【欠損にて離れたもの】
くだらない。
虚を生み出すことしかできないこの堕ちた世界も。
そんな虚に群がる蒙昧な虫どもも。
虫どもを食い散らかす卑しくも厭らしいけだものも。
全て、総て、凡て。
普くなにもかもが、くだらない。
虚はしかし、時に眩い光を放つ。
妹もまた、そんな虚飾に魅入られた愚かな虫けらだった。
愚か者の末路など推して知るべきだろう。
実体のない輝きに憧れ。
そして踊らされ。
いつの間にか自身もまた、実体の希薄な洞に成り果てた、愚かな骸。
何かに憧れるなど、その行為そのものが、そもそも愚の骨頂であろう。
憧れるは「あくがる」が転じたもの。
理想とする物事や人物に強く心が引かれる、思い焦がれるという意味を持つ一方で、居る所を離れてふらふら彷徨う、彷徨い歩くという意味も持つ。
何かに憧れ、心酔するという行為は、自分という実体から魂を乖離させて彷徨わせる、実の伴わない挙動に過ぎないのだから、虚飾の放つ偽りの輝きに群がる虫の動きとしてはむしろ相応しいと言えるだろう。
実利に目を背け、虚ろな幻に手を伸ばした者に掴めるものなど何もない。
手にしたものなど何もなく。しかしながら、心を焦がした分だけ残った痛みを伴う焼けた痕。
それは、起こるべくして起こった結果。
愚かが故に未来を失ったに過ぎない妹。
肉親に訪れた享受すべき当然の帰結に、未だ感情に漣をたたせ、未だ拘泥しているのだから、自分の中に渦巻く情念のしつこさにはほとほと呆れ果てる。
だが、それもまた一興だと。
どうせ望むものなど端から乏しかった。
護りたいものも、護るべきものも、もはや無いに等しく。
陰鬱とした湿地から染み出る汚水が如きの怒りのみがあった。
滲むように湧き上がる感情に身を任せ、昏き妄執に耽溺することが、己の存在意義となったこと。
そこには歓びは無く、痛みは無く、輝きは無く、熱は無く、先も無い。
夢は無く、目標は無く、希望は無く、志は無く、生存の欲求すら無く。
空の青さもそよぐ風も穏やかな陽の光も命の躍動も感情の迸りも知覚できない。または、遮断していて。
その身にあるのは這いうねる虫が如きの蠢動と、刹那を貪る獣が如きの欲動と。
在るものを見ようともせず、認めもせず。
世界をそうであると決めつけて。
日々を、その枠の中に納めて卑陋な生き様を晒す己はきっと無様で醜い。
だが、良いだろう。それで良い。それで構わない。今では、それこそが自分には相応しい在り方なのではないかとさえ思う。
くだらない世界で。
くだらない行為に惑溺する。
己自身が、もっともくだらない存在だ。