その③ 砂漠の村の長老
ゴードンはデイジーを乗せて飛び続けました。
森を超えて山を越えて。
やがて下に広がる景色は砂漠になりました。
空からは太陽が照り付けてきます。
「暑いわね」
「僕は竜だから平気だけど、人間のデイジーは大変だね」
しばらくすると少し先に湖を見えました。
オアシスです。
湖のほとりには村もあります。
「デイジーはあそこで休憩してくるといいよ」
「ゴードンも一緒でしょう?」
「僕はいいよ。きっと村の人たちが怖がってしまうから」
ゴードンは高度を下げて村から少し離れた場所に降り立ちました。
「じゃあ、私が先に行って様子を見てくるわね」
デイジーは村に入りました。
砂と同じ色の建物の家が並んでいます。
砂漠の民は頭にターバンを巻いている人が多いみたい。
ラクダも飼われているようです。
その世話をしていた少年がデイジーに気付きました。
「君はどこの子?」
「私のこと、知らないの? それに恐くないの?」
「知らないし、恐くないよ」
デイジーは嬉しくなりました。
やっぱり別の国に行けばお姫様だからと恐がられることはありません。
「ちょっとお水を頂けないかしら?」
「いいよ。ご飯も食べていきなよ」
少年の家に招かれて、お水や砂のかまどで焼いたパンをごちそうになりました。
それから村の人たちが集まってきました。
デイジーを恐がることもないし、よそ者と嫌がったりもしません。
みんな親切な人たちです。
「あの、みなさん。実は私、竜の友達と一緒なの」
「へえ」
村人たちは感心したようで、怖がったりはしていません。
「ここに連れてきてもいいかしら?」
「連れて来てよ。竜を見てみたいもん」
さっきの少年が無邪気に笑いました。
村人たちもうなずいています。
でも村の長老だけは難しい顔をしています。
「お嬢ちゃん。その竜、名前はなんと言うんだね?」
「ゴードンよ」
そう聞いた途端、長老の顔色が変わりました。
「だ、駄目じゃ。ここには来させないでくれ。この通りじゃ」
長老が地面に膝をついて祈るように手を合わせました。
村人たちは不思議そうに長老を見ています。
「ごめん。この村では長老の言うことには逆らえないんだ」
少年が申し訳なさそうに言いました。
「うん。わかった。ごちそうさま」
無理にお願いすれば、みんなに迷惑が掛かってしまいます。
デイジーは村を出てゴードンの元に戻りました。
「お待たせ。ゴードン」
「休憩できた?」
「ええ。行きましょう」
デイジーは長老の様子のことは話さずに、ゴードンの背中に乗りました。