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俺争奪戦②



 皆が部活動を勤しむ放課後、使われていない空き教室にて、翔蓮寺朔夜と守皇真宵による朝日源之助を賭けた勝負が行われようとしていた。



 この勝負に負けた者は、以後源之助に近づくことを禁じられる。



 源之助は半ば置いていかれているものの、今後の学校生活を左右するであろう大きな一戦であることは言うまでもない。



「では、さっそく始めよう。と言いたいところだが、どうやら先程からこの勝負に興味深々な者達がいるようだ。」



「せっかくだし、オーディエンスとして迎えても良いかな?」



 遂に勝負が始まると思った矢先、神童先輩がそんな事を言い出した。



 オーディエンス?全然気付いていなかったが、誰かこの成り行きを見ていた人物がほかにいるのだろうか。



 どうやら翔蓮寺さんと守皇さんの二人も気付いていなかったようで、了承はしたもののキョトンとした表情をしている。



「さぁ、許可は出た。入ってくるといい。」



 そんな神童先輩の声に驚いたように、教室の前方と後方にある扉が同時にビクッと音を立てて揺れた。



「あははは〜、バレちゃってたか〜。」



「私は付き添いで・・・。」



 前方の扉からおそるおそる入って来たのは、翔蓮寺さんといつも一緒にいるギャル友達、明星瑞稀さんと望月栞さんだった。



「二人とも付いてきてたの?」



「えへへ〜、やっぱりちょっと気になって付いてきてみたら、面白いことになってたから・・。」



 明星さんは「ごめんね〜。」と両手を合わせながら翔蓮寺さんに謝っている。



 しかし、前方の扉から覗いていたのは明星さんと望月さんだったとして後方の扉に潜んでいたのは誰だったのだろうか。



 そんな事を思いながら扉を見やると、こちらも丁度その張本人がおそるおそる扉を開けているところだった。



「あっ!もしかして、拓実と葵か?」



「す、すまん、源之助・・。まさかこんな所に出くわすとは・・。」



「僕は止めたんだけど・・。」



 なんと、後方の扉から現れたのは俺の数少ない友人である山田拓実と速水葵だった。



「なんでお前らこんな所に?」



「ああ、それは・・。」



 拓実の話によると、最近以前にも増して付き合いが悪くなったことや、俺が2日連続で守皇さんに連れ出されたことなどを不審に思い、後を付けて来たのだとか。



「それで来てみたらお前。なんだこの幸せ空間は!どういう状況だこれ!」



「僕も彼女達と仲が良いなんて聞いてないよ?」



 2人は険しい顔でそう凄んでくる。



「落ち着けって2人とも!話すと長くなるから、今はちょっと大人しくしててくれ。」



 それに正直なところ、明星さんと望月さんは話したことすら無いし、神童先輩に関しても生徒会長だということ以外は何も知らないに等しい。



 今の状況だって若干置いていかれている感が否めない俺には、こいつらに今の状況を説明するのは不可能だ。



「ったく、後で詳しく聞かせて貰うからな?」



「絶対だよ?」



「分かったよ・・。」



 2人とも若干不満そうな顔はしているが、とりあえずは納得してくれたようだ。



「お話は終わったかな?双方とも賑やかなお友達がいるようだね。」



 神童先輩の一言に、覗き魔4人組は互いの顔を見合わせて少し恥ずかしそうにしている。



「確か、明星瑞稀くんに望月栞くん、そして山田拓実くんに、君は・・・。」



 神童先輩は一人一人に目を合わせながら、フルネームを言い当てていく。



 これは驚いた。神童先輩が全校生徒の顔と名前を記憶しているという噂は本当の話だったようだ。

 若干1人、忘れられているようではあるが・・。



「ぷぷっ!お前、やっぱ影薄いんだな。イケメンのくせに、残念なやつ。」



「うるさいなぁ。」



 拓実は少し背の低い葵の頭をポンポン叩きながらバカにしている。



 イケメンな葵が忘れられていて余程嬉しいと見える。



「ああ、いや違うんだ。速水葵くんだろ?忘れた訳じゃない、気を悪くしないでくれ。」



「あははは、お構いなく・・。」



 葵は未だに大笑いしている拓実のみぞおちにグーパンチを入れつつそう答える。



「おほん。さて、雑談はこれくらいにしてそろそろ始めようか。」



「改めて二人とも、準備はいいかな?」



「問題ありません。」



「大丈夫だよ、会長さん。」



「では、これより朝日源之助君をかけた勝負を行う。それじゃあ、真宵から交互に進めていこうか。」



 神童先輩の進行により、ついに二人の俺を賭けた?勝負が始まった。



 神童先輩の言葉を聞いた拓実と葵が恨めしそうにこちらを見つめているような気がするが、見なかったことにする。



 ちなみに明星さんと望月さんの二人は「おお~。」と同時に声を上げて生暖かい目でこちらを見つめていた。



 1セット 1ターン目



「最初はルールの確認がてら少し流しましょうか。」



「おっ!それは私も賛成。」



 中学の頃の苦い記憶も相まって、最初からどんな「お願い」が守皇さんから飛び出るのかと考えていたのだが、どうやら最初は様子見という事で落ち着いたようだ。



「そうね、「源之助と5秒間見つめ合う」でどうかしら?」



 俺と見つめ合う・・・?

 まぁ、様子見としては妥当なレベルのお願いと言えるだろうか。



 それよりも俺が気になったのは「お願い」を言った時の守皇さんの視線だ。



 口には出さないが翔蓮寺さんに何やら意味ありげ視線を送ったような・・・。



「あ〜、そういうことね・・。真宵ちゃん、それ乗った!」



 どうやら翔蓮寺さんも守皇さんの何らかの意図に気付いた様子だ。



 なんとなく不穏な雰囲気が・・・。



「朔夜君。このお願い、チャレンジするかい?」



「もちろん。チャレンジします!」



「よし、成立だね。じゃあ、お願いを叶えるステップに移ろうか。」



 これで翔蓮寺さんが俺と5秒間見つめ合うことが出来れば1点。出来なければ0点だ。



 少し緊張はするが、ここは女性苦手克服の訓練だと思って我慢するとしよう。



「じゃあ、源之助くん?」



「は、はいっす。」



 翔蓮寺さんがチョイチョイと手招きをして俺を呼ぶ。



 俺は翔蓮寺さんの方まで歩いて行って、座っている翔蓮寺さんを見下ろす形になった。



 なんだか見下している感じで申し訳ないな・・。



 俺がそんな事を考えていると、



「こ〜ら。()が高い。」



 翔蓮寺さんは揶揄うような口調でそう言って、グイッと俺のネクタイを引っ張った。



「おわっ!」



 俺は前屈みのような体勢になって、グッと翔蓮寺さんの顔との距離が近づく。



 俺の視界、目一杯に翔蓮寺さんの切長で綺麗な瞳が広がって、思わず息を呑んでしまう。



 翔蓮寺さんの瞳って色素が薄くて、こんなに透き通っていたのか・・・。



「4秒、5秒。もう良いぞ。お願い達成だ。」



 気づけば神童先輩のそんな声が聞こえてきて、パッと引っ張られていたネクタイが離される。



 俺はそこで我に帰るのと同時に、そのまま尻餅をついてしまった。



「うっ!痛ててて・・。」



「ふふっ!()()れすぎ。」



 今度は翔蓮寺さんが俺を見下ろして、悪戯っぽくそう笑った。



「はっ!すんません!」



 自分が惚けていた事に今更ながら気付いた俺は、みるみる顔が赤くなっていく。



「ヒュ〜、朔ちゃんやる〜!」



「いいぞ、いいぞー。」(棒読み)



「くそ!源之助のやつ、あんなご褒美を!」



「死すべし・・、死すべし・・。」



 いつの間にか椅子を持ってきて観戦している覗き魔4人組みに冷やかされ、ますます恥ずかしくなってしまう。



「賑やかで良いじゃないか。彼らを招待して正解だったね。お手をどうぞ?源之助君。」



「あ、あざっす・・。」



 神童先輩が楽しげに微笑みながら手を差し伸べてくれ、俺を引き起こしてくれる。



「さて、これで朔夜君は1点を得た。今度は朔夜君がお願いをする番だ。」



「私の番か。どうしようかな〜。」



 俺は未だに動悸がおさまらないままだが、神童先輩の手際の良い進行により、ゲームは迅速に進んで行く。



 1ターン目の後攻、翔蓮寺さんが「お願い」をする番だ。



「貴方、分かってるわね?」



「安心しなよ。良いの考えてあげる。」



 出た。また翔蓮寺さんと守皇さんがさっきの意味ありげな視線を交わし合っている。



 始めの守皇さんの言葉から素直に読み取るなら、守皇さんがルール確認の為に簡単なお願いをしたのだから、翔蓮寺さんにもそうするように釘を刺したというのが自然な見方だが・・。



 どうにも嫌な予感がするんだよなぁ〜。



「じゃあ、「源之助君と5秒間恋人繋ぎをする」で!」



「恋人繋ぎ!?」



 予想外のお願いに俺は思わず声が漏れてしまう。



「だそうだ。真宵、このお願いに・・」



「もちろん、やるわ!」



 守皇さんは食い気味にそう返答する。



 おかしい・・。2回連続で俺が関わるお願いが出てくるなんて!



 それにこの何処(どこ)となく悪意を感じる内容も。



 この2人まさか・・・。



「あの・・、まさかとは思いますけど、わざと俺とスキンシップをとるようなお願いしてませんよね・・?」



 ジト目で守皇さんの方を見ると、ふいっと顔を逸らされる。



「翔蓮寺さん!」



「ま、そういう約束だから我慢しな?」



「やっぱり、2人で共謀してたんじゃないすか!」



 2人の反応からして、俺の嫌な予感は当たっていたようだ。



 それにしても、あの視線の会話だけでそんな約束を交わしていたとは・・・。



 この抜け目の無さというか、掴み所の無さというのか、なんだかこの2人は似ているような気がする。



「そんな事よりも、源之助が協力してくれないとお願いを達成出来ないのだけど?」



 先程は視線を逸らしていた守皇さんだったが、痺れを切らしたのかそう言って手を差し出してくる。



「それに・・、そんなに嫌がられると少し傷つくわ。」



 守皇は少し不満そうに口を膨らませている。



「いやいや、別に嫌がっているわけでは!」



 守皇さんと恋人繋ぎをする事にめちゃくちゃ緊張しているだけで、別に嫌な訳ではない。



「そう?なら、握って?」



「は、はい。」



 俺がそっと守皇さんの手に触れると、守皇さんがきゅっと指を絡ませてきた。



 流石に視線を合わせることは出来なくて、俺が少し視線を逸らすと、彼女も同じように少し顔を逸らした。



 柔らかくて、細っこくて、すべすべな彼女の手から彼女の体温が直接伝わってくる。



 女性苦手意識からくる緊張の為か、はたまた単なる恥ずかしさからかどんどん自分の体温が上がっていくのを感じる。



 綺麗な黒髪に隠されて守皇さんの表情はあまり読み取れないが、頬や耳がほんのり赤くなっているように見える。



「5秒経過。真宵、お願い達成だ。」



「もう?5秒なんて一瞬ね。」



 守皇さんは名残惜しそうに、そっと俺の手を離す。



 俺的には自分の鼓動が伝わってしまいそうだったので、5秒くらいで助かった。



「これで真宵も1点獲得だ。この流れで後2ターン、「お願い」と「ご褒美」を繰り返したら1セット目は終了だ。」



「そして、それを後2セット続けて最終的に貰った「ご褒美」、つまり得点が多い方が勝ち。」



「うん、とても分かりやすい1ターン目だったよ。これで大体のゲームの流れは分かったんじゃないかな?」



 神童先輩の言う通り、自分的には少々不服ではあるがお手本のような分かりやすい1ターン目だった。



1セット 2ターン目



「朔夜さん・・。」



「ん?」



「恋人繋ぎ、最高だったわ!」



 2ターン目が始まったと思ったら、守皇さんは開口一番そう言い放った。



「でしょ?自分で言うのもなんだけど、私ってばセンスいいんだよね〜。」



「ええ、どうやらそのようね。」



 なんだこれ・・・、心なしか2人に友情が芽生えているような・・。



「それで提案なのだけど・・・。」



 守皇さんはそこまで言って、少し言いづらそうにしている。



「1セットまるまる流しちゃう?」



「ええ!まさにそれを言おうとしていたの!」



「だよね!なんだ、私たち気が合うじゃん!」



 翔蓮寺さんが守皇さんが詰まらせた言葉を代弁するようにそう提案すると、守皇さんも興奮した様子でそれに同意している。



 待てよ・・、これはかなりマズイ流れでは・・?



 彼女達の言う「流す」とは、先程のように俺とスキンシップをとるようなお願いをお互いにするという約束のようなもの。



 ただでさえ、先程のターンで心身共にやられている俺だ。



 これ以上2人とスキンシップをとるような事になれば、確実にノックアウトだ。



 それに先程から拓実と葵の目が痛すぎる。



 しかしどうする?

 あの2人は完全に利害が一致している様子、2人の不敵な笑みを見ればよく分かる。



 こうなったら一か八か・・、



「神童先輩!」



「何かな?源之助君。」



「これ以上、ゲームを流してやるのは進行上良くないのではないでしょうかッ!」



「ふむ。」



 我ながら少し厳しいが、どうだ!



「特段、進行上不都合はない。それに、2人が合意の上なのであれば問題はないと考えるが、どうかな?」



 ぐはッ!何というど正論パンチッ!



 ぐうの音も出ないとはまさにこの事だ。



「はいぃ、その通りです・・・。」



「ぷぷッ!あらあら、残念。まっ、君はそこで大人しく待ってなよ。ね?真宵ちゃん?」



「ええ、全くその通りよ。ゲームの進行を邪魔するのは良くないわ、源之助。」



「ぐぬぬ、すんませんした・・・。」



 そして、俺にとって山場となる2ターン目、3ターン目が始まるのだった。



「源之助に壁ドンをするッ!」



「うぐっ!」



「源之助くんに顎クイッ!」



「ぐはっ!」



「源之助に膝枕よッ!」



「ぐおっ!」



「源之助くんにお姫様抱っこしてもらうッ!」



「ぐへぇ〜!!」



 こうして、守皇さんと翔蓮寺さんによる怒涛のスキンシップラッシュにより1セット目が終了すると共に、俺のHPも無事終了した。



「これで真宵に1点が入って、1セット目は3対3で終了だ。」



「ふぅ、なかなかやるじゃない朔夜さん。」



「うん、真宵ちゃんもね?」



 2人はそう言って、がっちりと握手を交わす。



 それはまさしく、熱い戦いを繰り広げた相手に対する賞賛と、尊敬が込められた握手だった。



 しかしそれでもまだ戦いは続いていく・・、激しい戦火に散った1人の男を尻目に・・・。



          

〜覗き魔4人組〜


瑞稀 「うわぁ!真宵ちゃんの顎クイの後は、朔ちゃんの膝枕ッ!?2人とも大胆!」


拓実 「くそッ!何で源之助だけあんな良い思いをッ!」


葵 「死すべし、死すべし、死すべし・・・・。」


栞 (コイツらうるさいな・・・。)


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


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