「テンペイ様、試練に向き合う?〜がんばらなくても、大丈夫〜」
テンペイ村に、ひとりの少年がやってきます。
「強くなりたい」と願い、試練を求める彼に、テンペイはどんな言葉をかけるのでしょうか?
今回のテーマは、「がんばらなくても、今日があるってすごいこと」。
テンペイと少年の、心がふわっとほどける物語です。
テンペイは、広場の木陰でスライムとごろりと寝転がっていた。
空は青く、風はすこしぬるく、今日もいい日だった。
「スライム〜、ひなたって、気持ちいいねぇ〜」
スライムはテンペイのとなりで「ぷるん」と跳ねた。
そのとき。
「テンペイ様!」
村の入り口から、大きな声がした。
見ると、ひとりの少年がこちらへまっすぐ歩いてくる。
短く切った黒髪、きりりとした目つき。
年の頃は十歳くらいだろうか。
「テンペイ様! どうか俺に試練を与えてください!」
テンペイは、ごろりと寝転がったまま、きょとんと見上げた。
「え〜……いま、いい風だったのに〜……」
少年は真剣だった。
「俺、強くなりたいんです! ここに来れば、自分を変えられるって聞いたんです!」
テンペイは少し考えるふりをしてから、言った。
「ん〜。じゃあ、とりあえず“ぷるん”って跳ねてみて〜」
「……えっ?」
「うん。スライムみたいに、やさしく〜」
少年は、混乱しながらその場で中腰になり……控えめに跳ねた。
テンペイは、にっこり。
「うん。合格〜」
「え、もう!?」
* * *
それでも少年――リクトはあきらめなかった。
「もっと本格的な修行を!」
彼は村人のために水を汲み、薪を割り、畑を手伝った。
「がんばらなきゃ意味がない!」と、ひたむきに。
テンペイは、木陰でお茶を飲みながらスライムと彼を見ていた。
「まじめだねぇ〜。でも、ちょっと疲れてそう……」
数日後、リクトはついに倒れた。
テンペイは彼の隣に座り、静かに焚き火を見つめた。
「がんばるの、悪くないけどさ〜。
がんばれないときは、がんばらなくてもいいんだよ〜」
リクトは、目を閉じたまま、小さくつぶやいた。
「……でも、何もしない自分が……こわいんです」
テンペイは、火の揺れを見つめたまま、やわらかく笑った。
「“今日ここにいる”ってだけで、けっこうすごいことなんだよ」
* * *
翌朝。
リクトはスライムと一緒に、村の子どもたちと遊んでいた。
肩の力が抜けた笑顔に、村人がぽつりとつぶやいた。
「今日はリクトくんが、一番かっこよかったなぁ」
遠くからその様子を見ていたテンペイは、空を見上げてつぶやいた。
「ね〜、スライム。“がんばらなくても”、こうして空はきれいなんだよ〜」
スライムが、やさしく“ぷるん”と跳ねた。
空は、今日もちゃんと、ふわっとしていた。
お読みいただき、ありがとうございました。
今回は、「がんばることの意味」をやさしく見つめ直す回でした。
テンペイは、努力を否定しません。
でも、「がんばれないときに、そばに誰かがいてくれること」こそが、
本当の“支え”になるのだと、伝えてくれます。
リクトのように、「何者かにならなきゃ」と焦ってしまう心。
それを、ふっとほぐしてくれるのがテンペイのやさしさです。
そして……
ここまで読んでくださったあなたへ、テンペイからも“ふわっと”ありがとう。
「高評価、うれしいなぁ〜。
でも、読んでくれただけでも、ぼくは“ぷるんっ”て喜んでるから〜」
それでももし、もうちょっとだけ応援してもいいかなって思ったら……
「そ〜っとでいいからね。
“ふわっ”と、そして“ぷるんっ”と、ブクマしてくれたら……すっごく嬉しいなぁ〜」
次回は、「村に来たお祭り屋台と、ある“変わり者の料理人”」が登場します。
食べること、楽しむこと、そして“味わうこと”。
テンペイが大切にする“ひととき”に、またふわっと寄り添ってみてください。
次回も、どうぞお楽しみに。