第四幕 鉄の約束
銅の騎士は、帝国兵と戦っていた。
「俺としたことが、しくじった。最後の一人を残しちまったからな」
そして、帝国兵がアルフレッドに叫ぶ。
「銅の騎士よ、姫をどこにやった」
「知らねぇよ、俺が聞きてぇくらいだ」
「しらばっくれるな。貴様が滞在しているのが何よりの証拠」
「あぁん?お気に入りの娼婦いるだけだ」
アルフレッドは瘦せ細っていた。
悪魔の力を使うたびに、血を減らし肉を減らしていたためだ。
弱った体で敵に勝つにはさらに悪魔の力に頼る必要があった。
限界に近づいた体にもかかわらず、彼は呪文を唱える。
「……悪魔よ。我が血を啜れ、肉を喰らえ」
どうにかこうにか帝国達を倒し、エレオノールとギルバートの住む隠れ家にたどり着いた。
「帝国兵を、なんとか蹴散らしてきた」
「「アルフ」」
二人ともアルフを心配し、駆け寄ってる。エレオノールは回復魔法をアルフにかけた。
「無駄だろうな。血と肉の使いすぎだからよ」
「もう見ていられない、僕が出る」
銀の騎士
「よせっギル。お前は回復できないタイプだろ。しかも残り少ないのは、わかってんだ。俺はまだ何とかなる。少しでも長く、姫との時間をつくらねぇと」
「このままでは、君が……」
アルフレッドはギルバートの発言を遮った。
「大丈夫、だいじょうぶ。マジで殺されそうになったら、二つある臓器のどっちかを、悪魔に喰らわせるさ。目ん玉もあるし金玉もあるんだ。なんとかなるだろうよ」
「そんな……アルフのだいじょうぶは、いつも大丈夫じゃない」
黄金の姫エレオノールが悲壮な声で言った。
「俺よりもよ……変化がわからない、ギルの方が重症と思うがね。まだ、生きられそうか」
アルフレッドは、ギルバートを気遣う。
「わからないさ。死神が僕の命と魂をどれくらい使ったのかなんて」
ギルバートは、魂と命を消費することで、死神の力を使う契約をしていた。王城を脱出するときに随分と消耗していることに、気が付かないアルフレッドではなかった。
「まぁ、アレだ。回復できる俺が、戦えるだけ戦うつもりだ。ということでメシ、メシ」
血と肉を回復させる為に、アルフレッドは肉にかぶりつく。
「……すまねぇ」
食卓から立ち上がり、アルフレッドは外に出る。
そして、真っ青な顔で戻ってきた。
「はぁ、はぁ……チクショー。まだ体が肉を受け付けねぇ。クッソ、これだけでも、飲まないと」
蛇の生き血をアルフレッド必死で啜った。
「無理しないでアルフ」
気休めの回復魔法をエレオノールがアルフレッドにかけた。
「俺が、無理すれば、そんだけギルは余命を削らなくて済むんだ。しないワケにはいかねぇな」
「だとしても、次に敵が来たら、僕と二人で迎え撃つよ。大丈夫、死神の力は使わないから」
「……俺達二人が揃っているのがバレると、姫さんがいるこが確実になっちまう」
「でもこのままだと、ジリ貧だよ」
アルフレッドは、しぶしぶギルバートの提案に同意する。
「さぁ、アルフは休んで。次も戦わないと……でしょ」
そして、エレオノールは、食事を済ませたアルフレッドを休ませた。
すぐに眠ってしまった、アルフレッドにギルバートは話しかける。
「……悪魔よ。僕の血肉に興味はないか?」
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その夜、エレオノールとアルフレッドに手紙を書き残して、ギルバートは出立した。
向かう先は、帝国皇太子の率いる精鋭部隊。
彼の白い愛馬は、足音を控えて、精鋭部隊に近づくことができた。
そして、ギルバートは二つの呪文を唱える。
「……死神よ。我が魂を使え、命を燃やせ」
「……悪魔よ。我が血を啜れ、肉を喰らえ」
自らの禁呪と、親友の禁呪の二重がけは、体の負担はすさまじいものだ。
しかし、彼は、今の戦いだけを考えればよく、次はなかった。
一人の化物が、帝国皇太子の率いる精鋭部隊を蹂躙する。
一人の化物の、残り時間は少なかった。
一人の化物は、帝国皇太子を見つけた。
「全ての元凶を、断たせてもらおう」
帝国皇太子の首から、血の噴水があがった。
一人の化物の、残り時間はなくなった。
「アルフレッド……後は頼む」
銀色の騎士は、その血肉の全てを悪魔に与え、その命魂の全てを死神に与え終えた。
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「ギルの馬鹿野郎……」
目を覚ましたアルフレッドは、置き手紙に目を通し、コブシを机に叩きつける。
その姿をジッと見ているエレオノールは、何も話さない。
「姫さんよぉ、『ギルを置き去りにしちゃ駄目』とか言わねぇのかよ」
「あのね。お腹に赤ちゃんがいるの。ギルは、もう長くなかったから」
その言葉に、アルフレッドは救われた気がした。
「そうか、先に父親になったのか。姫さんも母親にねぇ」
親友、托卵の騎士の願いをかなえよう。
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王国との戦争で、皇太子を失った帝国は軍を引いた。
そして、黄金の姫と呼ばれた王女が、白銀の王子を出産し、成人後王に即位する。
その頃、銅の騎士は。
「いいかげん、王女からの求婚を受けてくださいよ」
娼館から連れ戻された王女のメイドに説教さえれていた。
「いや、ホラ、なんつーか、踏ん切りがつかねぇんだよ」
「私の時は、アッサリ抱いたクセに。このヘタレ」
「……どうせ、俺は、金銀銅の、銅だからな」
城の中では、今まで手を出した女性達に追い回されている騎士がいた。
「まったく、鉄の約束は、まだまだ錆が来なさそうだ」
そんなことを呟きながら。