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事情聴取

例の町人は忠道の名によって南町奉行所に呼び出された。


「主人様、例の町人が参りました。」


「入れ。」


優奈が扉を開けると江戸の材木商である川端瑞雲(かわばたずいうん)が控えていた。


「これはこれは....瑞雲殿でございましたか。どうぞこちらへ。」


川端瑞雲は江戸きっての商家である。江戸の街が大火に見舞われ消失した際などには私財の提供をしたりと江戸の街に多大な功績を残したとして幕府より名字帯刀御免を受けている。


名字帯刀御免とは百姓・町人の階級でありながら功績を成したとして特別に武士にしか許されなかった名字や帯刀を許可されることである。つまるところこの川端瑞雲は大変な名門商家の人間なのだ。


「この度は忠道様のご厄介になってしまうようで本当に申し訳ありません。」


「いえいえ、瑞雲殿の案件とは...兎にも角にもまずは事情をお話しして頂きたい。優奈、茶を」


「はい。」


優奈はそそくさとお茶を淹れにいったん退出。


「それで...どう言った事案なんでしょうか?」


「はい。最近、店の帳簿を付けている時にどうしても使い道の分からない支出があるということを番頭から聞きました。我が家個人の帳簿も同様です。不審な支出が多い。しかも、妻が出かけた日にばかり、その不審な支出があるんです。」


「なるほど...失礼ながら賄賂など、世間で今噂されている様なことは一切ありませんね?」


「当たり前です!名字帯刀御免を頂いたのも幕府だ。そして私が育ったこの江戸。公方様のお膝元である江戸でそのような体たらく...する筈がございません!」


「分かりました。すみません、失礼なことを。」


「いえ、世間的には横行しているのは事実だ。忠道様が気にするのは当然です」


今は老中・田宮意嗣(たみやおきつぎ)が実権を握っている。時代的には暴れん坊の八代目将軍の後である。


彼の政治は非常に経済を活発にした。その反面、賄賂が横行した時代でもある。南町奉行所に上がってくる案件の多くもそれであり忠道にとって非常に頭痛の種であった。しかし、江戸の町を活気付かせたことは忠道も評価しており、彼にとって田宮はなんとも言えない存在だったのだ。


「......奥様は今、どのような状況に?」


「普段と変わりません。このことは内密に動いております故。」


「ならば決定的瞬間を我々が押さえなければなりません。北町に協力を仰ぎましょう。」


「では!」


「我々としてもそのような体たらくが本当にあるなら許す訳には参りませぬ。奥様には非常に厳しい制裁が入るかも知れませぬが良いですか?今ならまだ聞かなかった事にできますよ?」


「いいです。ここまで来たら真実を知りたい。」


「わかりました。調べましょう。」



次回もよろしくお願いします

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