「テンペイ様、森の奥で勇者と出会う?〜強さってなんだろう〜」
テンペイ様が森をのんびりお散歩していたら、
ちょっと騒がしい人たちと出会いました。
それは、自称・勇者パーティー。
だけど、彼らはテンペイ様を見て――?
今日もスライムといっしょに、
ふわっとやさしい時間を、お届けします。
森の小道を、テンペイがのんびり歩いていた。
頭の上では、スライムがちょこんと座っている。
「ね〜、スライム。
この辺り、いい空気だねぇ〜」
スライムが“ぷるんっ”と跳ねて、葉っぱの上の水をはじいた。
そのとき――
バサッ、と草むらをかき分ける音。
前方から、にぎやかな声が近づいてきた。
「おい! この先に魔物の気配がするぞ!」
「よし、俺に任せとけ!」
「むやみに突っ込むのは危険ですってば!」
現れたのは、4人のパーティーだった。
剣を背負った男、
筋肉隆々の大男、
魔法杖を持った女性、
そして、修道服姿の少女。
テンペイは、にこっと笑って手を振った。
「こんにちは〜」
すると、一行のリーダーらしき剣士が眉をひそめた。
「……ただの村人か? こんな森にひとりで?」
テンペイは、ゆるく首をかしげた。
「ぼく、テンペイっていうんだよ〜」
魔法使いの女性が、分析魔法を唱える。
「……ID確認……えっ……?
スキルなし、ステータス空白……未登録……?」
筋肉の男が爆笑する。
「おいおいおい! ステータス、空じゃねぇか!」
剣士も嘲笑気味に言う。
「戦う力ゼロの素人が、こんな森で何をしてるんだか」
僧侶の少女――ミリアだけが、テンペイをじっと見つめていた。
「……なんでだろう。
この人、ただの村人には見えない」
そのとき――
木々の間から、数体の魔物が現れた。
だが、勇者たちが構えるより早く、
魔物たちはテンペイの前に立ち、勇者たちに睨みをきかせた。
「この者に、手を出すな」
一角ウサギが、前足を踏みしめて言う。
「彼は我らに、戦わずに生きる道を教えた」
魔法使いが驚きの声を上げた。
「魔物が、人間を庇う……?」
テンペイは、落ち葉の上にちょこんと座りながら、スライムをなでた。
「ぼくね〜、戦うの苦手なんだよ〜」
「でも、“何がほしいの?”って聞いたら……魔物さんたち、ちゃんと話してくれるんだ〜」
剣士は鼻で笑い、背を向けた。
「くだらん。行くぞ」
一行が立ち去る中、
ミリアだけが名残惜しそうにテンペイを振り返った。
「……テンペイさん。
あなた、本当に“何者”なんですか?」
テンペイは、ふわっと笑って答えた。
「ぼくもね〜、まだよく知らないんだよ〜」
空は、雲ひとつない青。
森の風が、そっと髪を撫でていく。
その風に包まれるように、ミリアがぽつりとつぶやいた。
「……また、会いにきます……」
澄んだその声は、森の風とともに、
テンペイをやさしく包み込んでいった――。
お読みいただき、ありがとうございました。
今回は、ちょっぴり“勇者パーティー”が登場する回でした。
彼らにとって、テンペイ様は「弱くて、謎な存在」。
だけど――
スキルもステータスもなくても、
“信頼”という名のちからを持っている。
それが、テンペイ様の本当の強さなのかもしれません。
僧侶の少女ミリアは、何かに気づき始めています。
そして、“空白ID”の謎も、少しずつ動き出す予感……。
「今日も読んでくれてありがとう〜。
高評価もブクマも、“ぷるんっ”てうれしいな〜」
次回は――
「テンペイ様、勇者パーティーに疑われる?〜IDがないってへんなの〜」
テンペイ様をマークする動きが、
静かに、確かに動き始めます。
次回も、どうぞお楽しみに〜。