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落葉

作者: リウクス

 風が冷たくなる季節、男は休日に公園を歩いていた。


 木々の葉はまだどれも色づいておらず、少しだけ夏の気配が残っている。

 しかし、男がベンチで一休みしようとすると、頭上から枯葉が落ちてきた。

 彼の背後に立つ一本の木だけが紅葉していたのだ。まるで、この場所だけ時間が先に進んでしまっているかのように。


 男は空を仰いで考えた。

 「もうこんな季節か」と感じているのは自分だけなのだろうか、と。


 周囲を見渡すと、彼は自分の袖の長さが気になった。

 そして、何も違和感がないことに孤独を覚える。


 手のひらを胸の前に掲げると、焦げた色の葉が一枚。

 しかし、それを踏み潰す乾いた音はどこからも聞こえない。


 男はこのまま桜の花びらが降ってきてもおかしくないような気がして、怖くなり、頭上の紅葉を携帯電話で写真に収めた。

 しかし、写真は切り取った時間を複製して形に残すだけで、それ自体を止めることはできない。

 かつての思い出を見返したところで、もうそこに自分はいないのだ。


 男は回顧し、自分の人生が丸ごと無意味だったような気さえした。

 そして、これから過去になる現在もまた、同様に。


 冷たい空気が頬を突き刺す。

 やはり、悲鳴は聞こえてこない。


 男は撮った写真を何となしに電波の海へと放流した。


 ——その時のことだった。


 スマートフォンに届いたSNSの通知が一件。

 内容はリプライでも何でもない、ただの「いいね」。

 普段なら気にもせず、通知を削除するようなものだ。


 ……しかし、いいねを押したアカウントの主を見てみると、そこには見覚えのある名前。

 男はすっかり忘れていたが、随分前に昔の友達からSNSをフォローされていたのだ。


 友達、とはいえ昔ですら積極的に喋っていた時期は一年にも満たないくらい。

 リプライも何も、意思を感じる何かが送られてきたことは一度だってない。

 極めて空虚な相互フォローのはずだった。


 けれど、そんな虚しい繋がりを持つ誰かは必ず同じ時空の、一光年よりもずっと近い距離に存在している。


 話してもなければ、顔も見ていない。

 それどころか、思い出したこともない。

 ただ、今の自分にとって誰でもなくなったその人は、昔の友達と紛れもなく同一人物なのだ。


 そんな当たり前で不変の真実に気がつくと、ふと木の葉を軽く砕く音が頭の中に響いた。


 それは季節特有の感傷を消化し、溶け残った粒子は小風に流された。


 そして、男がベンチから立ち上がり、徐に一歩踏み出す。


 ——きっと、誰の足元にも枯葉は落ちるのだろう。


 そんなことで何もかもどうでもよくなってしまう自分に、彼はまた苦笑するのであった。

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