テンペイ様は、花を咲かせる”という噂が広まり始めた件」
ほんの少し、世界がざわめく。
テンペイ様の周囲に、変化の気配。
王都の奥深くで交わされる、ひそやかな対話と、
子どもたちの心の動き。
大切なものは、きっと、静かに広がっていく。
「花……?」
その子は、はにかむようにうつむいて、ぽつりと呟いた。
王都の庭園に咲いた、一輪の花を見つめながら。
「これ、前にも、見たことある気がするんだ」
テンペイは、ゆっくりとその隣に座った。
地面に手をつき、膝を折り、視線を花に合わせて。
「うん、そうだね。よく思い出してみて。
もしかしたら、大事なことだったかもしれない」
子どもは目を細めて、かすかにうなずいた。
記憶の奥のどこかで、何かがかすかに揺れている。
……雨の日、誰かの手のひら。
……小さな声で話してくれた、物語。
「忘れたくなかったのに、忘れちゃったのかな」
そう言ったその声は、どこか苦しげで、どこか優しかった。
テンペイは、少しだけ肩を寄せるようにして、言葉を重ねた。
「花ってね、風に吹かれても、踏まれても、
いつかまた咲こうとするんだ。
だからきっと、大丈夫」
その子は、花に触れないように手を伸ばし、
そっと、空をなぞった。
「あのときの空も……こんな色だった気がする」
庭園の空気は、静かに、やわらかく流れていた。
風に揺れる草の音。
鳥の羽ばたき。
テンペイは、ただそこにいた。
怒ることも、説くこともなく。
子どもは、小さく笑った。
ほんの一瞬でも、きっとそれは「種」になる。
やがて芽を出し、いつかまた咲く花のように――
「思い出すこと」って、
とてもあたたかくて、
とてもこわくて、
それでも、大切なことだと私は思っています。
テンペイ様は、言葉よりも空気で寄り添う人。
そのやさしさが、誰かの中で、ふっと息を吹き返す。
――そんな場面を描きたくて、書きました。
ここまで読んでくれて、ありがとうございます。
ブクマや評価、静かに“舞い上がるほど喜んでます”。
また次回も、どうぞよろしくお願いします。




