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腕相撲②


「手加減はしないっすよ?」



「いいよ。かかってきな?」



 俺はすでに座っている翔蓮寺さんに向かい合うように座ると、右肘を突いて机にセットする。



 「じゃあ、手・・握るよ?」



  翔蓮寺さんも俺に合わせて、右腕を出すと、ゆっくりと俺の手を握った。



 改めて見ると、白く細っこい腕だ。指も細くしなやかで、俺のゴツゴツとした手とは大違いだ。



 肌もきめ細かくてなんかツヤツヤしてるし、なんだか恥ずかしくなってきたな…。



 「源之助くんの手、おっきいね?」



 「え?ああ、そう…っすね・・。」



 翔蓮寺さんが俺の目を真っ直ぐ見つめて言うものだから、なんだか照れてしまった。



 しっかりしろ、俺!こんなことで動揺していては勝てるものも勝てないではないか。

 この勝負、俺は負ける訳にはいかないのだ。



「開始の合図は私がするね?準備できたら言って?」



「了解です。」



 俺は深く深呼吸をすると、しっかりと力が入るように姿勢を整えていく。



「ねね、これ見て?」



「はい?」



 俺が準備をするのを黙って見ていた翔蓮寺さんが、自分の首の辺りを左手で指差し、何やら話しかけてきた。



 見ると、翔蓮寺さんの首には黒いチョーカーが付けられていた。



 そういえば、翔蓮寺さんは何かとアクセサリーを付けていることが多い気がする。

 あまり派手なのは見たことがないが、ワンポイント程度のピアスやネックレスなどをよくしているイメージだ。



 確か校則では禁止だったような気もするが、翔蓮寺さんやそのグループはあまり気にしていないようだ。



 今付けられているチョーカーもシンプルなデザインで翔蓮寺さんによく似合っている。



 「チョーカーってやつですよね?似合ってると思います。」



「ほんと?ありがと!」



 俺が正直に返事をすると、翔蓮寺さんは嬉しそうに笑った。



「どう?もう準備は万端?」



 翔蓮寺さんは頃合いを見てそう声をかけてきた。



 きっと、さっきのアクセサリーの会話は俺が気まずくならないように気を回してくれたのだろう。



 普段はクールそうに見えて、こういう気遣いをしてくれるところも、彼女が慕われる理由なのだろう。



 「はい!準備オッケーっす。いつでもどうぞ。」



 「じゃあ、いくよ?れでぃ〜?」



 大丈夫だ、負ける要素は何一つない!

 最初は少しの力で様子を見る!



 「ご〜!」



 翔蓮寺さんの合図を皮切りに、右腕にグッと力を込める。



 「うわ!つよっ!?」



 翔蓮寺さんが思わずそう呟いてしまうのも無理はない。



 始まってすぐに分かった、楽勝だ!

 いくら翔蓮寺さんと言えども、所詮は女の子の細腕だ。ガリガリのヒョロイ男の子ならまだしも、日々筋トレに力を入れているこの俺に勝てる筈がないのだ。



 翔蓮寺さんも女子の中では強い方なのかも知れないが、俺の力に抗えることなくゆっくりと倒されていく。



 よし、後は翔蓮寺さんの手を傷つけないようゆっくりと机につけてやるだけだ!



 翔蓮寺さんの腕もかなり傾き始め、ここから本気を出してくるなどの様子もない。



 勝てる!今日こそは翔蓮寺さんに逆らってやるのだ!



 俺が勝利の確信をしたその時・・・、



 「源之助ッ。」



 「ほぇ?」



 いきなり翔蓮寺さんに呼び捨てにされ、思わず彼女を見てしまう。



 それもそのはず、まるで恋人に呼びかけたかのような柔らかい響きがそこにはあったのだ。



 チョーカー?



 見ると、翔蓮寺さんは先程と同じように左手の人差し指で首元の黒いチョーカーを指差している。



 なんだ?チョーカーならさっき見せてもらった筈だが? というよりも、なぜ今そのような行動を?



 俺の頭の中を疑問が渦巻き、思わず翔蓮寺さんの指先にあるチョーカーに意識が逸れてしまう。



「見てて・・。」



 見てて?翔蓮寺さんは確かに今、そのみずみずしい唇を動かし口パクでそう言った。



 一体何のことを言っているのだろうか。

 黒いチョーカーのことか、それとも左の指先の方だろうか。



 すると、翔蓮寺さんはチョーカーを指していた左の人差し指をツウーっと自分の肌に沿って動かし始めた。



 人差し指は下へ下へと降りていき、首の根本を通過しまだ下へと降りていく。



 その頃にはもう俺は、夢中になってその人差し指の行方を目で追ってしまっていた。



 翔蓮寺さんは以前にも話した通り、いつも学校指定の制服(ブレザー)をオシャレに着崩している。



 そしてそれは今日も同じで、ブレザーは羽織って居ないものの、シャツの第一ボタンが開けられ、大きく開いた形になっている。



 しかし、それくらいなら女子も男子も殆どの生徒がやっていることだ。

 第一ボタンまで閉めていると、なんとなく首元が苦しいような気もするし、真面目な生徒だという自負があるこの俺でさえも第一ボタンは開けている。

 


 なんせ第一ボタンを開けていたとしても、せいぜい首元が見えるくらいでなんの支障もないし、校則でも許されている。



 確かいつもの翔蓮寺さんも第一ボタンは開けていて、それ以降はしっかりと留めていた筈だ。



 しかし、待てよ。それならば、首元を過ぎた筈なのにまだ翔蓮寺さんの素肌が見えているのはおかしいのでは?



 もうその下に留めてあるはずのボタン、ないしはそれを隠すネクタイが見えてこなければおかしい。



 おい、嘘だろ!まさか!



 翔蓮寺さんの人差し指は、今まさにシャツの襟元から少し見える綺麗な鎖骨を通り過ぎようとしている。



 開けている…、第2ボタンもすでに開け放たれているッ!



 でなければ、あの美しい鎖骨を拝める筈などないのだから。



 しかし、翔蓮寺さんの人差し指は未だ止まること知らず、どんどん下へと降っていく。



 嘘だろ…、まさか…!やめてくれ…。あの第2ボタンが陥落しているとなれば、あの人差し指が行き着く先は・・・!?



「はい、君の負け。」



「え…!?」



 見ると、優勢だった筈の俺の右腕は、しっかりと手の甲が机についた状態で敗北していた。



「あ、あれ…、い、いつの間に!?」



「強かったなぁ〜、源之助くん。でも、勝ったのはわ、た、し。」



 な、なぜだ!なぜこんなことに!?

 そうだ、あの人差し指の行方は!?



 俺がもう一度彼女の首元を見た時には、すでに第2ボタンはしっかりと留められ、ネクタイに隠されていた。



「あ、あれ〜・・・。」



「ん?どうした〜?私の胸になんかついてる?」



「あ…、いや・・。」



 翔蓮寺さんは机に片肘をついて、それに顎を乗せるような体勢になって、ニヤニヤとこちらを見つめてくる。



 やられた…、完全に彼女の策略に嵌められてしまった。



「い、今のは、ちょっとズルじゃないですか?」



「え〜、なんで?」



「勝負の途中で翔蓮寺さん、声かけてきたじゃないっすか!」



「そうだね。でも、途中で喋っちゃいけないってルールは無かったよね?」



「うっ!そ、そうですけど!」



「それに、私は源之助って君の名前を呼んだだけだよ?」



 確かに・・、彼女の言い分は正しい。

 途中で喋ってはいけないというルールは無かったし、彼女が声に出した言葉は、「源之助」のただ一言だけだった。

 それに文句をつけるのはかなり厳しいだろう。



「じゃ、じゃあ、人差し指で視線誘導したじゃないすか・・。それは・・・?」



「え〜、そんなことしたかなぁ?ま、仮にそうだとしても、よそ見してた君が悪くない?」



 ダメだ、ぐぅの音も出ない。

 それに、これ以上勝負に文句をつけるのは男らしくない。



「分かりました…。負けを認めます…。」



「ん、よろしい。じゃ、ジュース買ってきてくれる?」



「はいっす…。」



「まぁ、安心しなよ。君とヤッたこと黙っててあげるからさ。」



「あ、あざっす…。」



 ありがたい提案ではあるのだが、誤解を招くような言い方はやめてほしい。



 俺は翔蓮寺さんに何が飲みたいかと聞いた後、席を立ち上がって、自販機のある食堂へと向かうことにした。



 教室のドアを開けて出て行こうとすると、翔蓮寺さんは、源之助くん!と呼び止めてきた。



「はい?やっぱり違うやつにします?」



 俺がそう言って振り向くと、翔蓮寺さんは椅子に座ったままこちらを向いていた。



 そしていたずらっぽく笑うと、くいっと自分のシャツの襟元を広げて見せる。



「えっち。」



 再び、閉ざされていた筈の第2ボタンが開け放たれており、そこには綺麗な…。



「ぶふっ!!!」



 俺は思わず咳き込むと、教室から逃げ出すように食堂へと走った。



「小悪魔すぎんだろ!!チクショー!!!!!」



 この時の俺の心からの叫びは、校内中に響き渡っていたとかいないとか・・・。


 

 ちなみに、この後めちゃくちゃ腕相撲した。





勝負あり!勝者、翔蓮寺朔夜ッ!!


源之助は最後に何を見たのか…、少しでも気になった方は、評価・コメント等、いただけると嬉しいです!!

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