「“信者会議”はじまる。テンペイは寝てた。」
テンペイ教が広まり始めたことで、信者の中から「ちゃんとまとめたほうがいいのでは?」という声が上がりはじめます。
“教えのない教祖”にこそ、教えが必要になる――そんな矛盾が、ついに形になろうとしていました。
でも、テンペイは今日も昼寝中。
彼の“教えなさ”が、またしても議論をひっくり返します。
今回のテーマは「信仰を管理したい人」と「自然に信じていたい人」のズレ。
テンペイは相変わらず何もしていませんが、だからこそ人々が立ち止まって考える、不思議な回です。
「――第一議題。“テンペイ様の言葉”を、教えとして正式にまとめるべきかどうか!」
村の広場に、緊張した空気が漂っていた。
集まったのは、テンペイ教を信仰する人々。
布で作った即席の“教団旗”を囲み、熱心な面々が木のイスに腰かけていた。
会の中心には、茶髪をひとつ結びにした若い女性がいた。
名前はミナ・ロット。もとは薬草師の家系だが、テンペイの「そのままでいいよ」という言葉に救われ、以来熱心な信者となった人物だ。
「テンペイ様は“無理しなくていい”って言った。つまりそれは、“自然体を尊べ”という教義では?」
「でも、それを教義にしたら無理しちゃう人も出るんじゃ……?」
「いえ! 言葉を残さないと、悪用されるかもしれません!」
議論は白熱していた。
* * *
そのころテンペイは――
「……むにゃ……スライムが……スイカに……」
草むらで、スライムを枕に昼寝していた。
広場から聞こえるざわざわした声にも気づかず、
ただ気持ちよさそうに寝息を立てている。
村人のひとりがそっと近づき、耳元でささやいた。
「テンペイ様、なんか会議が始まってますよ……」
「んー……いまいいとこだったのになぁ……」
テンペイは寝ぼけ眼で起き上がり、スライムを頭に乗せたまま歩き出した。
* * *
会議場では、ちょうど過激な意見が出ていた。
「テンペイ様の“笑顔でいるのが一番だね”というお言葉を、
“笑顔の儀式”として毎朝やることにしませんか!」
「それはさすがに……」
「だって! あの言葉に救われた人がどれだけ――」
そのとき、広場のはじから、のそのそとテンペイが現れた。
「んー……あれ、なんか集まり?」
一同、言葉を失う。
スライムを頭に乗せたテンペイは、ぽりぽりと頬をかきながら言った。
「……ぼくはね。みんなが勝手に楽しんでるのが、好きなんだよ?」
それだけだった。
でも、その一言で。
会場の空気が、ふっと緩んだ。
肩に力が入っていた者たちが笑い出し、
「なんか、それでいい気がしてきたな……」と呟く声が聞こえ始める。
* * *
会議は解散した。議題はすべて“保留”となった。
そのあと、ミナはテンペイの背中を見ながらぽつりとつぶやいた。
「……そうか。“教祖様は教えない”。それが、いちばん大事なのかもしれないね」
スライムがぴょこんと跳ねて、草の上に小さく波紋を描いた。
テンペイはあくびをしながら言った。
「さーて、スライムと二度寝しよっかなー」
その日の午後、テンペイ教はまた、何ごともなかったように、平和に過ぎていった。
お読みいただき、ありがとうございました。
テンペイ教が広がるにつれて、「言葉を残したい人」と「言葉にしたくない本人」とのギャップが出てきました。
今回はそのズレを描きながらも、テンペイの“何も変わらない強さ”が光る回になりました。
“教祖様は教えない”――この不思議な教団のあり方が、今後どう揺れていくのか。
次回は、テンペイ教を外部から“まとめようとする団体”との対立が浮上する予定です。
今後とも、スライムと一緒にぷるぷるっと見守っていただけると嬉しいです。