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俺争奪戦



 〜朔夜が駆けつける少し前〜



「ちょ、ちょっと、朔ちゃん!!」



 帰りのHR後いつも通り3人で談笑している中、瑞稀が驚いた様子で朔夜の肩を叩いた。



「ん?どした?」



「あ、あれ・・。」



 瑞稀が指差す方を見やると、2人の男子生徒を連れた守皇真宵が源之助に話しかけているところだった。



「あれってば、副会長の真宵ちゃんだよね?綺麗すぎじゃない?」



「いやいや、そこじゃないでしょ。なんか源之助君、話しかけられてない?」



 瑞稀にツッコミを入れつつ、栞も珍しく驚いた表情をしている。



「源之助くん・・。」



 これには思わず朔夜もそう呟いてしまう。



 まさか昨日の今日で守皇さんが動いてくるとは思わなかった。



 源之助くんはなんとか固まらずに話を出来ているようだが、彼女と直接話をするには些かタイミングが早すぎる。



「ってか、あの2人って知り合いなの!?朔ちゃん?」



「え、うん・・。中学の同級生なんだって。」



「へぇ〜、これまた意外な繋がり・・。」



 そこまで話した所で、守皇さんが屋上で何やらしていた男女の話をクラス全体に聞こえるように話した。



 クラスメイトは珍しいゴシップをネタに騒ぎ出したが、朔夜だけはそれが何を指しているのか瞬時に理解した。



 きっと、源之助くんを動揺させる為にワザとクラス中に聴かせたのだ。



「あの感じは結構仲がいいと見た!わざわざ会いに来たのかな?きゃ〜、真宵ちゃんってば強敵じゃん!」



「瑞稀、話聞いてたの?生徒会の仕事で来たんだって。ねぇ、朔夜?」



「うん・・、結構ヤバいかも。源之助くん大丈夫かな。」



「え、嘘。朔夜まで・・・?」



そうこうしている内にも、源之助は生徒会らしき男子生徒に両脇を抱えられ引きずられるように教室を出て行ってしまう。



「クール系美人の朔ちゃんとミステリアス美人の真宵ちゃんでしょ?うわぁ〜、ウチ選べないよ〜。」



「いや、別に誰もアンタのこと取り合ってないから。」



 守皇さんは、教室を出て行くときチラリとこちらを一瞥(いちべつ)した。



 きっと、屋上での話は私にも向けられたものだろう。



 何が目的かは分からないけど源之助くんのことを考えると、こうしてはいられない!



「ごめん、私ちょっと行ってくる!」



「え、朔夜!?どこいくの?」



「うんうん!行っておいで!しおりんの事は私に任せて!」



「ありがと、瑞稀。」



 瑞稀は栞の両脇を抱えるようにして捕まえ、笑顔でサムズアップし、朔夜は颯爽と教室を出て行った。



「青春だねぇ。しおりん。」



 朔夜を見送った後、瑞稀は少し遠い目をしてそう呟く。



「ねぇ・・・、これ理解してないの私だけ・・・?」



 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 そして話は現在に移る。



「助けに来たよ、源之助くん。」



「翔蓮寺さんッ!!」



「ようやく、ご登場ね。」



 真宵はまるで朔夜が来るのを分かっていたかのように、そう声をかける。



「あれだけ挑発されたら、流石にね?」



「ふふッ。私の意図が伝わっていたようで嬉しいわ。」



「屋上でのこと見てたの、もしかしてバレてた?」



「いいえ。あれは一か八かで鎌をかけてみただけ。分かりやすく反応してくれて助かったわ。」



「ふ~ん。じゃあ私は、守皇さん。ううん、真宵ちゃんにまんまとしてやられた訳だ。」



 真宵がクラス中に聞こえるようにあの話をしたのは、源之助を動揺させて連れ出すのと同時に、朔夜の反応を見るためでもあったのだ。



「ところでさ、真宵ちゃん。」



「何かしら?」



「いつまで源之助くんの上に乗ってるつもり?」



 先ほどから源之助は、真宵に指でお腹のあたりをくりくりとこねくり回されて、「はうぅ~。」と情けない声をあげ続けている。




「あら、私ったらすっかり忘れてたわ。でも、源之助もこの通り喜んでいるわけだし、このままでも良いんじゃないかしら?」



「むぅ、白々しい・・。とりあえずその手を止めなさい。」



「えぇ~、楽しかったのに・・・。」



 朔夜に指摘され、真宵は渋々こねくり回す手を止める。



「それと源之助くんも!」



「は、はひッ!」



「女性が苦手だとかなんだとか言って、なに鼻の下伸ばして膝に女の子乗っけてるわけ?」



「そんなこと出来るんなら女の子苦手じゃないよね?もう協力しないよ?」



「す、すんませんッ!!」



 類まれにみる翔蓮寺さんの本気怒りモードだ。

 こんな底冷えするような翔蓮寺さんの声は、初めて耳にした。



「ふふふッ!貴方、案外怒ると怖いのね?少なからず源之助のこと、本気で考えてるってことかしら?」



「当然。源之助くんに最後まで協力するって約束したの。友達として、約束は絶対に守る。」



 いつになく真剣な翔蓮寺さんの表情を見て、俺は内心感動を覚える。



「友達・・・、ね・・。まあいいわ。からかうのはこれくらいにして、そろそろ本題を話しましょうか?」



 真宵はスッと源之助の膝から立ち上がると、朔夜に椅子に座るようにジェスチャーをした。



 そして、そのままもともと座っていた方の椅子に腰を降ろす。



「さて、では本題を・・・。貴方たち、一体何をしてるの?」



 若干の違和感を覚え、真宵が2人の方を見ると、顔を赤らめてプルプルしている源之助の膝の上に、これまた少し顔を赤らめた状態の朔夜がチョコンと座っていた。



「そうじゃないわ・・。立ちなさい!源之助ッ!」



「す、すんませんッ!」(立つのね・・、俺!立てば良かったのね・・・!)



 くぅ、美人2人に立て続けに怒られてしまった。



 しかし、これはこれで悪くは・・・じゃない!?!

 今はしっかりと守皇さんの話を聞くべき時だ。



「コホンッ、それじゃあ本題に移っていいかしら?」



「「どうぞ。」」



 守皇さんは、俺と翔蓮寺さんの返事に頷くと話を本題に写した。



「翔蓮寺朔夜さん。正直、貴方にはたくさん言いたいことがあるのだけど、ぐだぐだと話し合うのは好きじゃないから単刀直入に言わせてもらうわ。」



「私と勝負をしなさい。翔蓮寺朔夜。」



 思いもよらなかった守皇さんの言葉に、俺は思わず自分の耳を疑ってしまった。



 俺からすれば、何故守皇さんが翔蓮寺さんをこの教室に誘導したのかもあまり分かっていないし、頭の中が???でいっぱいになってしまいそうだ。



「はっきり言って邪魔なのよね。貴方に源之助の周りをうろちょろされると困るの。」



 なるほど、翔蓮寺さんとは最近仲良くさせて貰っているし、守皇さんからすれば邪魔と言えば邪魔なのか?



「あらら、結構嫌われたもんだね?でも、言いたいことは分かった。」



「いいよ?その勝負乗った。」



「え!翔蓮寺さん!?!」



「私も真宵ちゃんには色々と思うところはあったし、いい機会かもね?」



 まさか、翔蓮寺さんがこの勝負を受けてしまうとは・・・・。



 いやいや、流石にこれは止めるべきだろう。



 いくら女性苦手意識克服の協力を頼んだとは言え、これは本来守皇さんと俺の問題だ。



 これ以上個人的な問題に翔蓮寺さんを巻き込む訳にはいかない。



「待ってください。これは俺が解決すべき事ですから!これ以上、翔蓮寺さんを巻き込む訳には・・・!」



「君は黙ってて。」「あなたは黙ってなさい。」



「す、すんません・・。」



 2人に同時に言葉を遮られた俺は、そのあまりのシャットアウトぶりに思わず押し黙ってしまう。


 

 おかしい・・・、俺はこの件の当事者の筈なんだが・・・。



 しかし、それ程までに今の2人を包む空気は誰にも口を挟ませない雰囲気を醸し出していた。



「で?条件は?」



「負けた方には二度と源之助に近づかないと約束させるっことでどうかしら。」



「おっけ。いいよ。」



 負けた方は俺に二度と近づけない・・・、いや、それはどうなんだ!?



 負けるのがどちらにせよ、あまり良い結果にはならないような・・・。



 しかし、そんな俺の思いとは裏腹に2人はどんどんと話を進めて行ってしまう。



「じゃあ、勝負の方法はどうする?」



「そうね。じゃあ、「お願い」と「ご褒美」にしようかしら。」



「お願いとご褒美・・。」



 お願いとご褒美!?あれは、俺と守皇さんが遊び感覚でやっていたもので、勝負が絡むようなゲームではない筈だ。



 1人が何か「お願い」をして、もう1人がそれを叶える、もし「お願い」を叶えることが出来たなら、叶えた方が「お願い」をした方に「ご褒美」がもらえる。



 そして、もし「お願い」を叶えられないなら、もう1人はそれを断る。その場合は、「ご褒美」は貰えない。



 ただそれだけの遊びだ。

 これをどう勝負にするつもりなんだ?



「ルールは・・・。」



「あ、大丈夫だよ。源之助くんに聞いたことあるから。」



 確か、翔蓮寺さんには中学時代の話を聞いてもらった時にルールも話した筈だ。



「そう。源之助、あなたって案外お喋りなのね?」



 守皇さんはそう言って、少しこちらを睨んでくる。



 うう・・、そんなに睨まないで欲しい。

 だって、翔蓮寺さんに過去を話すには必要なピースだったのだ。



「なら話は早いわ。」



 そう言って、守皇さんが説明した勝負のルールは、簡単に言えばこうだ。



 お願いとご褒美を6回1セットとして3セット行う。

 1セットにお願いを互いに3回し合うので、計6回だ。



 お願いを叶えることが出来れば、そのご褒美として1点貰える。お願いを断った場合は、0点。



 お願いに挑戦してそれを叶えられなかった場合も、0点だ。



 絶対に不可能なお願いはしてはいけない。それをした場合は、−1点とする。



 そして、最終的にご褒美に貰った点数が多い方が勝ちだ。



「これでどうかしら?」



「うん、異論はないよ。」



 なるほど、ご褒美を得点に変えることで勝負の形にしたのか・・。



 これならお願いとご褒美でも勝敗をつけることは可能だ。



「それと、出来れば公平な判断ができる中立な見届け人が居ればいいのだけど・・・。」



 守皇さんがそんな事を言いながら、こちらをチラリと見る。



「え、俺ですか?」



「いや、源之助くんは好みで判断偏りそうだからダメ。一度でも好きになった人を、贔屓されたら困るし。」



 しかし、翔蓮寺さんはそれでは納得しないらしい。



 なんか、ジト目でこっち見られてるし・・。

 俺ってばそんなに信用がないのだろうか・・。



「確かに、それもそうね。教師に交際してると勘違いされる程の仲のようだし?こちらも贔屓なんてされたら堪らないわ。」



 守皇さんも共感したようにジト目でこちらを見てくる。



 なぜ、元ヤン先生に勘違いされてる事を!?

 

 

 くぅ、2人からの視線が痛い!

 審判を決めるだけの筈が何故こんな肩身の狭い思いを・・・、解せぬ!



「それなら、私が見届け人を務めさせてもらおう。」



 俺が一人で傷ついていると、どこから現れたのかこの学校の生徒会長こと、神童陽凪先輩が教室の扉から現れた。



 相変わらず、制服をピシッと着こなしていて、守皇さんとはまた違う独特の雰囲気を持った人だ。



 美人ではあるのだが、いやその美人であるが故か、この人と同じ空間にいると少し緊張してしまう。



 普段、壇上でしか見る機会が無いというのも理由の一つかもしれないが。



「会長、何故ここに?」



 守皇さんも神童先輩が現れるのは予想外だったのか、驚いたような表情をしている。



 そして、それは翔蓮寺さんも同様だ。



「いや、なに、生徒会が生徒会監査に一人の男子生徒を連れ出したという情報が回ってきてね?」



「何事かと見に来たんだよ。」



 流石は生徒会長と言うべきか、ついさっきの出来事だというのにどこから情報を得たのやら。



「勝手に生徒会の名前を使って申し訳ありませんでした。しかし今は、この勝負が終わるまで目を瞑っては頂けないでしょうか?」



 守皇さんは椅子から立ち上がると、神童先輩に頭を下げた。



「頭をあげてくれ、真宵。私はすでにこの事については容認している。見届け人を引き受けると言っただろう?」



 どうやら神童先輩は守皇さん咎めに来たのでは無いようだ。



「ありがとうございます。会長が見届け人になってくれると言うのならこれ程相応しい人は居ません。翔蓮寺さんもそれで良いかしら?」



「うん、いいよ。会長さんなら信用できるしね?」



 翔蓮寺さんも文句は無いようだし、見届け人は神童先輩で決まりなようだ。



 どうやら、俺にはこの勝負をただただ見届けることしか出来ないらしい。



「さて、ルールはこの教室に入る前に聞いていたし、問題はない。二人も、もう準備はいいかな?」



 神童先輩は、二人の間にある机の横に立つと二人の顔を交互に見た。



「大丈夫です。」



「私も。」



 二人は見つめ合いながら、表情を変えることなくそう答える。



「それでは、これより朝日源之助くんを賭けた勝負を始める!」



 こうして、半ば俺は置き去りにされつつも守皇さんと翔蓮寺さんによる俺争奪戦?が始まったのだった。




〜残されたギャル二人〜


「ねぇ、瑞稀。」


「ん〜?」


「いつまで私を抱えてるつもり?痛いんだけど。」


「わぁ!ごめん、しおりん!青春に浸り過ぎて忘れてた!」


「なによ、それ・・。ったく、てかなんで私はアンタに羽交い締めにされたわけ?」


「ん〜、なんかノリで☆?」てへぺろッ


「チッ…。」


この後、暫く口を聞いてくれなかった・・・。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


読んで頂きありがとうございました!


次回が楽しみだッ!と言う方はぜひ評価・コメント・ブックマーク等、よろしくお願いします!



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