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守皇真宵という女



「源之助くん?今日(・・)は、暇だよね?」



 放課後、俺が帰ろうとすると、翔蓮寺さんは有無を言わせぬ笑顔でそう声をかけてきた。



 もしかして昨日、多少強引に言い訳をして帰ってしまったことを怒っているのだろうか。



 美人の怒りが込もった笑顔って妙に怖いよね!

 もうすでに断り辛い。



「いやぁ、今日もですね・・・。」



「言っとくけど、筋トレは理由にならないから。」



「はい、すいません…。」



「他に何か言い訳ある?」



「ありません…。」



「ん、じゃあカラオケでも行こっか!」



 先程の殺気の込もった表情とは違い、眩しいほどの笑顔を見せてくれる。



 相変わらず可愛いなちくしょう!



 それにしてもカラオケか・・・。



 正直、俺としては、翔蓮寺さんとのカラオケなど言語道断。なんとしても断りたいところだ。



 積極的に関わりたくないと言うのはもちろんのこととして、人目のつくところに翔蓮寺さんと行きたくないと言う理由もある。



 あんな美人を連れて歩くのは周りの目がすごく痛いし、同じ学校の生徒に見られでもしてみろ、俺の悪い噂が立てられるに決まっている。



 でも、今の翔蓮寺さんのあの顔。

 今日は絶対に逃がさないという顔をしていた。



 くぅ〜・・・、俺は一体どうすれば・・・。



「ちょっと?このクラスの朝日源之助っていう男子はまだいるかしら?」



 俺が翔蓮寺さんからの誘いをどう断ろうかと思案していると、俺達のいる教室に凛とした声が響き渡った。



「え?」



 翔蓮寺さんと俺は、思わず教室の扉を振り返る。



「来るのが遅かったかしら・・・。結構帰ってしまっているわね。」



 そこに立っていたのは、生徒会執行部のシンボルである金色のバッチを胸に輝かせ、何か王者の気風を漂わせる綺麗な女生徒だった。



「き、君は・・・。」



「ん?知り合い?」



 思わず声を漏らした俺に、翔蓮寺さんが不思議そうに訊ねてくる。



「あら。なんだ、居たの?もう帰ってしまったかと心配したじゃない。」



 その女生徒は、俺がいる事に気付くと、綺麗な黒髪を揺らし、美しい笑顔で微笑みかけてくる。



 黒髪ロングで、目の下の涙ボクロが特徴的な清楚系美少女。あの頃より少し身長が伸びて、既に完成形に近かった完璧なまでのスタイルがより完成されて、彼女の美をより際立たせている。



 そう、俺はこの女生徒を知っている。



 我が校の現生徒会副会長を務める、この守皇真宵(すおうまよい)という女生徒を。



「ねぇ、あの子って、生徒会副会長の守皇さんだよね?どういう知り合いなの?」



 思わぬ再会に固まってしまっていた俺に、翔蓮寺さんは小声でそう訊ねてくるが、それにすら俺は反応することが出来なかった。



「一年も私を放っておいて、挨拶もなしなの?源之助。」



 守皇真宵は、凛とした態度を崩すことなく教室の中へと歩みを進めてくる。



 彼女が近づけば近づくほどに、俺の額には冷や汗が滲み、それが粒となってそのまま流れ落ちる。



「ちょ、ちょっと?源之助くん大丈夫?」



 俺の尋常ならざる様子に、翔蓮寺さんが心配そうに声をかけてくれるが、俺の耳には届いていなかった。



「久しぶりね?待てど、暮らせど、貴方が会いに来てくれないものだから、私から会いに来たの。嬉しい?」



 守皇真宵はその恐ろしいまでに美しい顔で、俺を下から覗き込むような体勢で見上げてくる。



「す、すんません、翔蓮寺さん。お、俺、やっぱり帰ります!」



 俺は遂にその場に耐えきれなくなり、矢継ぎ早にそう告げると急いで教室を後にする。



「え!?ちょっと、源之助くん?」



 翔蓮寺さんのそんな声が後ろから聞こえた気がしたが、この時の俺にはそれに応える余裕はなく。



 そのまま、上履きを履き替えるのも忘れて家まで走って帰ったのだった。




 ◇◇◇◇◇◇◇◇



 源之助が逃げるように教室から出て行った後、既に朔夜と真宵の2人しか居なくなった教室には、一時(いっとき)の沈黙が流れていた。



 朔夜はいまいち状況を飲み込むことが出来ずに固まっており、真宵の方はなんでもないようにそこに佇んでいる。



「まったく。相変わらず恥ずかしがり屋なところは変わってないのね。」



 真宵は思い出すように朗らかな笑顔で笑う。



 朔夜は源之助を追うか迷ったが、あの様子ではまともに話も出来ないだろうと判断し、とにかくこの守皇真宵という少女に話を聞いてみることにした。



 あの時の源之助の表情が、朔夜には彼女に怯えているように見えたのだ。



「ねぇ、守皇さん・・・だよね?副会長の。」



「ああ、ごめんなさい。気付かなくて。」



 真宵は、驚いたような顔をして朔夜に向き直る。

 朔夜はずっと源之助の隣にいた筈なのだが、本当に気づいていなかったようだ。



「ええ、私は生徒会副会長の守皇真宵です。初めまして。私の名前、知ってたのね?」



 真宵は、言いながらニコやかな笑顔で笑う。



 今のところ、彼女の印象は清楚で愛想も良い、綺麗な女の子と言ったところだろうか。



 朔夜には、何故源之助があのような状態になってしまったのか全く検討がつかなかった。



「初めまして。知ってるよ。守皇さん、有名だし!優秀な副会長としても、綺麗な女の子としてもね?」



「そう、なんだか恥ずかしいけど。でもそれを言うなら、貴方の方がよっぽど有名じゃない?翔蓮寺朔夜さん?」



「え!?私のこと知ってくれてたの?」



「もちろん。この学校で貴方を知らない生徒を探す方が難しいわ。それに、少し親近感を覚えていたの。」



「親近感?」



「貴方も男子から告白されること、たくさんあるでしょう?」



「うん。まぁ・・・?」



「正直、鬱陶しいと思わない?私のことよく知りもしないくせにって。」



「う〜ん、分かるっちゃ分かるけど・・・。」



「あら、違った?もしかして、そんな感情も抱かないほどに彼らに興味がないのかしら?」



「うん・・・、興味がないってのもあると思う。でもそれ以上に、理由はどうであれ勇気を出して告白してくれたなら、しっかり返事だけはしてあげたいと思ってるんだよね。だから、鬱陶しいとまで思わないかな。」



「そう。優しいのね翔蓮寺さんは。」



「そんなことないよ。」



 学内で目立つもの同士、いくらか共通点もあり会話が弾んでいく。



 いくつか雑談をした後、朔夜は本題を切り出す。



「質問なんだけど、守皇さんと源之助くんってどんな関係なの?」



「源之助くん?」



 何か気になることがあったのか、真宵が少し顔を曇らせたような気がした。



「え?」



「あ・・、いえ。私と源之助は中学の頃からの同級生なの。」



 さっきのは気のせいだったのか、真宵は笑顔でそう答える。



「呼び捨てってことは、結構仲が良かったり?」



「ええ、とっても。中学の時は3年間、同じクラスだったから。」



「そっか、じゃあ結構長い付き合いなんだね。」



 中学時代の同級生、それに仲はかなり良かった様子。



 では何故、あんな態度を?

 あれは明らかに普通じゃなかった。



「久しぶりって言ってたけど、最近会ってなかったの?」



「一年ぶりよ。中学を卒業してから一回も会ってなかったの。」



 真宵はなんでもないようにそう答える。



 一年も?中学の仲が良かった同級生と同じ高校であるにも関わらず、一年も話さないなんてことがあるのだろうか。



 しかし、源之助ならあり得そうでもある。



「ねぇ、もしかして源之助くんって、女の子が苦手だったりする?」



 もし、朔夜の読み通りだとするならば源之助の方が真宵を避けていた可能性がある。



 それに中学時代の同級生なら、源之助が女性を苦手としているかどうか知っているかもしれない。



「いえ?そんなことはなかった筈だけど・・・。」



「そっか・・・。あ、いや、気にしないで。私の勘違いだったみたい。」



 「なんでそんなことを?」というような顔をしている真宵に適当に誤魔化しておく。



 それにしても、真宵が嘘をついているようには見えたかったし、少なくとも中学まではそうでなかったということだろうか。



「そう…。でも、もし仮にそうだったとしても、別にいいんじゃないかしら。」



「え?」



 真宵が発した言葉の意味をよく理解出来なかった朔夜は、思わず聞き返す。



「だって、源之助にメスの友達なんていらないもの・・・。ね?」



 その時の真宵の表情は、朔夜の背筋をゾクリとさせるほどに冷ややかなものだった。



「さて。ごめんなさい、私これから生徒会室でやらなければいけないことがあるの。これで失礼させてもらうわね?」



 真宵は時計をチラリと見やった後、笑顔で朔夜に会釈をするとスタスタと教室を出ていった。



「あの子・・・。」



 朔夜は、真宵の背中を見送りながら、先程の真宵のセリフの真意を推し量ってみる。



 あの言葉の意味と凍えるような表情、そして源之助のあの態度の訳。



「わっかんないなぁ〜。」



 結局その日、朔夜の疑問に答えが出ることはなかった。




 新キャラ、黒髪清楚系美少女、守皇真宵ちゃんが出て来ましたね!


 源之助と一体どういう関係なんだ!?と思った方は、評価・コメント等ぜひぜひよろしくお願いします!


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