その⑤ 記憶の箱
ゴードンはデイジーを背中に乗せて、西へ西へと飛びました。
山脈を超えると地平線の果てまで森が広がっていました。
その森の上を跳び続けていると――。
湖の中の島にそびえたつ大きなお城が見えてきました。
「きっとあれだわ」
「うん」
ゴードンは湖を飛び越えてお城の前へと降り立ちました。
デイジーを下ろして二人でお城の扉に近づきます。
すると勝手に扉が開きました。
「入って大丈夫かしら?」
「危険かもしれないね。そうだ。デイジーはここで待っていて」
「いいえ。私も一緒に行くわ。お友達でしょう?」
「ありがとう」
デイジーとゴードンはお城の中に入りました。
通路を進むとまた扉がありました。
その扉も勝手に開いたので中に入ると――。
そこは広い空間でした。
空間の四方は階段のように段々になっています。
どの段にも、一定間隔でオルゴールのような上の蓋の空いた箱が無数に置いてあります。
てとても数えきれるものではありません。
「なんとなく分かる。これ、記憶の箱だよ」
ゴードンがあたりを見渡しながら言いました。
「本当?」
「うん」
「確か記憶の箱を空ければ、あなたの記憶は戻るのよね?」
「そのはずなんだけど」
「でも、どの箱も空いているみたいだわ」
「ここには全ての人、全ての竜、全ての生き物の記憶の箱があります。箱が空いているということは、その者は記憶を呼び出せるということなのですよ」
不意に声が響きました
その直後、とても美しい女性が現れました。
「あなたは誰なの?」
「私は記憶の女神です」
記憶の女神はデイジーに微笑みながら言いました。
そしてゴードンの方を向きました。
「ゴードン。あなたの記憶の箱は、特別に私が持っています」
持ち上げた右手のひらには、閉じられた記憶の箱が乗っていました。
「これを開ければあなたの記憶は戻ります。ですが必ず後悔します。やめておきなさい」
でもゴードンは首を横に振りました。
「僕はどうしても自分の過去を知りたいんです。開けて下さい! お願いします」
ゴードンは一生懸命、記憶の女神に頼みました。
「私からもお願いします!」
デイジーも記憶の女神にお願いしました。
「いいでしょう」
記憶の女神がうなずくのを見て、デイジーとゴードンは顔を見合わせて喜びました。
「ただしデイジー。あなたは、ゴードンの記憶が戻るところを見てはなりません」
「えっ!?」
「さあ。あなたはゴードンと離れて、自分の住んでいた場所に帰るのです」
記憶の女神が左手をデイジーに向けました。
その左手がまぶしくて、デイジーは目を閉じました。
どれくらい時間が経ったでしょう。
デイジーが目を開けると、そこは自分が暮らしてきたお城でした。