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トラウマ②



 守皇への告白を決心した俺は中学3年生の5月、遂にそれを決行することにした。



 3年生に上がって守皇と同じクラスになった時、告白の決心をしていながら何故1ヶ月後の5月に決行するに至ったかは、単純に俺の勇気が出なかったからだ。



 相変わらず彼女のお願いは少しずつエスカレートして行っており、なんだか最近守皇以外の女子とずいぶん話していないような気がするが、守皇への告白で頭がいっぱいだった俺には、そんなことを気にする余裕もなかった。



 そうして、守皇のお願いとか、告白のこととか、部活動のこととか、色々と忙しくしているうちにあっという間に1か月が過ぎてしまったのだ。



 まぁ、そんなこんなで5月になってしまったこの日、俺は守皇を学校の体育館裏に呼び出した。



 普段からよく話している手前、わざわざ体育館裏に呼び出すのは少し恥ずかしかったが、一世一代の告白を教室でサラッとする訳にもいかず、ウチの中学の告白スポットとして名高い、体育館裏に呼び出すことにしたのだ。



「こんな所に呼び出して、何か用?」



 放課後、ソワソワとした気持ちで待っていると、守皇がいつもの堂々とした態度で現れた。



「来てくれてありがとう、守皇。大事な話があるんだ。聞いて欲しい。」



「大事な話?もちろん、聞くわ。」



 モテる彼女のことだ、この場所へも何度も呼び出されてきただろうし、きっと俺の要件も薄々感づいてはいるのだろうが、彼女は静かに俺の言葉を待ってくれている。



 俺はひとつ深呼吸をすると、彼女を真っ直ぐに見据えて想いを伝える。



「俺、最初は守皇とこんなに仲良くなれるなんて思いもしなかった。遠巻きに見ることしか出来なかった守皇が、いつの日か俺みたいな地味な奴に話しかけてくれるようになって。」



「もちろん最初は緊張してたけど、守皇が毎日笑顔で話しかけてくれるから、なんか俺もいつの間にかそれが楽しくなっててさ。守皇のお陰で友達も結構出来たし、学校に行くのがすごい楽しみになった。」



「1年の時はあまり楽しめなかった行事も、守皇がいてくれたから2年はすごく楽しかった。守皇がしてくる「お願い」もさ、なんか俺ばっかりきいてた気もするけど、守皇が笑ってくれるとすごく嬉しくて・・・、ああ好きだなって。」



 守皇も真っ直ぐに俺を見つめて話を聞いていたが、今では何故だか手で顔を覆って、頷きながら聞いてくれている。



「だから、これは俺の最初で最後の「お願い」だ。守皇、俺と付き合って欲しい。これからはご褒美なんて要らないから、ずっと俺の横にいて欲しい。」



 俺は最後まで言い切ると、彼女に手を差し出して頭を下げる。



 言った!言い切った!

 人生で初めての告白を言い切り、内心少しホッとして、それでも心臓はドクドクと高鳴っていた。



 それから何分ほどしたのか、時間としては数分も経っていないのだろうが、永遠とも感じられる沈黙に耐えていた俺は、遂に耐えきれなくなり思わず顔を上げる。



 するとそこには、未だ手で顔を覆ったままの状態の守皇の姿があった。



「守皇・・・?」



 泣かせてしまったかと焦った俺は、恐る恐る彼女に声をかけてみる。



「ごめんなさい。なんでもないわ。」



 すると、彼女は少し手を退けるとチラリと手の隙間から俺の方を見た。



 良かった、別に泣いていたのではないようだ。



 俺は少し胸を撫で下ろすと、改めて彼女に返答を求める。



「返事を聞かせて貰ってもいいか?」



 人生で一番ではないかというほどの緊張が、俺の体を強張らせる。



「ぷっ!ふふッ、ふふふふふふッ!」



 すると、彼女は吹き出すようにしていきなり笑い始めた。



「守皇・・・?」



「ごめんなさい。あまりに可笑しくて笑い出すのを止められなかったの。なんとか、手で顔を隠して笑わないように耐えていたのだけど。」



 目尻の涙を拭いながら笑う彼女の笑顔は、俺の好きないつもの笑顔では無かった。



 まるで人を馬鹿にするような、そんな笑いだった。



「だってそうでしょう?源之助が私と・・、だなんて。あまりにも釣り合いが取れないじゃない。」



「一体何を勘違いしたのかは分からないけれど。あなた一度、自分の立場を振り返ってみた方がいいんじゃない?」



 それは明らかに、故意に傷つけてやろうという悪意のこもった言葉だった。



 あまりの驚きとショックで、俺は彼女に何を言われたのかまるで理解出来なかった。



「あ〜、可笑しかった。冗談としてはかなりいい線いってたわよ、源之助。悪いんだけど、私この後も違う方に呼び出されているの。そろそろ行っていいかしら?」



 尚も発せられる言葉のナイフに、俺は心が削られていくような感覚に襲われた。



「じゃあ、私行くわ。」



 彼女は最後にそう言い残すと、一度も振り返ることなくスタスタとその場を去っていった。



 俺は去っていく彼女の背中をただただ見つめることしか出来ず、呆然とそこに立ち尽くした。



 そこからは、正直あまり覚えていない。



 気づけば真っ暗闇の中、体育館裏に1人佇んでいた。



 部活の時間などとうに終わっており、真っ暗闇の校舎には生徒などただの1人も残っていなかった。



 俺は呆然としたまま帰宅し、夕食を食べることも忘れて部屋へと引きこもった。



 当然眠れる筈もなく、ベットに寝転がって天井を眺めていると、いつの間にか朝になっていた。



 体全身がダルく学校を休むことも考えたが、昨夜両親を心配させてしまった手前、より心配をかけてはいけないと学校に行くことにした。



 重い足取りで学校に着くと、学校はある話題で大いにザワついていた。



「おい、聞いたか!あの噂!」



「聞いたよ・・。あれ、ガチらしいぞ!ショックだわ〜。俺、今日早退しようかな。」



 学校の至る所で、生徒達が噂話に花を咲かせていたる。



 昨日の守皇の言葉が頭から離れてくれない俺からすると、噂話など微塵の興味もなかったが、得てしてそういうものは聞きたくなくても耳に入ってきてしまうものだ。



 そしてそれは、俺の心により深い傷を残すことになる。



「昨日、あの守皇真宵に彼氏が出来たらしい!」



 そう彼女は昨日、俺を振った直後に告白された男子と交際を始めたのだ。



 実際、彼女は朝からその男子生徒と手を繋いで仲睦まじい様子で登校してきた。



 これまで幾度となく交際を申し込まれても、一度も応じることのなかったあの守皇真宵が遂に陥落したと学校中が大騒ぎになり、大半の男子生徒がその日の授業を抜け殻のように過ごした。



 彼女を射止めた男子生徒は同じ学年ではあったものの、俺のよく知らない男子だった。



 ただ一つだけ言えるのは、目立たずなんの取り柄もない俺などとは何もかもが正反対の人物だということだ。



 彼と笑い合う彼女の姿を見て、俺はなんだか自分の全てを否定されたような気がした。



 彼女が付き合ったのは俺と全てが正反対な相手、改めてお前ではないと突きつけられているようだった。



「おはよう、源之助。」



「ッ!ごめん・・・。」



 守皇は教室で何事もなかったかのように話しかけてきたが、俺は彼女の顔を見るのも辛く、彼女を避けるようにして一日を過ごした。



 そうやって、彼女を避けながら2〜3日過ごしていると、またもやある噂が学校中に広がり始めた。



 朝日源之助とかいう男子が、守皇真宵が付き合ったのと同じ日に告白して、フラれたらしい。



 どこからどのようにしてそんなことが噂されるようになったのかは知らないが、いつの間にかそんな噂が学校中に出回っていた。



 それだけなら特段珍しいことでもなかった。

 守皇に告白してフラれた男子なんて星の数ほどいたし、そういう噂が出回ることもしばしばあった。



 噂された男子は恥ずかしかっただろうが、そのほとんどはフラれた男子を嘲笑するような噂ではなく、どちらかと言うと「仕方ないだろうな・・。」、「可哀想。」「よくやった。」などの励ましの意味が込められた噂だった。



 しかし、俺の場合は違った。



 その噂が出回った翌日、俺は守皇と仲が良かった女子達に呼び出され、散々罵詈雑言を浴びせられた。



 確か、1年の時に守皇のグループから分裂した3人組の女子だった筈だ。



「アンタみたいなでくの坊が、よくあの真宵に告白なんかしたわね!バカなんじゃないの?」



「これだから陰キャは・・、ちょっと優しくしたらすぐ勘違いしちゃってさ。マジ、キモいんだけど!」



「言っとくけど、真宵にストーカーなんかしないでよ?いつも何考えてんのかよく分かんないし、如何にもやりそうな顔じゃん。」



 クラスも違うこの3人になぜここまで言われなければならないのか。



 普段なら無視出来たのかもしれないが、彼女達の言葉が守皇に言われたことと重なり、より俺の心をえぐっていった。



 それからは地獄のような日々だった。



 直接俺に文句を言いにくるのは、いつもこの3人だけだったがそんな日々が続くと、少し視線を感じたり、こちらを向いて話している女子達がいると、俺の陰口を言っているのではないかと常に考えるようになってしまった。



 学校のどこにいても悪口が聞こえてくるようで、頭がおかしくなりそうだった。

 


 それでもまだ俺の心が折れていなかったのは、拓実や他の男友達がいたからだ。



 拓実達は俺が女子3人組に嫌がらせをされていることなどは知らなかったが、噂がたった時も慰めてくれたし、彼らと話していると女子達の視線も気にならなかった。



 それに、守皇の存在も少し大きかった。



 彼女は俺がどれだけ避けるような行動をとっても変わらず話しかけようとしてくれていたし、普通お互いに気まずくなってしまう中、今までと変わらず話そうとしてくれるのが少し嬉しくもあった。



 もしかしたら恋人にはなれなくとも、また友達には戻れるかもしれない、そんな淡い期待も抱き始めていた。



 しかし、そんな期待も完膚なきまでに叩き潰される。



 俺は聞いてしまったのだ、守皇とあの女子3人組との会話を・・・。



「貴方達、上手くやってくれてる?」



 そんな守皇の言葉に、3人は縋るように早口で、



「う、うん。ちゃんとやってるよ?真宵に言われた通りに、毎日朝日のとこ行って3人で、ね?」



「うん、あいつも言い返して来ないから結構強めに。」



そんな3人の報告に、守皇は満足そうに頷く。



「そう、それならいいわ。そのまま私の言う通りにしておいて。」



「もちろん!だから真宵、また私たちと・・・。」



「気安く私の名前を呼ばないでくれるかしら?」



 守皇は、キッと3人を睨みつけた。



 彼女が待つ、王者の気風というのはこういう時にも発揮されるらしい。



 彼女に睨みつけられた3人はオーラに圧倒され、黙り込んでしまった。



「とにかく、徹底的に源之助の心を折りなさい。そうでないと意味がないの。」



「は、はい・・・・。」



 彼女ら3人の嫌がらせは、全て守皇の指示によるもの。



 信じたくない気持ちもあったが、目の前の現実がそれを許してくれなかった。



 今までの守皇との楽しかった思い出にヒビが入り、俺の中でバラバラに砕け散る。



 何故彼女がそんなことを・・・。

 今までの俺たちの関係は一体何だったのか・・・。



 彼女達の言うように、仲の良い友達だと思っていたのは俺だけで、全ては俺の勘違いだったのだろうか。



 俺の中の切れてはいけない何かがプツンと音を立てて切れた。



 守皇真宵は信用できない。



 あの女子3人組は信用できない。



 女子は皆んな信用できない。



 俺のような男に関わってこようとする女性など信用できない。きっと何か裏があるに決まってる。



 何故なら彼女達がいつも言うように、俺のような影の薄い男に何の見返りもなしに、話しかけるような女性など存在しないのだから。



 この時から、俺は女性に苦手意識を持つようになり、女性にだけ敬語という言葉の壁を作るようになった。



 いや、敬語でしか話せなくなったという方が正しいだろうか。



 そうして俺はこの高校2年生になるまで、一切女性と関わりを持つことなく過ごしてきた。



 当然、守皇真宵が同じ高校に進学していたことなどは知っていたが、トラウマとも言える彼女との過去を経験して、会いに行こうなどとは思う筈もなく、今まで平和に過ごしてきた。



 以上が、俺と守皇真宵との関係性であり、俺が女性に苦手意識を持つようになったきっかけの一端である。



 源之助が女性に苦手意識を持つようになったきっかけであり、中学時代のトラウマでもあるお話でした・・・。



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