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希望と絶望

ご報告。


 今まで投稿したお話で少し辻褄の合わないところや、個人的に気になったセリフなどを少し改変しました。

 この先の展開には関係しませんので、気になる方は見てってください。(2話から)





「そういう訳で、俺はなんていうか・・・、女性が苦手なんです。」



 俺は、初めて他人に中学時代のトラウマや女性が苦手になった訳を話した。



 もちろん、拓実や葵も知らない事だ。

 拓実は、俺が敬語で話すのはそういうキャラ付けだと思っている。



「そっか、辛かったね?」



 翔蓮寺さんは悲しそうな、それでいて優しい表情で俺に手を伸ばそうとして、その手を途中で止めた。



「ごめん、触られたくないかな?」



 そんな彼女の気遣いが嬉しくて、心が温かくなったのと同時に、この人に話して良かったと思えた。



「いや、翔蓮寺さんには平気だと思います・・・。というか、平気になりたいと思いました。」



「え?」



「俺、もう女性とは関われないだろうなって思ってたんです。関わりたいとも思いませんでしたし。」



「でも、翔蓮寺さんという人を知って。今日、こうやって話を聞いてもらえて。あんなことがあってから、初めて女性と仲良くなりたいって思ったんです。」



「だから友達としてもっと仲良くなる為に、平気になりたいと思いました。」



 俺は、今のありのままの言葉を翔蓮寺さんに伝える。



「それに、ちょっと今のままじゃダメだって思い始めてたんです。だから、手伝ってくれませんか?」



「俺の女性への苦手意識が無くなるように。」



 翔蓮寺さんは少し驚いたような顔をして、それでもすぐに笑顔で俺に頷いてくれた。



「もちろんだよ。全力で協力する!」



「ありがとうございます!」



 俺が全力で頭を下げると、翔蓮寺さんは「頭なんて下げなくて良いよ!」と可笑しそうに笑った。



「じゃあ、慰めるんじゃなくて。こっちだね?」



 翔蓮寺さんは、俺の頭を撫でようとして止めていた手をそのまま俺に差し出してきた。



「はい!よろしくお願いします!」



「ん、よろしく!」



 俺たちはお互いにギュッと強く手を握り合った。



 もしかしたら翔蓮寺さんとなら、本当にトラウマを克服して女性への苦手意識を無くせるかもしれない。



 この時、俺はようやく希望へと一歩足を踏み出したのだ。



 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



「ありえない・・・、ありえない・・・。」



 放課後の生徒会室、真宵はブツブツと何かを呟きながらとてつもないスピードで資料整理を進めていく。



 いつも冷静沈着でどちらかと言えば感情が見えにくいタイプである真宵が、こうも不機嫌さを態度に表しているのは珍しく、生徒会室の空気がかなり重たいものになってしまっている。



「真宵。」



 見かねた生徒会長、神童陽凪(しんどうひなぎ)が真宵に声をかける。



 陽凪は、我らが私立翔星(しりつしょうせい)高校が誇る生徒会長で、黒髪のハーフアップがよく似合う、何でも見透かしてしまいそうな鋭い瞳が特徴的な美少女だ。


 

 落ち着きのある見た目や高く綺麗な声に似合わない男口調とズバッとした切れ味の鋭い言葉のギャップにやられる生徒が多いのだとか。



 上座に用意された椅子に堂々と座る陽凪の隣には、常に大きな犬のぬいぐるみが椅子に座らされるようにして置かれている。



 しかし、そんな陽凪の呼びかけに真宵は全く反応しない。



「真宵、聞いているかい?」



「はっ!はい、会長。何か?」



 真宵はここでようやく陽凪の声に反応する。



「何かと聞きたいのはこちらの方だよ。不機嫌なのが滲み出ている、君らしくもない。」



 会長の言葉によって真宵の負のオーラが緩和され、生徒会の面々が静かにホッと胸を撫で下ろす。



「申し訳ありません、会長。少し受け入れられないことがありまして。でも、大丈夫です。お気になさらず。」



 真宵はスッと負のオーラを引っ込めると、平然とした様子で陽凪に謝った。



 真宵は2年生にして生徒会No.2である副会長の座に付いており、彼女が持つ王者の気風なども相まって、他人から尊敬されることはあれど、他人を尊敬することなど殆どない真宵だが、



 この3年の先輩にして、生徒会長でもある神童陽凪に対しては、会長として尊敬の念を抱いている。



「いいや、真宵。君が平静を保てないほどの問題なら余程の事なのだろう。」



「次期生徒会長候補である、君の問題はこの生徒会執行部、引いてはこの学校全体の問題になり得ることを自覚するべきだ。」



 陽凪の鋭い視線に射抜かれると、さすがの真宵ですら少したじろいでしまう。



「ですが、会長。これは生徒会の議題に出すようなものでは・・・。」



「ああ、もちろん分かっているとも。」



 陽凪はそう言って頷くと、他の生徒会メンバーに向き直る。



「生徒会執行部諸君、今日の生徒会執行部の活動はここまでにする。後は私と副会長でやっておくから、帰ってゆっくり体を休めなさい。」



「よろしいんですか?」



 陽凪の指示に、生徒会メンバーの1人が驚いたように聞き返すが、陽凪は黙ってそれに頷く。



「分かりました・・・。」



 それを皮切りに、生徒会メンバーが次々と生徒会室を出て行く。



「あ、モモちゃんはそこに置いておいてくれ。後で、私が丁重にしまっておくから。」



 陽凪の言葉に、モモちゃんを回収しようとした生徒会メンバーは「失礼しました。」と頭を下げ、生徒会室を出て行く。



 モモちゃんとは、常に陽凪の横に座るゴールデンレトリバーを模した大きな犬のぬいぐるみのことである。



 何故、そんなものが生徒会室にあるのかと疑問に思うだろうか。



 そんなもの、会長が愛でていらっしゃるからに決まっている。



 モモちゃんを回収しようとした書記を最後に、生徒会室は陽凪と真宵の2人きりになった。



「さぁ、人払いは済ませた。遠慮なく、私に相談するといい。」



 始めからプライベートな内容だと気づいていたのか、陽凪は手早く真宵の話しやすい状況を用意してしまった。



「全く。相変わらず、会長は鋭いですね?分かりました、私が心を乱している理由。会長にはお話しします。」



 真宵は観念した様子で、今日あった出来事を余すことなく会長に話して聞かせた。



「なるほど・・・。」



 真宵の話を聞き終えた陽凪は、どこか納得したようにそう呟いた。



「つまり、君が想いを寄せていた相手が知らぬ間に別の女生徒と交際していたと・・・。」



「ええ、そうです!源之助は私を愛していると言うのに・・・。きっとあの翔蓮寺とかいうメスが、あのはしたない身体を使って源之助をたぶらかしたに違いないわ!」



「許せない・・・、許せない・・・、許せない・・・。」



 陽凪に話している間にまたもや怒りが湧いてきたのか、真宵は再びどす黒い負のオーラを垂れ流し始める。



「落ち着きなさい、真宵。しかし、プライベートな話なのだろうとは思っていたけど、まさか痴情のもつれとは・・・。君程の女性に想い人がいたとはね?」



「源之助は私が唯一愛した男性です。だからこそ、あの翔蓮寺朔夜を許せない!」



「朝日源之助・・・、確か2年4組に在籍している背の高い男子生徒だったね?これといって特徴のない男子生徒だと記憶していたが・・・。」



 陽凪の言葉に、真宵の視線が少し鋭くなる。



「会長、いくらあなたでも源之助を莫迦にするというのなら許しませんよ。」



 真宵の重たくなるような圧が陽凪にぶつけられる。



「これは悪かったね。少し揶揄っただけだよ。君の彼への想いは本物らしい。」



 陽凪は、真宵の圧にも余裕の笑みで微笑んで見せる。



「意地悪な人ですね。全く。」



 そんな陽凪の態度に、真宵も呆れたようにそっぽを向く。



「冗談はこれくらいにして、一つ純粋な疑問がある。君は先程から、朝日くんが君を想っているというような趣旨の発言をするが、その根拠を知りたい。」



 陽凪はまたいつもの鋭い視線に戻ってそう質問する。



「ああ、それは何度も彼を試したからです。中学の頃から何度も。」



「ほう。中学の頃から何度も?じゃあ、その中学の頃の2人の話を私に聞かせてくれないか?」



「どうにも私の中で、君の話と今の君たちの現状が繋がらないような気がしていてね。」



「はぁ。私と源之助の出会いから話すなら少し長くなりますがよろしいですか?」



「ああ、もちろん。余すことなく聞かせて欲しい。」



「分かりました。」



 真宵はあの幸せなひと時を思い出すように、顔に笑みを浮かべる。



「では、お話しましょう。私と彼の愛の物語を。」



神童陽凪 

翔星高校の現生徒会長。

大きな犬がお好き。(家でも数匹飼っている。)

モモちゃんは自前。


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