ドアマットヒロインが前世を思い出した結果
私はある日、唐突に前世の記憶というものを思い出した。
その記憶によると、私は前世天涯孤独の身の男の子だったらしい。
TS転生ってやつなんだろうか。
ブラック企業で働き詰めで過労死したらしい前世の私。
それに比べると、不幸ぶってた今世の私は実は恵まれているのではないかと思えた。
「スノー、廊下の掃除は終わったの!?」
「はい、終わりました」
「なら次は階段の掃除よ!」
「はい、お義母様」
今世の私は、一応家族がいる。父と、父の元愛人である継母と、継母が愛人時代に生んだという姉。
前世の記憶を思い出す前は、全員嫌いだった。
しかし今は全員愛おしい。
何故ならば。
義母は若見えする美魔女でナイスバデーで、姉は超絶可愛い美少女だから。
前世の記憶のせいで女の子が好きになった面食いの私にとって、眼福以外の何物でもない。
そんな二人を屋敷に招いた父もグッジョブだと思う。
しかも、義母はテンプレよろしく私を虐げるが限度はわきまえている。
食事はきちんと出してくれるし、暴力も一切ない。
教育は受けさせてもらえないし、使用人みたいな扱いをされているけれど…ブラック企業勤めの頃よりよほどマシだ。
そして教育をいえば、むしろ前世の記憶のおかげで今は割と知識チートもできる状態だから問題もないし。
「…最近従順になってきたわね。ようやく立場を理解したのかしら」
「従順になったご褒美に、お願いを聞いてもらえませんか」
「まあ、なんて強欲なっ…」
「抱っこしてください」
「え」
「抱っこ」
義母がぽつりと従順になったと言ったから、ご褒美をねだる。
義母は抱っこを所望されぽかんとする。
そんな義母の足に抱きついた。
ドレスが邪魔で仕方がないが、御御足を堪能する。
うーん、美魔女のあんよ最高!!!
「ちょ、え、なに…」
あんまりやりすぎもよくないので、ここで引く。
「またいい子に出来ていたら、ご褒美くださいね。では階段の掃除をしてきます」
「え、え、え」
呆然とする義母を置き去りに、階段掃除に移った。
「…なに?」
一日の仕事を終えた後、これ以上仕事を押し付けられることもないので暇になる。
なので眼福のため姉を見ていれば、姉は短く声をかけてきた。
姉は私を嫌いなのか、意地悪はしてこないが関わってもくれない。
前の私は姉も嫌いだったのでそれでよかったが、今の私はむしろ話しかけられてとても嬉しい。
「姉様は綺麗だなと思って」
「!?」
「今の時点で美少女だから、将来は傾国レベルの美女になりますね」
「な、な、なに?あんた急にどうしたの」
「姉様は綺麗だから、見ているだけで幸せになるから」
姉は顔を真っ赤にした。
怒られるのかなと思ったが、頭を撫でられた。
「わ、私も…本当は、あんたと仲良くしてみたかったの。でもお母様の想いを考えると、出来なくて。これからは、秘密でこっそり仲良くしてあげる」
「え、本当に!?じゃあ抱っこ!」
「…ふふ、まだまだ子供ね」
姉に抱きしめられる。
姉のまだ膨らみのない胸もそれはそれでとても良き。
そしていい匂い、うーん、芳しい!
「…お母様にも色々事情があるのよ。どうか許してあげてね」
「大丈夫!お義母様も大好きだから!」
「…あんたって子は」
本当はほっぺチューとかもしたかったが自重した。
「ねえ、お母様」
「なに?チェルシー」
「あの、あの子のことなんだけど」
娘がそう言い出した時点で、言いたいことはわかっていた。
「…随分素直になったわよね」
「うん、出会ったばかりの頃は反抗的で、いつも怒るか泣いてばかりだった。でもこの一ヶ月くらい、ずっと素直。私にこっそり隠れて甘えるし、お母様の命令もきちんとこなすし。お父様には、近寄らないみたいだけど」
「…そうね」
「あの子、私たちを家族として受け入れてくれたんだよ。母親を亡くしたばかりで自分が一番辛い時期なのに」
娘の言うことは、あの子に足に抱きつかれるたび罪悪感に打ちのめされる私の心に刺さった。
「ねえ、お母様。いい加減あの子を家族として…受け入れられない?」
…あの子は憎い元友人の子。
元々旦那様と私は婚約者だった。
けれど私の友人だった女性が、旦那様に惚れてしまい爵位とお金を振りかざして無理矢理奪った。
私も旦那様も愛し合っていたのに。
だから彼女が病気で亡くなってせいせいした。
彼女の娘なんか愛せるはずもないと思っていた。
でも。
「…あの子に罪はないのよね」
「お母様…」
「…わかったわ。私も大人なんだから、駄々をこねてはダメよね」
「お母様…それでもチェルシーは、お母様の味方よ」
「ええ、愛してるわ、チェルシー」
私はいい加減、大人になることにした。
「スノー、今日から貴女を正式に私の娘と認めます」
「お姉様も、スノーを妹として認めてあげるわ!」
「お義母様、お姉様…!!!」
「これからは、伯爵家の娘として相応しい教育を受けさせてあげます。雑用ももうやらなくてよいです」
「お姉様も、いっぱい甘やかしてあげるわ」
何故か義母と姉の態度が急変した。
「お勉強を頑張ったら、抱きしめてくれますか?」
「ええ、もちろんよ!お姉様が抱きしめてあげる!」
「お義母様は…?」
「…いいわよ、抱きしめるくらい」
「やったー!!!」
そして私は、勉強を頑張った。
頑張った結果、貴族の子供の通う学園の卒業生レベルの知識を持つと判明して義母も姉も目を見開いたが、約束通り抱っこしてくれた。
姉の抱っこはとてもいい匂いで、義母の抱っこは豊満な胸に癒された。
「旦那様、後継者についてなんですが…」
「リリー、あの子の頑張りは聞いた」
「では!」
「だが、私の跡はチェルシーに継がせる」
「でも…」
愛おしい妻は、優しい人だからあんな娘にまで優しく接する。
私たちの間を引き裂いた元妻に媚薬を盛られて襲われて出来た忌まわしい娘。
だが私はあの娘を許さない。
あの娘の存在を許さない。
「あの子も一応私の血を継いだ実の子だ。だから成人するまでは責任を持って養う。だが長子であるチェルシーの方が我が家を継ぐのに相応しい」
「…そうですか」
妻は悲しそうに目を伏せた。
「ねえ、あんたは本当に頑張り屋さんね」
「お勉強のこと?」
「ええ」
「だって頑張ったら、お姉様とお義母様に抱きしめてもらえるから」
私がそう言うと、姉は私を抱きしめた。
「こんなのいくらだってしてあげる。でも…あんたは、実力があるわ。知識なら誰にも負けない子だし、私なんかよりしっかりしてる。ねえ、お父様は私に跡を継がせるというけど、あんたの方が…」
「お姉様」
お姉様のセリフを遮って、言った。
「お姉様はお父様にとって長子だし、同年代の子たちと比べて格段に優秀だって聞いたよ」
「それは…そうね、よくそう褒められるわ」
「じゃあお姉様が継ぐのが一番いいよ」
「でもそれじゃあ…あんたは将来どうするの?」
「私は将来ね、お姉様の補佐をしたい」
「え?」
「ずっとお姉様のそばで、お姉様のお手伝いをして生きるの!」
「…あんたって子は」
ぎゅうぎゅうと抱きしめられる。
お姉様のそばでこのままずっと一緒にいたい。
それは本心だ。
お姉様は、いい匂いがするから。
私が前世の記憶を思い出してから、はやくも十数年。
お姉様は良い男と結婚して、爵位をお父様から継いだ。
今では子供もいる。
私は結婚もせず、屋敷から出ず、お姉様の補佐として正式に「雇って」もらって生活している。
お姉様の女伯爵としての仕事はとても忙しいので、お姉様は私がいて良かったと言ってくれる。
この十数年でお姉様は美女となり、ナイスバデーになった。
お義母様も相変わらず美魔女。
そして二人は私がおねだりすれば今でも抱っこしてくれる。
相変わらずいい匂いだし、胸の感触が変わらず心地いい。
ただし、今でも変わらず父とは没交渉。
それだけが残念だ。
「ねえ、あんたそろそろ結婚しなくていいの?」
「相手もいないし、姉様のそばにいたい」
「あんたって子は…」
ぎゅうぎゅう抱きしめられる。
姉が私を心配するのはわかるが、私は生涯姉と離れる気はない。
だって結婚するとなれば相手は男なわけで、私的にはちょっと…という感じだから。
そういうわけで、前世の記憶を思い出した結果、私は幸せになった。
邪な気持ちは決して表に出していないので、このくらいのスキンシップは許されてほしい。
その分姉や領地領民のため、これからも書類仕事は頑張るから!
ここまでお付き合い頂きありがとうございました!
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