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守皇真宵という女②



 今は昼休み前の4時間目、世界史の授業だ。 

 担当の先生が黒板に年代表を磁石で貼り付け、何やらヨーロッパ辺りの歴史を説明している。



 そして俺はというと、正直昨日の放課後の事を引きずりに引きずりまくっていて、授業をまともに聞けていない状態だ。



 思わぬ守皇真宵との再会に動揺してしまい、逃げるように家まで帰ってきてしまった昨日。



 ないわ〜・・・。ないない。昨日の俺の態度はあまりにもなさすぎる。



 いくら動揺していたとは言え、流石にあの態度は訪ねてきた守皇真宵にも、遊びに誘ってくれていた翔蓮寺さんにも失礼な態度だった。



 それにあれだけ動揺したら、俺がまだアレを引きずってるみたいではないか・・・。



 いや、引きずってるよ?引きずりに引きずりまくった結果、今の俺になっているのは間違いないし、今現在も絶賛引きずり中なのは間違いないのだが・・・。あれだけ動揺してしまうのはなんだか癪だ。



 それに、事情の知らない翔蓮寺さんからすれば、訳が分からなかったに違いない。



 とにかく、今日は翔蓮寺さんに謝らなければ・・・。と思いつつ、それが出来ずにこの4時間目にまで突入してしまった。



 俺はなんと情けない男なのか・・・。



 言い訳にはなるが、4軍陰キャモブ男であるこの俺が、翔蓮寺さん達、美人ギャル3人のグループに話しかけるというのは、思いの他難しいものがあるのだ。



 周りの目とか、俺のメンタルとかそういう問題が・・・。



 という訳で、昨日の事や謝りにいけない自分の情けなさ含めて凹んでいる俺は、4時間目を迎えても授業に集中出来ないでいるのだ。



 そうこうしているうちに、4時間目終了のチャイムがなり、昼休みつまり昼食の時間になった。



 いつものように、普通が普通を着て歩いているような男 山田拓実、影の薄いイケメン 速水葵が、弁当を持って俺の机に集まってくる。



「源之助、弁当食べようぜ!」



「おう。」



 仕方がない・・・。話しかけるタイミングもない事だし、翔蓮寺さんに謝るのは放課後にして、昼からの授業はしっかりと集中して聞くことにしよう。



 俺は心の中でそう決めると、拓実、葵が席に着くのを待って、弁当の蓋を開ける。



 弁当の数あるおかずの中で、何を一番に食べようかと箸を彷徨わせていると、扉が開け放たれるガラガラという音と共に、なんだか教室がザワザワとザワつき始めた。



「なんだなんだ?」



 それを拓実も察知したのか、そんな声を漏らし。

 俺も、クラスの皆が注目している扉の方を見やる。



「嘘だろ・・・。」



 そこにいたのは、泣きぼくろが特徴的な黒髪ロングの清楚系美少女、守皇真宵その人だった。



「あれ、副会長の守皇さんだよな。やべ〜、超かわいい!」



「お人形さんみたい・・・、綺麗・・・。」



「ウチのクラスに何の用だろう?」



 教室中の生徒達が口々にそんな事を話している。



「あれって、超お金持ちのお嬢様だって噂の守皇さんだよね?なんか、こっち見てない?」



 葵がそんな風に耳うちしてくるが、俺は全くそれどころではなかった。



 なんで昨日の今日で、そのうえ昼休みなんかに訪ねて来たのか。



 彼女の要件が俺にではないことを祈っては見たが、それも虚しく彼女は真っ直ぐに俺の席まで歩いてやって来た。



「こんにちは、源之助。昨日はよく話せなかったから、改めて会いに来たの。お弁当でも食べながら少し話さない?」



 守皇真宵は、巾着袋に入った自らのお弁当を俺に見せながらそう言った。



 くぅ、やはり彼女の用事は俺にあったようだ。



 まぁそれは百歩譲って良いとしても、何故昼休みに来てしまわれたのか!



 彼女はその類い稀なる容姿から、当然の如く人気が高い。その人気は、あの翔蓮寺さんにも匹敵する程だ。



 それに加え、生まれながらに備わっているのであろう王者の気風というのか、とにかくそのオーラがとてつもないのだ。



 クラス中の「あんなモブ男と、一体どういう関係なんだ!?」という視線が痛い。

 それに、男子陣からの殺気も凄い!



 中学が同じである拓実は良いとしても、葵もびっくりした表情で固まってるし、ここは一刻も早くこの教室を抜けた方が良さそうだな。



「わ、分かりました…。じゃあ、あのここじゃ、なんなんで屋上とかでも良いですか?」



「ええ、私もそちらの方が嬉しいわ。」



 彼女も了承してくれたので、俺は彼女を連れてクラスの注目から逃げるように教室を出た。



 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 眼下に広がる校庭とどこまでも高く青い空。

 肌をくすぐるような心地よい風がそよいで、とても気持ちがいい。



 普段は立ち入りを禁止されている屋上ではあるが、生徒会副会長が良いというのならきっと大丈夫なのだろう。



 俺達は、屋上の少し段になっているところに並んで腰掛けて、弁当を広げた。



「このお弁当、私が自分で作ったの。一口食べる?」



 守皇真宵が、綺麗に巻かれた卵焼きを一つつまんでこちらに差し出してくる。



「あ、いや・・・、遠慮しときます。」



「そう。」



 並の男子なら喜んで食いつくところだろうが、俺はとてもそんな気分にはなれない。



「あの・・・、お話というのは?」



 一体何の要件があるのか、俺は恐る恐る彼女に訊ねる。



「お話・・・、そうね。あなたと話したい事は山ほどあるけど。まずは、久しぶりに「お願い」を聞いてもらおうかと思って。」



 「お願い」、久しぶりに彼女から聞いたその言葉に、俺は背筋に嫌なものがゾクリと走った。



「覚えているかしら、「お願い」と「ご褒美」。中学の時、2人でよくやったわよね?」



 彼女は、懐かしむような笑顔で俺に微笑みかける。



 「お願い」と「ご褒美」、もちろん俺も覚えている。

 いや、この場合忘れられないの方が正しいのかもしれないが。



 中学の頃、この守皇真宵とよくやっていた遊びのようなものだ。



 1人が何か「お願い」をして、もう1人がそれを叶える、もし「お願い」を叶えることが出来たなら、叶えた方が「お願い」をした方に「ご褒美」がもらえる。



 そして、もし「お願い」を叶えられないなら、もう1人はそれを断る。その場合は、「ご褒美」は貰えない。



 簡単に言えば、そんな遊びだ。



 「お願い」を断った時に罰ゲームがあった時もあったし、なかった時もあった。

 そんな、2人だけの優しい遊びの筈だった。



「もちろん、覚えてますよ・・・。」



「そう、嬉しいわ。でも、安心して?今回のは「お願い」というよりは、「ご褒美」に近いと思うから。」



 相変わらず、少し強引なところは変わっていないようだ。



 中学の頃は、この女王様気質なところも嫌いではなかったと思う。むしろ、彼女に振り回されるのも楽しく感じていた程だ。



「私、あなたの最後(・・)の「お願い」、叶えてなかったでしょう?」



 彼女は食べかけの弁当を隅に置くと、体ごとこちらを向いた。



 両手を俺側の段(座っている段差)に着き、前のめりになるような体勢で、顔をズイッと近づけてくる。



 前のめりになることで浮いたシャツの襟元から、彼女の平均より大きめな胸が覗きそうになっている。



「それに、これは私の「お願い」でもあるの・・・。」



 彼女の頬は朱色に染まり、どこか扇情的な表情で真っ直ぐに俺を見つめてくる。



「お願い・・・、私の恋人になって?源之助。」



 彼女の言葉と同時に、俺の頭の中にあの日のフラッシュバックが次々と流れ込んでくる。



 バクバクと動悸がおかしくなり、額に汗が滲む。



 彼女の吸い込まれるような瞳から目が離せなくなり、まるで体が石になったかのように動かない。



「このお願いの「ご褒美」は、私の唇。私がキスするまでに返事を聞かせて?」



 彼女はより体勢を前のめりにして、顔を近づけてくる。



「沈黙は肯定と執るから。」



 彼女は最後にそう言うと、瞳を閉じてゆっくりと近づいてくる。



 俺は、未だ動悸と冷や汗が止まることなく、必死に口を動かそうとするが上手く動かすことが出来ない。



 彼女の綺麗な顔が眼前まで迫り、思わずそのプルプルと柔らかそうな唇に目が行ってしまう。



「好きよ。源之助。」



 ダメだ!彼女を止めることが出来ない!



 彼女の唇が、俺の唇につく数ミリのところまで来たその時・・・。



 ガシャン!!!



 屋上の扉に何かがぶつかったような音が響き、守皇真宵は咄嗟に俺から顔を離す。



 そこでようやく俺も、固まっていた体が何事もなかったかのように解放され、彼女と同じように扉を見やる。



 誰かが屋上に来てしまったのかと思ったが、誰も屋上に入ってくるような気配はなかった。



「全く。どこかのネズミでも迷い込んだのかしら?」



 彼女はそう言いながら、不満そうな顔をしている。



 キーンコーンカーコーン



 すると、タイミングよく昼休み終了のチャイムが鳴る。



 よし・・・、俺的にはナイスタイミングだ。



「あら、せっかく良いところだったのに・・・。まぁ、いいわ。返事はまた今度聞かせてくれる?」



「は、はい・・・。」



 金縛りのようなものから解けたばかりの俺は、この場を切り抜けられた安堵感もあり、そう答えることしか出来なかった。



「次は、あなたからしてくれても良いのよ?」



 守皇真宵は最後に、自らの唇に人差し指を押し当てて、悪戯っぽくそう笑うと、屋上から去って行った。



「はぁ〜。本当に危なかった。」



 あの扉が鳴るのが、少しでも遅かったなら俺はどうなっていたか分からなかった。



 その上、今起きた出来事とフラッシュバックした過去の出来事、俺の頭は情報過多で今にもパンクしそうだ。



 俺は屋上の壁にもたれかかり、ホッと一息を吐きながら、頭の中で情報を整理する。



 それにしても、あの守皇真宵が俺に告白・・・?

 いやいや、それは有り得ない!



 俺はまた何か彼女に・・・・・。

 彼女が俺を、なんて事はあり得るはずがないのだ。



 だって、俺はあの日彼女に・・・・。



「くそ!」



 再びあの嫌な記憶が蘇りそうになり、憂鬱になってしまった俺は、そこで考えるのをやめた。


 

 今回は、真宵パートでした!


 次回からまた朔夜も登場すると思うので、楽しみにしててください!


評価・コメント等して頂けると作者のモチベーションが上がります!!よろしくお願いします!



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