「テンペイ様、王都の奥でこんにちは?〜なんか、ひとりで待ってる子がいるよ〜」
テンペイ様、初めての王城での謁見を終えたあと。
今日は、王都の奥にある「王立庭園」へ。
静かで不思議な空間で、
テンペイ様はまたひとつ、小さな出会いをします。
ふわっとした笑顔のまま、
城の奥でも空気をやさしく変えていく――。
どうぞ、ゆっくり読んでいってください。
謁見を終えたテンペイは、
スライムを抱きながら王城の廊下を歩いていた。
「おしろって、迷路みたいだね〜」
横を歩くレオネルが、淡々と答える。
「ここから先は、王家の血を引く者と、
特別に許された者のみが入れる区域です」
「へ〜……おさんぽ道、ひっそりしてそう〜」
テンペイはにこにこと笑い、スライムが“ぷるんっ”と同意するように跳ねた。
やがて、広い扉が開かれた。
そこにあったのは――静かな庭園だった。
白い小道が伸び、光を反射する泉がきらきらと揺れている。
花々は淡く光り、鳥や小さな魔物が、
まるで昔からここで暮らしているかのように
羽を休めていた。
「わぁ〜……きれいだね〜」
テンペイは感嘆の声をもらし、そのまま芝生にごろんと寝転んだ。
スライムも隣で“ぷるんっ”と跳ねて、くるんと転がる。
そのとき。
木陰のほうから、かすかな視線を感じた。
「ん〜? だれかいる〜?」
そっと顔をのぞかせたのは、
まだ幼い子どもだった。
薄い金髪に、深い色の瞳。
王族か、あるいは高位魔術師の子どもだろう。
けれど、その目は少し怯えていた。
テンペイは、ふわっと手を振る。
「こんにちは〜。おさんぽ中〜?」
子どもは返事をせず、木陰に半分隠れたままじっと見ている。
スライムが“ぷるんっ”と跳ね、ゆっくりと子どものほうへ近づいた。
不思議そうに覗きこんだ子どもは、思わず小さく笑った。
「……ぷるん、ってした」
「うんうん。この子ね、ぷるん族代表〜」
テンペイもにこにこしながら、スライムの頭をなでる。
子どもは少しずつ近づいてきて、
そっとスライムに触れた。
“ぷるんっ”
その感触に、子どもの表情がふっとやわらぐ。
その様子を、庭園の外から見ていた侍女たちは目を見開いた。
「……あの子が、笑った……」
「テンペイ様とスライムのおかげ……?」
テンペイは、花の咲く小道に腰をおろし、子どもと並んだ。
「ここね〜、空が水にうつってきれいだよ〜。一緒に見よ〜」
子どもは、うなずいて泉をのぞき込む。
水面に二人と一匹の顔が並んだ。
やさしい時間が、静かに流れていく。
レオネルはその様子を少し離れた場所から見て、目を細めた。
(……あの者は、存在するだけで人の心をほぐす。
やはり、ただの旅人ではない)
夕方の光が庭園を照らすころ、テンペイは立ち上がった。
「またここで遊ぼうね〜」
子どもは、はにかんだ笑顔でうなずいた。
スライムが“ぷるんっ”と跳ね、
庭園の空気はどこまでも、やさしく揺れていた。
テンペイ様は、王都の奥でも、やっぱり笑顔でした。
出会った子どもは、ほんの少しだけ笑ってくれた。
戦わず、怒らず、ただそこにいるだけで――
空気がふわっと変わっていく。
空白IDという謎の存在は、
何も持たないのではなく、
やっぱり“何かをすでに知っている”。
次回、王都での波紋が、少しずつ大きくなっていきます。
庭園の空気はどこまでも、やさしく揺れていた。
読んでくれてありがとう〜
ブクマや評価、“ぷるんっ”と大よろこび中〜!




