俺争奪戦③
お久しぶりです!
かなり期間が空いてしまいましたが、落ち着いてきたのでぼちぼち連載再開させていきます。
最後までお付き合いいただけると嬉しいです。
2セット、1ターン目
1セット目を終えた翔蓮寺さんと守皇さんの2人は未だ3対3の拮抗状態にあった。
すでに身も心もズダボロである俺とは違い、2人ともむしろ1セット目よりも元気になっているように見える。
「さて、お遊びも終わったところでそろそろお互いに真剣にやりましょうか。」
良かった、ようやく俺で遊ぶのに飽きてくれたようだ。
「私のお願いは、「テストで1教科私に勝つこと」よ。」
「そうね、1番直近の1年3学期の期末テストにしましょうか。」
1ターン目の先行、守皇さんが提示したお願いはテストで1教科勝つこと。
今からテストを受けることは出来ないので、すでに終わっている1年3学期の期末テストを指定したようだ。
俺の記憶が正しければ守皇さんはこのテストで学年1位をとっていた筈だ。
限りなく勝率の高いこのお願いを提示する辺り、守皇さんは本気で勝ちに来ているようだ。
「むむむ・・、テストかぁ〜。自信ないなぁ〜。」
「教科はあなたが選んで結構よ。」
「ちなみになんだけど・・、私が全教科真宵ちゃんに負けてた場合って「不可能なお願い」になったりしない?会長さん。」
なるほど、確かにその可能性もあった。
もし翔蓮寺さんが全教科で守皇さんに負けていた場合、それはルールの「不可能なお願い。」にあたる。
つまり、その場合は守皇さんが逆にマイナス1点になって翔蓮寺さんがリードすることになるのだ。
「朔夜君は確か学年8位の成績だったね?残念と言うべきか、2教科だけ君が勝っている教科がある。」
「よって、「不可能なお願い」には当たらないな。」
「そっか・・。ん?もしかして、私の成績把握してた?」
「まさか。これは勝負よ、朔夜さん。相手を追い詰める為には自分もリスクを負わないとね?」
一見、守皇さんが有利なお願いに見えていたけど学年1位であることは逆にリスクでもあったのか・・。
でも、その賭けにも勝った今。
守王さんは14教科中12の確率でこの勝負に勝つことができる。
マイナス1点のリスクはあったが、翔蓮寺さんの成績も鑑みると上手い手だったといえるだろう。
「難しいお願いだが、挑戦するかい?朔夜君。」
「はい、もちろん。確率は低いけど、挑戦するのは無料だからね!」
当然とも言えるが、翔蓮寺さんはこのお願いに挑戦するようだ。
このゲームの性質上、お願いに挑戦することには何のリスクもないし、むしろしない方が損をする可能性が高いからだ。
「では、何の教科で挑戦するかい?」
「そうだなぁ、じゃあ古文で。確か、平均低かったし。」
「じゃあこの紙に、各自自分の点数を書いてくれるかな?書けたら、私が回収しよう。」
神童先輩はメモ帳から紙を2枚千切って、それぞれに渡す。
「あ、私カバン教室に置き忘れてる・・。」
今思い出したのか、翔蓮寺さんはしまったという表情でそう漏らす。
結構急いで駆けつけてくれたようだし、忘れていたのも無理はない。
しかし、カバンの存在を忘れてしまう程に俺を心配してくれたのか・・。
そう思うと、なんだか少し嬉しいような気もする。
「大丈夫よ。私、ペン持ってるわ。」
すると、すでに点数を書き終えた様子の守皇さんがなんだか見覚えのあるようなシャーペンを翔蓮寺さんに手渡した。
真っ黒の下地に赤文字で「舐めんじゃねぇよ!」と言う文字がでかでかとプリントされている。
こんな奇抜なデザインのシャーペンは滅多にお目にかかれるものではない。
「あれ?これ確か元ヤン先生の・・!」
「あっ!」
翔蓮寺さんが呟いた言葉に、俺は思わず声をあけてしまう。
そうだ、思い出した!
この奇抜なデザインのシャーペンはいつも元ヤン先生が愛用している、「なめんじゃねぇよ!シャーペン」だ!
確か、本谷先生元ヤン説の一因にもなった伝説の代物だ。
しかし、なぜこの元ヤン先生の「舐めんじゃねぇよ!シャーペン」を守皇さんが持っているのだろうか。
「昼休みに職員室に行った時に借りたのよ。後で返しに行かないと・・・。」
なんだ、そういうことか・・・。
まさか守皇さんもこの「舐めんじゃねぇよシャーペン」の愛用者なのかと勘違いするところだった。
とまぁ、そんな事はどうでもよく。
2人とも無事メモ用紙に点数を書き終わった。
「真宵、98点。朔夜君、95点。残念だが、お願い達成ならずだ。」
「あちゃ〜、やっぱダメかぁ〜。」
翔蓮寺さんはそう言って苦笑いをする。
翔蓮寺さんも決して低い点数では無かったのだが、守皇さんには一歩及ばなかったようだ。
これで翔蓮寺さんは1ターン目を0点に終わり、少し悔しい結果になってしまった。
それにしても、守皇さんのお願いは「不可能なお願い」を避けつつも高確率で自分が有利になる素晴らしいものだった。
始めは「お願い」と「ご褒美」で勝負なんか成立するのか?と思っていたが、なんだかやる人によっては戦略性もあって結構面白いかも知れない。
「今度は私の番だよね?」
1ターン目後半、次は翔蓮寺さんがお願いを提示する番だ。
翔蓮寺さんはここで守皇さんにお願い達成をされてしまうと、守皇さんにリードを許すことになる。
「じゃ、「腕相撲で源之助くん勝つこと」にしようかな?」
「え・・・、俺?」
「もちろん、代役を立てるのはありだよ?ちょうど、男子もいるわけだし?」
翔蓮寺さんの視線の先には、ワイワイと楽しそうに観戦していると拓実と葵の姿があった。
このゲーム、俺の出番多すぎやしないか・!?
まぁでも、この中なら筋トレが趣味である俺が一番強いだろうし、勝率が高いのは俺しかいないか・・。
「腕相撲・・、いいわ。それじゃあ、山田くん?お願い出来るかしら?」
「おっ、勝てるかは分からんけど任せろ!」
選ばれて余程嬉しかったのか拓実は準備運動までして、やる気十分だ。
因みに、拓実も中学の頃3年間クラスが同じだったので守皇さんとは面識がある。
「頼りにしてるよ?源之助くん。」
「頑張ります・・。」
と、翔蓮寺さんには少し自信なさげに答えてみせたものの、実はかなり自信満々な俺である!
何故なら、俺はこれまで一度も拓実に腕相撲で負けた事がないのだ!
流石は翔蓮寺さん、これは1点を確実に守る素晴らしいお願いだ。
ここはいつもお世話になっているお礼に翔蓮寺さんに貢献させて頂くとしよう。
俺は翔蓮寺さんに席を譲ってもらい、自信満々に腕を机にセットする。
「山田くん、ちょっと・・。」
「ん?」
そんな俺を見て、守皇さんは拓実に何やら耳打ちをしている。
一体何の相談だろうか。
まぁ、何にせよ俺の勝ちが揺らぐ事はないだろう。
「すまん、待たせた。」
「おう。」
拓実はそう言って俺の正面に座ると、同じように腕をセットする。
しかし、俺はそこで一瞬違和感を覚えた。
何がと言われれば分からないが、何となく拓実の肘をつく位置がいつもと違うような・・・。
それにあの守皇さんの余裕の表情・・・。
まるで拓実の勝利を疑っていないようなそんな顔だ。
「2人とも準備はいいかい?」
「「はいっ!」」
しかし、違和感の正体を掴めないままに神童先輩によって進行されていく。
「Leady?」
リスニングの時のような綺麗な発音で神童先輩の声が耳に入ってくる。
いや、大丈夫だ。集中しろ。
いつも通り、力で押し切るだけだ!
「GOッ!」
神童先輩の掛け声を聞いたのと同時に、、全力で腕に力を込める。
いつもならば、拓実の腕は俺の力になす術なく一瞬で倒されて終わりだ。
「え?」
最初にそう声を挙げたのは拓実だった。
目の前で起きた事が信じられない、そんな驚きの表情だった。
「あれ・・・。」
教室の空気が静まり返り、皆何が起きたのか分からないまま、只々決着のついた机上を見つめている。
ただ1人、この決着を信じて疑わなかった者を除いて。
なんと手の甲を机につけ、なす術なく敗北していたのは自信満々に勝負を挑んだ俺の方だったのだ。
「勝者、山田拓実君。よって、真宵に1点を与える。」
「なんだこれ・・・?」
そして何よりもこの状況を不可解にしているのは、腕相撲に勝利した拓実本人が一番驚いていることである。
今も自分の手を開いたり閉じたりしながら、不思議そうに見つめている。
「ドンマイ、源之助くん。お疲れ様。」
そう翔蓮寺さんに肩を叩かれ、俺はようやく我に帰った。
「翔蓮寺さん、すんません!俺・・。」
「仕方ないよ、勝負ってこういうものだから。ありがとう、源之助くん。」
「それにしても・・、今一体何が起きたのかな?」
翔蓮寺さんは、澄ました顔をしている守皇さんに向けて意味ありげな視線を送る。
俺としても、少し気になるのは守皇さんが拓実に耳打ちしていた内容だ。
あれが今回の勝敗に関係している。
それだけは何となく分かる。
「拓実。君、一体何をしたのさ?君が腕相撲で源之助に勝ったことなんて一度も無かったじゃないか。」
「いや〜、それが俺もよく分かんないんだよな。守皇の言った通りにしただけで・・・。」
葵の質問にも、拓実は上手く答えられない。
拓実がこうである以上、この答えを知っているのは守皇さんだけだ。
皆の視線が一斉に守皇さんに注がれる。
「腕相撲には、必勝法があるの。知らなかった?」
「必勝法・・ですか?」
「ええ、アームレスリングの世界じゃ当たり前の裏技だけど。これを使う相手が素人であればそれは必勝法になり得る。」
アームレスリングと言えば、腕相撲をスポーツ化したやつだったか?
日常生活で耳にしない単語過ぎて一瞬なにか分からなかったぞ。
「その名もトップロール。簡単に言えば、テコの原理で相手の力に関係なく勝つことができる裏技よ。」
「肘を乗せる位置に、指の掛け方・・・。まぁ、その他諸々の要点を抑えれば誰でも簡単に出来るわ。」
なるほど・・、守皇さんが拓実に耳打ちしていたのはトップロールのやり方だったのか。
道理でいつもより力が入れずらかった。
「なるほどね〜。ヤケに自信ありげに見てると思えば、そんなカラクリがあったなんて。」
「当然よ、これで貴方の点数を上回ったわ。貴方もそろそろ本気を出した方が良いんじゃない?」
守皇さんはあからさまな嫌味で翔蓮寺さんを挑発する。
しかし、これで点数は守皇さんが4点で、翔蓮寺さんが3点。
翔蓮寺さんが追い込まれているのには違いない。
2セット 2ターン目後半
2ターン目の前半、守皇さんの猛攻は続き、翔蓮寺さんはここでも点を取れずに終わり、現在は2ターン目の後半。
翔蓮寺さんがお願いをする番だ。
「さ〜て、どうしようか?」
今までは即決でお願いを決めていた翔蓮寺さんだったが、今回は珍しく悩んでいるようだ。
勝負も中盤、ここいらで一つ守皇さんの得点獲得を阻止しておかなければ負けてしまう翔蓮寺さんにとっては、悩まざるを得ないのだろう。
「あ!」
数秒考えた後、翔蓮寺さんは何か思いついたかのようにそう声をあげた。
不敵に笑うあの顔・・・、俺で遊んでいる時にもよく見せる悪いことを考えている顔だ。
「見て、しおりん!あの朔ちゃんの顔。あれは悪いこと考えてる顔だよ。」
「瑞稀、あの顔の朔夜に何回も泣かされてるもんねー。」
「は!?な、泣いてないしッ!」
どうやらギャル友達2人にも翔蓮寺さんのあの不敵な笑みは見覚えがあるようだ。
「お願いは決まったかな?朔夜君。」
「はい!私のお願いは「4分以内に元ヤン先生に舐めんじゃねぇよシャーペンを返して戻ってくること」で。」
なるほど、そう来たか翔蓮寺さん!
さっそく、先程仕入れたばかりの情報をお願いに盛り込んできたようだ。
周りをよく見ている翔蓮寺さんらしいお願いだ。
そして何よりいやらしいのは、翔蓮寺さんが指定したあの4分という時間。
この教室から元ヤン先生のいる職員室までは、渡り廊下を渡って1校舎に移動した後に階段で2階に登らなければならない。
それを往復して帰ってくるには、小走りで行って少し余裕がある程度。
先生にシャーペンを渡して、いくつか会話をすることを考えればかなりギリギリだ。
この絶妙な時間を指定してくるところに、翔蓮寺さんの意地悪さが滲み出ている。
「ふふっ、時間をギリギリに設定している上に元ヤン先生が必ずしも職員室にいるとは限らない・・。」
「面白いお願いだわ。朔夜さん。」
「でしょ?」
そう、そしてこのお願いの厄介な所は元ヤン先生の居場所を特定する術がないことだ。
元ヤン先生は女子バスケ部の顧問でもあり、放課後は体育館で女子バスケ部の練習をみていることもある。
職員室、体育館、思い当たる場所は幾つかあるものの、4分では一箇所に決めて行かなければ間に合わず。
先生の居場所を外した時点でお願いを達成出来ない仕組みになっているのである。
「でも、ダメ。これはルール違反よ。」
「え?」
守皇さんの言葉に俺も耳を疑う。
確かに意地悪なお願いではあるが、達成不可能なお願いではないんだし、ルール違反には当たらない筈だ。
「でしょ、会長?」
翔蓮寺さんを含め、皆がなぜルール違反に当たるのか首を傾げている。
「ああ、なるほど。朔夜くん、残念だがこのお願いは達成不可能なお願いにあたるようだ。」
そこで神童先輩が何かを思い出したようにそう言った。
「ええ!なんでなんで!朔ちゃんのお願いは意地悪だけどルール違反じゃないでしょ?」
「そうだー。そうだー。」
これには、ギャル2人組もヤジを飛ばしている。
「どういうこと?会長さん?」
「ああ。本谷先生は今日、何か用事があるとかで早退されていてね。帰りのホームルームを済ませた後、すぐに学校を出られたんだ。」
「よって、朔夜君のお願いは「達成不可能なお願い」にあたるというわけだ。」
そうだったのか・・・。
元ヤン先生はホームルームでもそんなことは一言も言っていなかったから全然知らなかった。
「・・・・。じゃあ、さっき真宵ちゃんが元ヤン先生のシャーペンを私に貸したのはあのシャーペンを私に印象つけるためだったってこと?」
「ええ、貴方ならきっとこのシャーペンに目をつけると思ったわ。だから、放課後に返しに行くなんて嘘を吐いた。先生が早退されるのは事前に知ってたから。」
「そしたら案の定、貴方はその言葉を聞き逃さなかっ
た。貴方の能力の高さは尊敬に値するわ。ぜひ、生徒会に来て欲しいくらい。」
「でも今回はそれが仇になったようね。これで2点差をつけたわ。セーフティリードよ。」
俺達のいる空き教室が一気に守皇さんの空気に塗り替えられていく。
人をコントロールし、従える彼女特有の気質。
王者の気風とも言うべきそれは、もはや支配の域に達しつつある。
思えば中学の頃俺を罵った3人組の女子も、彼女に告白した男子達も、そして俺自身も、盲目的な程に彼女に惹かれていた。
これは善悪の話ではない。彼女は産まれながらにしてそうなのだ。
悪意など全くなく、ただ周りを惹きつけてしまう。
そういう才能を持った少女なのだ。
彼女のそれは翔蓮寺さんをもコントロールし、支配してしまうのだろうか。
足を組んで座る彼女のその恐ろしいまでの美しさを前に、俺はそう思わされていた。
2セット 2ターン目終了
翔蓮寺 朔夜 2 ー 4 守皇 真宵
翔蓮寺さんピンチ!
気になる勝負の行方は・・・。
続きが気になる方は評価・コメント・ブックマーク等、よろしくお願いします!!




