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グリコ③


「さ、続きやろっか…。」



 さ、流石は翔蓮寺さん、先程のことなどもう忘れたかのようにグリコを再開させようとしている。



 正直、俺のメンタルはもう満身創痍ではあるが、ここで勝負を投げ出す訳にはいかない。



 このグリコにはこれからの俺の平穏な高校生活がかかっているのだ。



 因みに、名誉の為に言っておくが、先程の翔蓮寺さんの発言について、俺は変な妄想とかしてないから…。ホントだから…。



「分かりました…、続きやりましょう…。」



 今の戦況をおさらいすると、始めの翔蓮寺さんリードの展開を覆し、一つ目の踊り場を越えたあたりで、俺が翔蓮寺さんを追い抜いた。そして、現在の翔蓮寺さんとの差は2段差だ。



 残りは、2階を越え、踊り場をもう一つ越えた先にある階段を降りきればゴールだ。



 2段差は少しのリードでしかないが、リードはリード、このままリードを守り切って、早々に帰らせて頂くとしよう。



「君、まだ耳赤いままだけど始めて大丈夫?」



「だ、大丈夫っす!お気にならさらず!」



「そ、じゃあいいけど?」



 最初はグー、じゃんけん、ほい!



「よし!」



「む、負けちゃった…。」



 そして、ここからの俺の快進撃が凄かった。



 もちろん勝ち負けはあるものの、チョキやパーなどの多い歩数での勝ちが続き、翔蓮寺さんとの差もかなり開けることが出来た。



 そして遂に、1階へと続く踊り場を越え、残すところあと数段という所までたどり着く事に成功した。



 ちなみに翔蓮寺さんはと言うと、今ようやく最後の踊り場へとたどり着いた所である。



「さぁ、翔蓮寺さん、次行きましょう、次!」



「もう、勝ちそうになったらウキウキしちゃって…。」



 翔蓮寺さんは不服そうにそう言ったが、こちらとしてはあともう少しで、俺の平穏な高校生活を守りきることが出来るのだ、気持ちが逸ってしまうのも致し方ないと思う。



「源之助くん、ちょっとその前に窓だけ開けてもいい?ちょっと、暑くなっちゃって…。」



 翔蓮寺さんは片方の手で襟元を引っ張って広げ、もう片方の手でぱたぱたと仰いでいる。



「いいですよ?汗かくと気持ち悪いすもんね。」



「うん、ありがと!」



 翔蓮寺さんはさっそく踊り場の窓に駆けよると、全開まで窓を開けた。



 入り込んできた涼しい風が翔蓮寺さんの綺麗な髪をたなびかせ、なびいた髪を耳にかける翔蓮寺さんの姿はまるで絵画かと思わせるほどの美しさだった。



「あぁ〜、気持ちいい!源之助くん、ありがと。もう大丈夫!」



「いえいえ、翔蓮寺さんがしんどくなりでもしたら、楽しくなくなっちゃいますから。」



 翔蓮寺さんは一瞬驚いたような表情して、その後すぐに爽やかな笑顔を見せてくれる。



「なぁ〜んだ。君もしっかり楽しんでたんだね?」



「え…、あ、いやいや!俺は早く帰りたいだけなんで!」



「またまた〜!」



「もういいですから!ほらじゃんけんしますよ!じゃんけん!」



 いかんいかん、勝利目前で動揺する訳にはいかない。ここはしっかりと気を引き締めていくとしよう。



「はいはい。最初はグー、じゃんけん、ぐー!」



 俺の出した手はチョキ、負けだ。



「やった!グ、リ、コっと!」



 翔蓮寺さんは軽い足取りで、階段を3段降りる。



 これで、翔蓮寺さんも1階への最後の階段に降り立ったことになる。



 しかし、未だにその差は一回のじゃんけんでは覆せないほどある。



 大丈夫だ、ここから負けることなどそうそうありはしないだろう。



「じゃあ、次行きますよ…、って何してんですか?」



「ん?いや、ちょっと位置調整をね?大丈夫、気にしないで。」



「は、はぁ。」



 位置調整?よく分からないが気にしないでと言うなら気にしないでいいのだろう。



「行きますよ?最初はグー、じゃんけん…!」



 俺がそこまで言いかけた時、突然翔蓮寺さんの後方から強い突風がビュウッと吹いた。



 風は、翔蓮寺さんに背中から吹き付け、その体を包み込みながら抜けていく。



 そしてその余波は当然、ヒラヒラとしたスカートにも影響を与え、捲り上げるように吹き上げていく。学校の指定のものよりも更に短くされている翔蓮寺さんのスカートなら尚更である。



 スローモーションにでも思えたその瞬間に、翔蓮寺さんよりも下の段にいたこの俺の瞳に、どのような景色が映し出されていたかは容易に想像がつくことだろう。



「う、うわあ!!」



 俺は、咄嗟に両手をクロスさせるようにして目を覆うと、その罪深き(まなこ)を封印した。



「おっとと。」



 翔蓮寺さんが慌ててスカートを押さえ込んだ時には、もう風は緩やかなものになっており、今の突風が嘘だったかのように、穏やかな時が再び流れ始めた。



 翔蓮寺さんは両手でスカートを押さえたままの体勢で、階下にいる俺を見下ろす。



 そこでようやく俺は、二つの(まなこ)の封印を解き、翔蓮寺さんに向き直った。



「あ…、いや…、あの!」



 俺が慌てて喋り出そうとするのを、翔蓮寺さんは手で制すると、ニヤリと意地の悪い笑顔で笑った。



「源之助くん、自分の足下…、見てみな?」



「え…?」



 俺はその瞬間、翔蓮寺さんの放った言葉の意味が分からず、言われた通りに自分の足下を確認した。



「あ…。」



 なんとそこには、後ずさるようにして片足を一段下の階段に乗せた状態になっている自らの足があった。



「い、いや、これは!」



「はい、君の負け。」

 


「そ、そんな…。」



「言ったでしょ?じゃんけん以外で階段を登るのも、降るのも禁止。一回でも破った場合は、即負けだよって?」



 言った、間違いなく言っていた。



 最初にルールを決めた際に翔蓮寺さんが追加したルールだ。



 でも、今のは仕方がな…、いや、俺の片足が階段を降りた時点で俺の負けは確定している。



 完全敗北、これは言い訳のしようもないあからさまな敗北だった。



「うぐぐ、間違いないっす…。俺の負けです…。」



「はい、素直でよろしい。」



 翔蓮寺さんはそう言ってにっこり笑うと、その場に腰を下ろして、階段に足を投げ出すようにして、足を伸ばした。



「それはそれとして…、君さ、もしかして見た?」



「な、何のことでしょうか…?」



 彼女の質問に、俺の体はビクッと反応してしまう。



「だからさ、私の下着…、見た?」



「あ、あはははは…。いやいやいや、そ、そんな訳無いじゃないですか!ちゃんと、目は塞ぎましたし!断じて見てません!」



「へぇ〜、見てない…ねぇ〜。」



 翔蓮寺さんは、階段に座り直して足を組むと、膝の上に肘を立ててそれに顎を乗せるような形でこちらを見下ろしてくる。



「ほ、ほんとに俺、見てませんか…、、」



「黒…。」


「ぐはッ!!!ゲホッ!!ゲホッ!ゲホゲホゲホ…!!」



 俺の言葉を遮るように発せられた翔蓮寺さんの言葉に、俺は思わず咳き込んでしまう。



「やっぱり、見てたんじゃん?変態くん?」



 翔蓮寺さんの見通すような冷たい視線が、俺の壊れかけのハートを貫く。



「す、すんませんでしたッ!!で、でもあの、見るつもりは無かったというか…、ホントにわざとじゃないんです!!」



 俺は勢いよく頭を下げ、翔蓮寺さんに全力で謝った。



 もしこれでも許してもらえないのならば、土下座でもなんでもする所存だ。



 何せ、ここで許してもらえなければ俺は一生、グリコを口実に下着を覗いた変態男として、まともな高校生活を送れなくなってしまう。


 

というか、退学…、最悪逮捕だってあり得る!



 そんなことになれば、今まで大切に育ててきてくれた両親に申し訳が立たない。



「ふふッ!うそうそ、じょーだん!全然怒ってないよ、私。」



「え…?」



「だってわざとだし…、ほら。」



 翔蓮寺さんは、親指でクイッ自らの背後を指す。



 その親指が指しているのは、先程翔蓮寺さんが自ら開けた踊り場の窓だった。



「窓?まさか、風邪でスカートを巻き上げる為に、わざと理由をつけて窓を開けたってことですか?」



「そ。さっきしてたでしょ、位置調整。それも全部その為。まぁ、思ったより風が強くてびっくりはしたけど…。」



 何ということだ…、翔蓮寺さんは軍師か何かなのか!?



 彼女は、窓を開けるところからすでに俺に勝つ為の作戦を着々と進めていたのだ。



「改めて…、負けました…。」



「ふふん、作戦がバッチリハマって面白かったなぁ。あの、源之助くんの顔!思い出しただけで笑える!」



「揶揄わないでくださいよ…、あんなことが起きたら誰でもああなります!」



「で?私の下着を視姦した感想は?あ、もしかしてもうちょっと見たかった?」



 翔蓮寺さんはそう言いながら、自らのスカートを少し持ち上げる。



 彼女の細く綺麗な足の普段は見えない部分まで、チラッと顔を覗かせている。



「な!?やめてくださいってば!」



 俺は咄嗟に翔蓮寺さんから顔をそらす。



 それを見て、翔蓮寺さんはまたもや楽しそうに笑っている。



 むぅ、今回は終始彼女の手の平の上で転がされている気がする…。



「あ〜、笑った笑った…。さ、私も揶揄い疲れたし…、食堂にでも行ってくつろごっか!」



「えぇ〜。」



「ちょっと、私が勝ったらお喋りの続きをする約束でしょ?みっちり付き合ってもらうから…。」



「ですよね…。分かりました…。」



 ほら行くよ!と翔蓮寺さんに腕を引っ張られ、俺は渋々彼女に着いて食堂に向かう。



 その後、俺は夕日が空に消える頃までみっちりと翔蓮寺さんとのお喋りに付き合わされるのだった…。




またまた、翔蓮寺さんWIN!!


こうして、源之助くんはいつも翔蓮寺さんに揶揄われているのです!!


ぜひぜひ、評価・コメント等よろしくお願いします!!

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