「テンペイ様、ブームになる?〜信仰の拡大とズレていく想い〜」
テンペイ教が、ちょっとした“ブーム”になっていた。
「ぷるん教」と呼ぶ人もいれば、
「テンペイ語録」を毎朝唱える人まで出てきたという。
テンペイはスライムと一緒に、
隣町で開かれる「テンペイまつり」を見に行くことになった。
でもそこで待っていたのは──。
「うわぁ……すっごい屋台の数……」
テンペイは、少しだけ目を丸くした。
「こちら、テンペイ様のありがたい名言ステッカー!
“寝てもいい、休んでもいい、ぷるんと生きよ”!」
「“信じなくても、そばにいればいい”アクリルスタンド、残りわずかです!」
「“ぷるん音”付きスライム香炉、ここでしか手に入りませんよ〜!」
テンペイは、ゆるゆると顔をこわばらせながら、香炉を見つめた。
スライムのような形の陶器が、“ぷる〜ん……”と鳴っている。
「……えっと。ぼく、あんな音、出したことないよ?」
スライムがテンペイの肩で、やや怒ったように震えた。
テンペイは、にぎやかな会場の片隅で、
ちょこんと座って、空を見上げた。
「……ぼく、すごいこと言ったつもり、ないんだけどなぁ」
となりで座っていた少女が、テンペイに気づいた。
「もしかして……本物の、テンペイ様?」
テンペイは小さくうなずいた。
少女は、おそるおそる聞いた。
「“信じなくても、そばにいていい”って……本当に、そう思ってますか?」
テンペイは、にっこり笑って答えた。
「うん。思ってるよ。
ぼく、信じてもらうために生きてるんじゃなくて、
ただ、“そばにいてもらえたら嬉しい”ってだけだから」
少女は黙って、涙ぐんだような笑顔を見せた。
「……なんか、忘れてた気がします。ありがとう、テンペイ様」
帰り道。
テンペイは、まつり会場を見下ろす丘で足を止めた。
「……ぼくがいなくなっても、“ぷるん”が残るなら、それでいいんだけどね〜」
スライムが、ふわりと光を受けて、静かに跳ねた。
テンペイはそれを見て、また空を見上げる。
今日の空も、ちゃんと“ふわっと”していた。
お読みいただき、ありがとうございました。
今回は「教えが一人歩きすること」と「テンペイの本心のズレ」を描きました。
テンペイは、「信じてくれてありがとう」よりも、
「そばにいてくれてありがとう」と言いたい人。
テンペイ教が有名になればなるほど、
彼の“ゆるさ”は、逆に“忘れられて”しまうのかもしれません。
でも、そんな中でも誰か一人が思い出してくれれば、
それが一番の“奇跡”なんだと思います。
次回は、テンペイの前に“迷子の女の子”が現れます。
テンペイはどう接するのか……?
「信じられなくても、大丈夫。
ただ、そばにいてくれたら、それだけで。」
次回も、どうぞお楽しみに。




