トラウマ
少し投稿が遅れてしまいごめんなさい!
最近、少し忙しくなってきて投稿が遅くなることもあるかもですが、完結まで応援していただけると嬉しいです!
よろしくお願いします。
俺と守皇真宵との出会いは、中学一年の入学式の日だ。
出会いとは言っても、最初はクラスメイトにえらく綺麗な美少女がいるなぁ、くらいのものだった。
この時の俺は、特に女性が苦手というような事はなく、関わりたくないなどとは思っていなかったが、そもそも彼女は俺のようなモブが関わり合いになれるような存在ではなかった。
聞けば彼女は、地元では有名な大きなお屋敷に住む社長令嬢だそうで、その上、容姿端麗、成績優秀、運動神経抜群の三拍子が揃っているときた。
片や学校で人気の高嶺の花の女の子、片やクラスですら目立たない少し背が高いだけの男子。
そんな両極端な俺達の関係が、そう簡単に変化する訳もなく、いつもクラスの中心にいる彼女を、俺が遠巻きに眺めるだけの関係が、中学1年の3学期あたりまで続いた。
3学期にもなれば、彼女は持ち前のリーダーシップを発揮し、1年生にして生徒会への当選を果たし、ますます俺などでは関わり合いになれない女の子へと成長して行った。
そんなある日、学校からの帰路についていた俺は、通学路にある大きな橋の上で佇む、彼女の姿を見つけた。
彼女は、流れる川を遠い目で眺めながら、只々そこに佇んでいた。
夕日に照らされながら、輝く水面を見つめる彼女の姿はとても美しく、しかし、それでいて寂しげでもあった。
表情こそいつもと変わらないものの、放っておけばこのまま消えてしまうのではないか、そう思わせる何がそこにはあった。
そんな、消え入りそうな彼女の背中を見て、俺は何を思ったか思わず声をかけてしまった。
「あ、あの・・・。」
彼女は驚いたような表情で振り返ったものの、声をかけたのがクラスメイトである俺だと分かると、すぐさま笑顔を顔に貼り付けた。
(ああ、これは・・・。)
それからどんな話をしたのか、正直あまり覚えていない。
分かっているのは、守皇真宵とまともに会話したのはそれが初めてのことだったということと、幾らか会話した後は、すぐに別れて家に帰ったことだ。
そしてそれからというもの、何故か彼女は毎日のように俺に絡んでくるようになった。
「朝日くん。お願いなんだけど、消しゴムを貸してくれない?お返しに、この手作りクッキーをあげるから。」
「は、はい。いいっすけど・・・。」
消しゴムを貸すだけにしては、お返しがデカすぎるような気もするが、俺ごときが彼女に逆らえるはずもなく、ありがたくクッキーを頂く。
こんな風に、彼女はいつもお願いと称して俺に話しかけ、お返しをしてくれるようになった。
彼女にどんな心境の変化があって、こんなモブ男にかまう気になったのか、当時の俺には皆目検討がつかなかった。
彼女の人気は以前変わりなく、変わったことと言えば、彼女がいつも一緒にいたクラスの1軍女子6人組が半分に分裂していたことと、毎日のように来る男子からの告白にあまり対応しなくなったこと。
そして、俺のようなモブに話しかけるようになったことぐらいだ。
最初は緊張してあまり喋らなかった俺も、彼女が毎日のように話しかけてくれるお陰で、美少女との会話にも馴れ、彼女との会話を楽しく感じるまでになっていった。
そして時は流れ、中学2年でも同じクラスになると、ますます俺たちは仲良くなった。
「おはよう、源之助。」
「おはよう、守皇。」
顔を合わせば必ず会話をする仲になり、この頃から守皇のお願いとお返しが、「お願い」と「ご褒美」という俺達の中での恒例の遊びになっていった。
「源之助、生徒会室に資料を運ぶのを手伝ってくれない?」
「えぇ、また?」
「お願いを聞いてくれたら、あなたの好きな手作りクッキーをご褒美にするわ。」
「それを言ったらなんでも言うことを聞くと思ってるだろ?」
「あら、違うの?」
「・・・・。分かった、聞くよ。そのお願い。」
「ふふっ!それでいいわ。言ったでしょ?最後までお願いを聞いてくれたら・・・。」
彼女はそこで言葉を切ると、口を周りから見えないように手で隠し、屈むように俺の耳元に口を近づけると、囁くように、、、
「あなたと結婚してあげる。」
「なッ!?また!!」
もちろん、冗談だ。
彼女は最近、いつもこの言葉で俺をからかってくる。俺の反応を見て楽しんでいるのだ。
俺は未だ熱を持ったままの自身の耳を押さえると、急いで彼女から距離を取る。
「相変わらず、恥ずかしがり屋なのね?源之助は。」
そう言う彼女の穏やかな笑顔はあまりにも綺麗で、心臓がどきりと高鳴ったほどだ。
「あんなことされたら、誰でも・・・。」
「さ、残りの半分お願いね?」
「あ、ちょっと!」
彼女のお陰で俺もいくらか社交的になり、話せる友達も増えたし、小学校の頃から知る仲の良い後輩が1年として入学して来たりと、この時が中学で一番充実した時間を過ごしていたのではないかと思う。
しかし、この頃から少しずつ彼女に異変が起きていたことに俺は気づいていなかった。
それが顕著に現れだしたのは、2学期の中頃あたりだっただろうか。
「源之助、少し手伝って欲しいことがあるんだけど。」
教室で、拓実を含めた男友達数人と話していると、守皇が割り込むように話しかけてきた。
「いや俺、今・・。」
「「お願い」よ、源之助。「ご褒美」もあるわ。」
彼女は、こちらに従って当然というような態度でそう言い放つ。
出た、彼女の女王様気質だ。
彼女にはリーダーシップがあり、人を従わせるのが得意だ。故に彼女は1年のうちから生徒会にも当選している。
それは彼女の長所である。
しかし、このところ少し行き過ぎたリーダーシップ、つまり女王様気質が出てきているような気がする。
彼女に従っていれば間違いはないし、少し無茶な指示だろうと、それを従わせるだけの信頼と実績、そして風格が彼女にはあった。
でも、俺に対してはどうだろうか。
生徒会でリーダーシップを発揮してくれるのは良いが、最近俺に対しても少し無茶なお願いをしてくることが増えてきていた。
「悪い、俺ちょっと行ってくるわ。」
「おう、気にすんな。」
俺は、友達に断りを入れると守皇について教室を出る。
今思えば、友達との談笑を中断させてまでやらなければいけないような用事でもなかったのだが、この時の俺には、彼女のお願いを断るという選択肢はそもそも無いに等しかった。
何故なら、この頃にはもうすでに彼女に恋心を抱いていたからだ。
彼女に振舞わされることすらも、楽しく感じていたのだ。
それに俺が彼女のお願いを叶えると、彼女はそれが困難であればあるほど、安心したように笑うのだ。
彼女のその笑顔が見たくて、俺は大抵のことなら彼女のお願いを聞き入れていた。
しかし、それでもなお彼女の「お願い」は回を重ねるごとにエスカレートしていった。
「源之助。あなた、2年生で最後の試合は終わったんでしょう?もう部活なんてやめて、3年生からは生徒会をやらない?受験にだって、内申は必要でしょ?」
「いや、3年にだって夏まではまだ試合があるし・・・。」
俺は一年生から祖父の影響もあり剣道部に所属しており、仲の良い後輩が入って来てからは特に真剣に部活に打ち込んでいた。
「うちの学校の剣道部はそれほど強豪でもないのだから、いくら続けたって・・・。」
「ごめん、守皇。そのお願いは聞けない。」
「そう・・・、残念だわ。なら、一つだけ約束。あまり、部活の女の子と仲良くしないで。お願い。」
「まぁ、それくらいなら・・・?」
「ありがとう、嬉しいわ。君は、ずっとそのままでいてね?そしたらきっと、いつか・・・。」
2年の3学期にもなると、このようなお願いも頻繁にしてくるようになった。
正直行き過ぎたお願いであると感じてはいたが、それは惚れた男の弱み、本当に曲げられないことは断っていたし、それほど気にもしていなかった。
そして俺は、俺にとって決定的な出来事が起こる中学3年生の春を迎える。
この頃も、彼女のエスカレートしたお願いは健在で、俺も相変わらず素直に従っていた。
「わざわざ外に出て私のお気に入りのパンを買って来てくれてありがとう。部活に遅れてしまうでしょうけど、私の為なら大丈夫よね?」
「はぁ、はぁ、大丈夫。今から走って剣道場まで行って謝れば、先生も許してくれると思う。」
今回のお願いは、学校の近くのコンビニで守皇のお気に入りのパンを買ってくること。
おやつを食べたい気分だったそうだ。
「そう。でもその前に・・・。ご褒美よ、源之助。」
守皇はそう言って、優しい笑顔を浮かべながら頭を撫でてくれる。
彼女は俺より背が低いので、少し屈まなければいけないが、彼女の笑顔が見れるならそんなことはどうだっていい。
当時の俺は、本気でそう考えていた。
彼女の笑顔を見ると嬉しくなる、安心する。
だから、大抵のお願いは受け入れる。
一種の依存に近かったと思う。
当時の俺たちの関係は、決して健全と言えるような関係では無かったと、今考えるとそう思う。
だが、それでも彼女が好きだった・・・。
だから俺は3年生で彼女と同じクラスになれた時、彼女に告白をする決心をしたのだ・・・。
源之助の初恋の相手、それが守皇真宵だったのです!
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