ワタシは何者?
歩くたびに埃が舞う感覚、口に入る砂埃の味、ジメジメとしたコンクリートで覆われた廊下を歩いて行く。
どうしてこのような場所に居たのか?、何故こんなところがあるのか?という疑問がよぎるが、私の考えは《別のところ》に向いていた。
「…ハイテクな照明なのかしら?」
私は天井を見ながらそう言った。何故ならば最初に居た部屋同様、天井が発光していたからだ。
ただ少し違うのは自分が歩く真上が光っていること、まるで犬のように散歩をして連れて行くように一緒についてくる。
「考えても無駄ね、ひとまずは出口っぽいところまでいかなきゃ」
というものの、現状自分の存在そのものがわからないとなると疑問がどんどん溢れてくる。
自分は何歳?家族は居たのか?恋人は居たのか?
考えれば考えるほど今自分の置かれた状況が異質ということが浮き彫りになってくる。
私は立ち止まり、身体中を観察したりペタペタと触って確かめていく。
「服はワンピースのようだけどこれって私の趣味?、身長は…150ちょっとかしら?…自分じゃよくわからないわね…
」
誰に伝えるもなく私は思ったことを口にしていく。独り言は虚しく暗闇の通路の先に消えていき、どこかに反響して響いているようだった。
「髪は腰ぐらいの長さ?はぁ…なんだかうっとしいし、縛りたいわ…」
こんな状況では髪も汚れるし、もし激しく動くことになったら邪魔になるのは目に見えている。
そのまま足元を確認しようとした際に早速髪が垂れてきて視界を遮る。
少し苛立ちながらすっと髪を掻き上げた。
すると光が一瞬見えたような気がした。
「えっ?な、なに?」
左右上下に首を振って周りを確認するが特になにも見当たらない。
だが確かに違和感があり、それがすぐに異常だという確信に変わった。
「…髪が…縛られてる…?」
さっきまでうっとしいと思っていた髪が後ろで束ねられ纏められていたのだ。縛られてる付け根を触ると、ゴムなような物で縛られているようだった。
「…もう何が起こっても驚かないわ…とっくのとうに常識なんて捨ててるわ…はぁ…」
ともかく動きやすくなったことには変わりはない、ワンピースがなびかせ先ほどよりも軽快に歩いて行く。
「不思議なことが起きるけど、《光》に関しては私にとって都合の良いように働いているように感じるわ、まるで私の《意思》に反応しているかの…よう…」
ピタッと歩みを止めた。
まさかとは思うがこんな状況、常識なんてありはしない。私は自分の手を覗きこんだ。
「扉の時もそうだった、髪に触った時も…もしそうだとしたら…」
私は自分の手を見つめて、しばらくたった。何か起これと念じるように眺めていた、その時だった。
(ボゥ…)
「…やっぱり私が手で触れたことが《何か起きるきっかけ》になっているようね」
よくわからないが少なくとも私の手に不思議な力が宿っている…
記憶も何もない、頼るものがなかったこの状況のもとでこの不思議な力が何倍にも心強く感じた。
「…ふふっ、なんだか魔法使いにでもなったみたいね、記憶を無くす前も使えていたのかしら?」
私はここにきてから初めて笑った。未だに状況や自分の状態はよくわからないけど、少しずつ前に進んでいる、そんな気がした。
30分ぐらい歩いただろうか…以前出口は見えない、何度か左右に曲がったり階段を登り降りしたが部屋らしき物も見つからない。
そもそもここは地下なのだろうか?それとも建物の中なのだろうか?いずれにせよ広大な土地なのは間違いない、まるで迷路のダンジョンを彷徨っているようだ…一本道だけど。
「あ゛~‼︎つがれだぁ~‼︎いつになったら出口に出るのよ‼︎もぅ…」
ずっと歩いてき、先も見えずとうとう私はとうとう座り込んだ。壁に寄りかかり、上を見上げて休息をする。
黒い壁や床から伝わる冷たさが私の背中とお尻を冷やしていく。
「…あれ?ここってこんなに黒かったかしら?」
よく見てみると天井、壁、床が真っ黒になっていることに気がついた。
いつからだろうか?ただでさえ薄暗かったことに加え、歩くことに必死でいつから色が変わっていたのかわからなかった。
そうして辺りを観察していると遠くの方で《人の声》が聞こえたような気がした。
「‥⁉︎っ今‼︎」
耳を澄ますと今度ははっきり聞こえた。
ぶつぶつと呟くような男の人の声…
その方向、これからまた歩き出すであろうその方角に小さく白いシルエットが見えた。
「あ、あの‼︎すみません‼︎」
私は立ち上がり駆け出した。影が近づくに連れてそれは白衣を着たいかにも医者のような人間が居た。
眼鏡をかけ、項垂れるようにこちらに歩いていた。
「…くそ、なんで俺がこんな目に…大体休日まで引っ張ってくるんじゃねぇよ…そもそもあいつが…」
白衣の男は大分イライラしてた、私が近づいて行くと同時に光って迫る天井に気付き、眩しそうな様子でこちらを見てきた。
「な、何だ⁉︎誰か居るのか‼︎?」
「あ、す、すみません、私気が付いたらこんな所に、あと記憶も、その…」
私は言葉に詰まった。初めて意思疎通できそうな人に出会い、伝えたいこと聞きたいことが押し寄せ、うまく言葉にできない。
そんな私を白衣の男はゆっくりと目を細めながら見てきた。
その瞬間、男は私の首を絞めてきた。
「…え?」
急な出来事に頭が混乱する。息が出来ず徐々に苦しいという情報が頭に入っていく
苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい
痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い
何もわからずその二つのことしか考えられない。
「くっ…うぅ…」
振り解こうと男の手を掴むが丸太のような太い手が緩むことはなかった。
「はっ!なっ、なんでおまえがここにいる‼︎閉じ込めたのはお前か‼︎早く俺を解放しろっ‼︎今すぐに‼︎」
ギリギリと首を絞める力が強くなる。血走った目、腕に浮かび上がる血管、あぁ、この人は私を⬛︎そうとしてるんだ。
そう思った、⬛︎ぬ、なんで?わからない…
何も考えられない…
もう駄目…と思った。このままなにもわからず、何も知らないところで…
ふと男の手が緩んだ
「げほっ‼︎けほっ…ぅぅ…」
突然苦しさから解放され、咽せながらも酸素を求めて呼吸を開始する。
助かった。ただそれだけしか考えられなかった、倒れ伏せ冷たい床の感触に触れ自分が生きていることを確かめる…
「はぁ…はぁ…」
落ち着いてくると男の様子が目に入った。
男は苦しんでいる様子で悲鳴をあげていた。
「があ゛ぁ゛ぁ゛‼︎熱いっ!!あ゛あ゛‼︎」
男の手を見ると私が触れた箇所が酷くただれて煙を上げている。
私がやったの?
私の不思議な力?
あんなに苦しそうにさせてるの?
あんな…
「あ…ごめ…な…ぃ」
言葉にもならない掠れた声で謝罪しようもその声は男に届かない。
苦しみながら男はもがいているとグイッと《見えない何か》に掴まれた
「ヒッ⁉︎なんだ⁉︎や、やめろぉ‼︎」
男はそう言い放つも猛スピードで見えない何かに引きづられていく。
(ズズズズズズズズズ)
白衣が床に擦れる音だけが暗闇の向こうから聞こえてくる。次第に音は遠ざかり、そして何も聞こえなくなった。
再び静寂が訪れた。
「…何?…いったいなんなのよ…いったい…ぅっ」
自然と涙がこぼれ落ちる。
初めて人に会えたと思いきや殺されかけ、その男は不思議な力で手を焼かれ、引きづられていった。
私のせい?私がやったの?あんな酷いことを。
「ふぇ…うぇーん、グスッ、ぅゔ、」
私はもう限界だった、涙と一緒に感情が止まらない、溢れてだしてくる。
もう嫌、助けて、誰か助けてよ。
涙かボロボロとこぼれ落ちる、《すると誰かに頭を撫でられた》。
「…え?」
ふと見上げるとそこには
ペンギンが居た
「へっ?」
ここまで多くの理解不能なことが起きたが、これはさらによくわからなかった。
え?ペンギン?え?なんで?この状況で?てかペンギンが頭撫でたの?どこから現れたの?え?え?ペンギン?
おそらく漫画やアニメだったら私の周りにクエスチョンマークが飛び回っていることだろう。
ショッキングな展開からの突然のほんわかした状況に力が抜けて行く。
ペンギンは私の顔を見ると再び頭を撫でてくる、どうやら慰めようとしてくれているらしい。
「はぁ…あなた…ありがと…」
気が抜けた、同時に冷静になっていく。突然現れたファンシーなペンギンを目の前に私の理性は保たれていた。
ペンギンに助けられた。
「ふふっ、…あはははっ‼︎何?ペンギン?ふふふっ私ペンギンに慰められてるの?あははははは‼︎」
あまりにも間抜けなこの状況がおかしかった。
「ひひひっ……ふぅ…ありがとう、あなたペンギンだけど紳士で優しいのね、おかげで助かったわ」
「…キュー」
ペンギンは照れた様子で下を向いた。心なしか顔が赤くなっているように感じる。
しばらくするとペンギンはピッと手…翼をこちらに向けてきた。
「ん?なに?…もしかしてエスコートしてくれるの?ペンギンさん?」
私はペンギンの翼を握り返すと男が消えた通路の方へ歩き始めた。
可愛い仲間が加わり、一緒に廊下を歩き始める。
私はいったい何者なのか、この《不思議な力》は何なのか?
見えない答えの掴めない疑問を抱きながらも、私は歩く。
「キュ、キュ、キュー」
(ペチペチペチペチ)
記憶を無くし、不思議な力を宿した少女はペンギンと一緒に出口を目指す。
コッチニキチャダメ
何か聞こえた気がした。
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