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眠り姫と双子の姉と・2

回想の続きです。お花畑は良くも悪くも、書くと止まらなくなる……

 秋も深まったある週末、新しい生徒会役員として忙しいお姉様と別れ、わたくしはむしゃくしゃしながら一人で実家に帰った。

 別にお姉様のことで不機嫌なのではない。未だにわたくしにティルフォード家からの縁談がないので、いい加減待ちくたびれているのだ。

 まだネイサン様は、想い人とやらを諦めていないのだろうか──そんな考えが頭を離れなくなり、恋敵探しを再開したが、相変わらず収穫はなく、精霊たちの手助けもない。

 どうしたらいいのか自室で悩んでいると、不意に現れたフォーンが声をかけてきた。


《ネイサンのこと、まだ諦めてないんだって? 彼やその想い人のことを、しつこく調べようとしてるそうだけど……ちなみに君、ネイサンの想い人が誰か分かったらどうするつもり?》

『教えてくれるの!?』


 かなりの期待を込めて尋ねたが、答えは無情だった。


《君の出方次第だね。彼女に危害を加えたり、ネイサンから遠ざけようとするなら教えない。これは僕だけじゃなくて、君の守護たちも含めた精霊全員の総意だから》

『どうして!?『愛娘』であるわたくしが、『伴侶』に近づく女性を遠ざけたいと思うのがいけないことだって言うの!?』

《だから、ネイサンは君の『伴侶』じゃないって何度言えば分かるのさ?》


 確かに何度も聞かされた。でもそれは、絶対に間違っている。


『嘘! だったら何故、わたくしはこんなにもあの御方を想って胸が痛くなるのよ!?』

《そりゃあ恋をしているからだろうね。僕としては『無謀な』とつけたいけど。逆に聞くけど、何故君はそんなに、自分の恋は絶対に叶うと確信できるの?》

『だって、わたくしは『精霊の愛娘』よ!?』


 その言葉にも、れっきとした精霊の一員であるはずのフォーンは何も動じない。


《うん、だから?『愛娘』だからって、その望みが全て叶うなんてことはないんだよ。恋愛みたいに、相手のあることなら尚更だ》

『そんなはずないわ!『愛娘』には必ず『伴侶』が存在するのでしょう!? だったら、わたくしが愛する男性こそが間違いなく『伴侶』であり、結ばれる相手になるはずよ!』

《もしそうなら、とうの昔にネイサンは、スレインに君との結婚を申し出ているんじゃないの? 令嬢は十六歳になれば婚姻可能で、現に他家からはたくさん縁談があるんだから。ティアナに関しては、ネイサンしか目に入ってないのが分かりやすすぎてかなり数が減ってきてるけど、それでもティルフォード家からの話は一切ないよね》

『だ、だってそれは、ネイサン様には『想い人』とやらがいるからで……』

《そうだね。そしてその『想い人』は君じゃない。もしも君が彼女に、ネイサンから遠ざかるように言ったとしても、彼は絶対に彼女を手放さないだろうね。むしろ彼女を自分の家にさらって、子供を身ごもるまで寝室に閉じ込めるんじゃないかな》

『な────っ!?』


 とんでもないことをごく当然のように口にされ、わたくしの頭は真っ白になった。対照的に頬はとてつもなく熱く、真っ赤になっているだろう。


《……何をこのくらいで動揺してるの? 実現するかはともかく、君はネイサンと結婚する気満々のくせに、寝室のことは何も考えてなかったんだね。知ってるだろうけど、ネイサンは二十歳の大人だよ? 結婚したならすぐにでも後継ぎを望まれることくらい、考えなくてもわかるものだと思うけど》

『だ、だってそんなはしたないこと、わたくしには……!』

《えー、そうかなあ。少なくともレリアは、シェフィーリアには機会を見つけてあれこれ教えてるみたいだよ? 彼女にはかなり熱烈な求婚者がいるし、学生結婚になる可能性が高いからって》

『そ、そうなの……じゃあ、わたくしよりもお姉様の方が先に結婚なさるだろうし、詳しくはお姉様に教えてもらうことにするわ』

《……いや、君がいいならいいけどさ。実際、シェフィーリアは未来の夫に、現在進行形で色々と教えられてるみたいだし。実地で》


 意味深につぶやくフォーンだけれど、その時のわたくしは不意の閃きで頭がいっぱいになっていて、何も気づかなかった。


 ──そうだ。既成事実という手がある!


 令嬢の発想としてはそれこそはしたないが、別に実際に事に及ぶ必要はない。一晩中、何もなくとも同じ部屋で二人きりで過ごせば、世間的には十分に既成事実が成立する。

 都合よく再来月、十二月の頭にはティルフォード公爵夫人の誕生パーティーがあり、わたくしたち一家も招待されていたはず。仮に泊まる予定ではなくとも、気分が悪いとでも言えば無理に家に帰されることはない。『愛娘』のわたくしならば、誰にも気づかれることなくネイサン様のお部屋に忍び込むことくらいは容易い。

 問題は、精霊の加護の副作用で、わたくしの起きていられる時間が普通の半分くらいということだけれど、パーティーは宵の口からなのだから、それまで寝溜めをしておくことは可能だし、両親も問題なく許してくれる。

 ただ一点、ネイサン様のお怒りを買うかもしれないことだけが怖い。……でも、もしも話を聞いていただけるのなら、わたくしの想いを伝えられるいい機会だ。ネイサン様はわたくしの『運命の伴侶』なのだから、話せばきっと分かってくれて、わたくしを受け入れてくださるに違いない。


《──ねえ。何を企んでるの、ティアナ》


 容姿からは意外なほどに低く迫力のある声音で、半眼のフォーンが目の前に迫ってきた。


『!! な、何でもないわ!』

《ふうん? ならいいけど……君は少し、疑問に思うべきじゃない? 僕みたいな他人の守護精霊はともかく、どうして君を最優先に守るべき精霊たちが、揃ってネイサンを君の『伴侶』だと認めないのか》

『……それは……嫉妬、とか?』

《馬鹿なの?》


 間髪入れない端的な罵倒はあまりにも痛烈で、わたくしの耳と胸をぐっさりと抉る。


《もっと真面目に考えなよ。つまり、君を守る精霊たちはみんな、君がネイサンの妻になんかなったら、不幸にしかならないと思ってるってことさ》

『!! そ、そんなこと、分からないでしょう!?』

《分かりきった事実なんだよ。精霊(ぼくたち)以外にも、分かってる人間はたくさんいるんだけどね》


 ──ネイサンとその両親とか、スレインやレリアとか。

 という副音声が聞こえたけれど、無視した。だってそれは事実ではないから。


《君が何を企もうと、企むだけなら構わないけど。その実行に精霊たちの力を借りるのが前提なら、間違いなく失敗すると覚悟しておくことだね。これは僕からの忠告》

『お、大きなお世話よ! わたくしは絶対に、ネイサン様の妻になるんだから!』

《だから無理だって。そもそも、貴族男性がフォルダム家の令嬢と結婚するとして、『精霊の愛娘』ってアドバンテージ抜きなら、普通は夢見がちな君より、地に足のついたシェフィーリアを選ぶものじゃないの?》

『ネイサン様は普通の貴族男性じゃないもの! あの御方は、他でもないわたくしの『運命の伴侶』なんだから、お姉様とは関係ないわ!』


 わたくしは、デビュタントの場で、ネイサン様がわたくしよりも先にお姉様と会っていたことを都合よく忘れていた。……後で知ったところでは、お二人はそれ以前にも何度も顔を合わせていたらしいのだけれど。


《そんなにも言い張るなら、次のパーティーの時にでも、ネイサンに手の甲にキスしてもらえば? それで精霊(みんな)が祝福してくれればよし、そうでなければ潔く諦めるんだね》

『嫌! わたくしは何があろうと、絶対にネイサン様を諦めたりなんかしないから!』

《……つまり、早々にネイサンが他の令嬢と結婚しても、ってこと?》

『そんなことになったら、精霊たちに頼んで、その令嬢をどこかに隠してもらうわ! ネイサン様の花嫁は、わたくし以外にいないもの!』


 滅茶苦茶なことを言うわたくしを、フォーンはとても可哀想なものを見る目で見下ろしてくる。


《……うわあ……あのさ、ティアナ。言っておくけど、精霊は君の頼みを何でも無条件で聞く存在じゃないよ? あくまでも好意で君を守ってるんだから、あんまり我が儘を言って困らせ続けると、いずれ君は『愛娘』じゃなくなるからね。いっそその方が平和になりそうだけど》

『煩い、煩いっ! フォーンには関係ないんだから、わたくしのことは放っておいて!』

《はいはい。僕も用ができたから失礼するよ》


 あっさりと姿を消したフォーンのいた場所を、わたくしは肩で息をしながらただ見つめていた。




 その後のフォーンはというと、急いでお父様にわたくしの発言を知らせ、託されたネイサン様への手紙を最速で届けたらしい。


 適当な理由をつけて学園を訪れ、お姉様と校内デートをしていた彼は、その時は立入禁止の屋上で、秋の空気をいいことにお姉様を膝に乗せて密着しつつ、あれこれとやや濃い目な触れ合いをしていた。


『……やれやれ。本当に迷惑で厄介な妹だな。よりにもよって、次期ティルフォード公爵夫人の拉致監禁宣言をしてくれるとは』

『あ、あの……ネイサン様。今日はもうこのくらいで……』


 両手がふさがっているネイサン様に、手紙を広げて見せていたお姉様は、甘い刺激にふるりと身を震わせる。

 切れ長の目を伏せたネイサン様は、お姉様の耳元に唇を寄せて尋ねた。


『うん? 寒いかい?』

『いえ……でも、フォーンがいますから、これ以上は……』

《ああ、僕はすぐにお暇するから気にしないで。ただそのためには、シェフィーリアの御披露目タイミングについて詰め直さなきゃいけないんだけど》

『そうだな。本当は母の誕生パーティーで婚約を公表予定だったが、この様子だと、彼女がパーティーそのものを台無しにするレベルで騒ぐ恐れが出てきた。流石に、彼女だけ招待を取り消すわけにもいかないから、延期もやむを得ずか……』

『……そのこと、ですけれど。ネイサン様』


 体を抱き締める力強い腕を、身じろぎできる程度に緩めてもらい、お姉様は微かに潤んだ瞳で恋人を見上げる。

 思わず唇を奪いたくなる衝動を抑えたネイサン様は、左手で鎖骨から首筋を撫で上げ、そのままお姉様の頬を優しく包んで目を合わせた。


『何だい、シェフィーリア?』

『わたくしとしては、特に予定を変更する必要はないと思いますわ。もしもティアナが場に相応しくない振る舞いをしようとしても、お父様やお母様もご一緒ですから、どうにか止めてくださるでしょうし。それに、ティルフォード邸のパーティーでティアナが騒ぎを起こせば、令嬢としての評判は完全に地に落ちてしまうでしょうけれど、妹を守る精霊たちが、それを素直に許しておくとは思えません』

《……何だか、シェフィーリアも策士と言うか、精霊(ぼくたち)のことをよく分かってるよね》


 苦笑気味のフォーンに、お姉様も複雑な笑みを向ける。


『わたくしも令嬢の端くれだもの。それに、これでもわたくしは、きちんと双子の妹(ティアナ)を愛しているのよ』

『その妹の方は、姉を愛しているようには見えないけれどね。どうにも彼女は、無意識に君を見下しているように思えてならない』

『否定はできませんわね。……実は以前、わたくしもネイサン様をお慕いしていると、あの子に打ち明けたのですけれど……』

《……『そうなの。お姉様も……でも、ごめんなさい。ネイサン様はわたくしの『運命の伴侶』だから、例えお姉様でも譲れないわ。謝ることしかできないけれど、許してほしいの』だっけ? 流石に聞いてて呆れたね。何様のつもりなんだろうなあと》

『それは勿論、『精霊の愛娘』様以外の何でもないと思うが』

《……うん、その通りだね。反論できないや》


 真顔のネイサン様の言葉に苦笑を深めるフォーンだった。

 ……お姉様とのその会話は、確かに交わした記憶はあるものの、わたくしにとっては気に留める必要もなかったため、頭の隅のそのまた片隅へ、とっくの昔に追いやっていた。

 だって、わたくし──『精霊の愛娘』は、『運命の伴侶』と必ず結ばれる運命にあるから。『運命の伴侶』とは、『愛娘』が心から愛する男性で、それはわたくしにとってネイサン様しか有り得ないから。だからネイサン様とわたくしは、近いうちに必ず結ばれる運命なのだと、信じて疑いもしなかった。

 仮に疑っていたなら、パーティー会場での衝撃はまだ小さかっただろうか。

過去回想は終了。次話から現在の時間軸に復帰します。

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