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眠り姫の出会いとその後〜帝都へ・2

ようやく主役の二人以外に、真っ当な(?)冒険者たちが登場。そして「お花畑」キーワードが出張る回でもあります。

 その朝、スイートルームの共同スペースには、一風変わった空気が漂っていた。


「…………ヴァイス。いい加減に、そのにんまり笑顔でこっちを見るのやめて」

「無理だな。イリーゼが赤くなったまま、無言で食べてる姿が可愛いのが悪い。小動物みたいで」

「嬉しくない! 大体貴方、今朝はキャラが違いすぎない!?」


 いきり立つイリーゼだが、今のヴァイスはいつにも増して動じてくれない。


「そりゃそうだろ。まさかイリーゼの口から、『許可さえ取れば、いくらでもキスマークをつけていい』なんて言われるとは思わなかったし?」


 ごほっ! とむせるイリーゼ。


「言い方! そんな意味で言ったんじゃないし、そもそもそんな風には言ってないでしょ!?」

「そうだったか?」


 変わらぬ笑みのヴァイスにぬけぬけと返され、イリーゼは怒りと羞恥に染まった顔を、ぷいっと背けてしまう。

 実際に彼女が口にしたのは、「人が寝てる間に、無断でキスマークをつけるなんて何を考えてるのよ!」という言葉だったのだが、それを見事に深読みプラス拡大解釈してくれたようである。


「全くもう……改めて言っておくけど、ヴァイス。今日はギリギリまで、私にキスするのは禁止だから!」

「はいはい」


 以前と違い、昨夜はそれぞれ個別の寝室で休んだため、今朝はこれまでのように、ヴァイスが『伴侶』としてイリーゼを起こしに来ることはなかった。

 そのために、キス禁止がどうこうと言う痴話喧嘩めいた話になったわけだが、肝心のヴァイスに堪えた様子はどこにもない。


「……本当に、絶対に駄目なんだからね」

「ああ。でも、眠気がきつかったらいつでも言えよ? じゃないと、限界が来たと俺が判断した時点で、またキスマークをつけるかもしれないからな」

「ヴァイスっ! もう、知らないっ!」

「あ、イリーゼ。ソースついてるぞ。ほらここ」

「──っ!?」


 と、とてもさりげないヴァイスの指に、唇のあたりを優しく丁寧に拭われ、手にしていたパンを危うく取り落としそうになるイリーゼであった。




 イリーゼの方にだけもやもやしたものはありながらも、朝食以降は平穏と呼べる時間が過ぎていったが、いざチェックアウトという段階になり、余計な騒動が舞い込んできた。


 受付カウンターが見えるあたりに差し掛かると、宿の入り口の方から何やら騒いでいる声が聞こえてくる。


「何かしら。……ヴァイス、顔が酷いことになってるけど」

「あー……要は、猪突猛進娘が押し掛けてきてるってことだ。ったく、宿屋にまで迷惑かけるなよ、あの馬鹿娘」


 その言葉を裏付けるように、昨日カウンターにいた宿屋の職員が、二人の姿を見つけ、ばたばたと駆け寄ってきてこう言った。


「申し訳ありません、ヴァイス様。貴方の弟子を自称する女性が、貴方に会うまでここを退かないと、先ほどから入り口付近に居座っておりまして……ランクをお調べしたところ、最低のRランクでしたので、正直を申しますと到底信じがたい言い分なのですが」


 一般に冒険者のランクは、AからEまでの5段階があるが、上下に特殊なものがある。

 上は言うまでもなくSランクで、こちらは突き抜けた実力は大前提としつつ、王族かそれに準じる大貴族による依頼や、国レベルの危機のような大規模の任務を一定数以上こなさなければ与えられない、名誉や名声が多分に付随したランクだ。そのため、実力は遜色なくとも、『お偉いさんは嫌いだ』と宣いつつ、昇格を辞退してAランクに留まり続ける者もそれなりに存在する。なおイリーゼの場合は、単純に活動時間に制限のある一匹狼の若い女性(ここが重要らしい)ということで、そもそも上からの依頼が入ってきにくい立場であるらしく、ランクが上がりようがなかったのが実状である。

 そして下に唯一存在するのがRランクで、これは文字通りRookie──一度も依頼を受けたことのない、まっさらな新人冒険者(ルーキー)を示すものである。逆に言うと一度でも依頼を受ければ、成功失敗に関係なく、活動可能ならば自動的にEランクとなるので、むしろレア度ではSより上とも言えた。余程のことがなければ、長くても一ヶ月ほどでRランクは卒業するからだ。


 問題の少女がいつ冒険者になったにせよ、ヴァイスの口振りでは、一ヶ月やそこらのストーキングではなさそうだから、それこそレア中のレアと言える存在だろう。無論、悪い意味で。


「自称は自称であって他称でも何でもないから、遠慮なくつまみ出してくれていいぞ。……ああ、もしかしてベルトラン商会の名前も出してきてたりするのか?」

「は、はい。実は……その、ベルトラン商会様はこの宿の大口の取引先であり、常連のお客様でもありまして……」

「力ずくの手段は取りづらい、と。分かった。……しかし、実家の名前まで堂々と汚してるのか、あいつは」

「今に始まったことでもなさそうだけど」

「確かにな。──おい、そこの営業妨害娘。いつまでもそんなところに居座るな。全方位に迷惑かけやがって、そんなに家の名前や冒険者全体の評価を下げたいのかよ?」

「ヴァイス! よかった、ようやく僕に会いに来てくれた! ずっと一人で放っとかれて、とっても寂しかったんだよ?」


 明らかに不機嫌な声と言葉は右から左で、エルフか精霊の血でも引いているのか、艶やかな若草色の髪を肩で切り揃えた少女は、夢見る乙女のように瞳をきらきら輝かせ、超絶仏頂面のヴァイスのもとへ駆け寄ろうとした──が、体格のいい警備員に行く手をブロックされて、むうっと頬を膨らませる。


「どいて。僕はヴァイスの弟子だよ! 弟子が師匠のところに行くのを邪魔するなんて、どんな神経してるのさ!」

「おや。先ほどは、『僕はベルトラン商会支店長の娘だ』と声高に主張していたのに、いつの間に我が宿のVIPのお弟子様になられたので?」

「だから、商会支店長の娘で弟子でもあるの! それくらい察してよ、この無能!」

「ほう、無能と仰いますか。()()()R()()()()()()()()()、有能無能以前の()()が」


 警備員としては如何なものかと思われる物言いながら、その内容は場の人間の総意に近い。


「な──ん、ですって!? ヴァイス、こいつ何とかしてよ! よりにもよって、ヴァイスの弟子である僕を侮辱したんだよ!?」

「知るか。そもそも俺は、師匠と定めた相手の言葉もろくに聞かない弟子なんぞ持った覚えはねえよ。──ついでに言うと、このクラスの宿屋の警備員は、最低でもCランク相当の実力が必須だからな? 宿の得意先のお嬢様だからまだ穏やかに接されてるが、そうでないなら不審者として瞬殺されても文句言えないことをやらかしてるんだぞ、お前」

「ふ、不審者!? 酷い! 一体、僕のどこが不審者だって言うのさ!」

「全部に決まってる。そもそも弟子だって主張してる癖に、まず一緒の宿に泊まってない時点でおかしいだろうが」

「全くです。現に、ヴァイス様の今のパートナーでいらっしゃる、Aランク冒険者のイリーゼ様は、こちらにご一緒にお泊まりですよ」

「は!? 何それ、聞いてない! 死んだ魔術師さん以外のヴァイスのパートナーなんて! しかもイリーゼって、女の名前じゃない! 酷いよヴァイス、弟子の僕に何の断りもなく!」

「だから、弟子でも何でもないっての……おい、イリーゼ。俺を盾にするな」


 背中にぴたりと張り付いて、少女の視線から逃れている相棒に、ヴァイスは半眼で突っ込みを入れる。


「だって、見つかったら面倒そうだし。……でも、ヴァイスが連れて行きたがらない理由はよーく分かったわ。まさに百聞は一見に如かず、ね」

「だろ?」

「いた! そこのあんたでしょ、イリーゼって! 何でヴァイスの陰に隠れてるのさ、卑怯者! 本当に彼のパートナーだって言うなら、僕の前に堂々と出てこい!」


 少女にとって誰よりも大事な師匠である青年と、近距離で親しげに話していれば、まあ気づかれないはずもない。


「ええ……やだなあ」

「最初から本気で隠れなかったんだから、見つかるのも当然だろ。ほら、観念して出てこい」

「はぁい」


 と、警備員たちには横にどけてもらい、改めてヴァイスの隣に並んだイリーゼの姿に、少女は露骨に顔を歪めた。


「何、その胡散臭い格好。そんなんじゃ、顔もスタイルも何も見えないじゃない。よくそんな姿で、ヴァイスの隣に並んでられるね!」

「そう? 武器も防具も新品同様で、ただ身に着けてるだけみたいな、冒険者と言うのもおかしいくらいのお嬢さんよりは、よっぽどましだと思うけど」

「なっ……!!」


 威力数倍のカウンターをくらい、少女は真っ赤になって言葉を失う。


 初撃は一方的だった女の戦い(?)を、いつの間にやら集まってきた、物見高い高ランク冒険者たちが好き勝手に評している。


「おー、なかなか言うなあ、あの女の子。流石は『帝国最強』のパートナーってとこか。顔は見えねーけど」

「つか、Aランクのイリーゼって言えば、確か 『精霊の愛娘』って話だよな? 若いのにとんでもなく有能で、自分は勿論、組んだ相手で死んだ奴はゼロとかいう話だけど、人の倍の時間眠ってなきゃ駄目だから、誰とも長期のパーティーを組まないし組めないとかいう……」

「うわ、何だその幸運のお守り的なチート。デメリット差し引いても最強じゃね!? そんなのが、それでなくとも『帝国最強』のヴァイスのパートナーって、色々と酷すぎだろ! ずるいぞヴァイス、俺らと代われ!」

「んー、ヴァイスは、話は普通に通じる奴だからな。一度くらいは交渉してみるのも手か……」

「おい、『愛娘』ちゃんの意思を無視したら駄目だろうが。勝手にごり押ししようもんなら、ヴァイスより前に、まず精霊たちの袋叩きに合うんじゃねえの?」

「あー、そっちもあったか。色んな意味でひでー組み合わせだな、あの二人……」

「まあな。ちなみに俺としちゃ、絶対にイリーゼを他に譲る気はないってことは、全員頭に刻み込んどけよ?」

「うげっ、ヴァイス!」

「りょ、了解しましたー!」


 などと、ヴァイスが一部を震え上がらせる横で、何とか復活した少女がイリーゼに食って掛かる。


「そ、そんなことはともかく! あんた、いつからヴァイスのパートナーになったわけ!?」

「いつ、ねえ……会ったその日にパートナーになったから、ようやく今日で十日目くらい?」


 その割には随分と色々あったなぁ……と考えつつ、『色々』の部分でほんのり頬が赤らんだが、幸い少女に気づかれることはなかった。


「はあ!? 何それ、短すぎ! 三年前に会ってる僕を差し置いて、たかだか十日でぬけぬけとパートナー面するなんて、厚かましいにもほどがあるよ! それに、ヴァイスもヴァイスだよ! 正式に冒険者になった弟子を、この一年間ずうっと同行させてくれないどころかほとんど無視し通しの上に、他の女を勝手にパートナーにするなんて!」

「……ヴァイス本人には認められてすらいないのに、堂々と彼の弟子を自称する人に厚かましいとか言われてもね……しかもあなた、未だにRランクなんでしょ? 今の言葉からすると、冒険者になって一年だそうだけど、その間に仕事の一つも受けてないって、一体今まで何をしてたわけ?」

「だ、だから言ってるでしょ、僕はヴァイスの弟子だって! 弟子はまず、お師匠様と一緒に旅をして、お師匠様と一緒に依頼をこなしつつ、お師匠様に認められて初めて独り立ちするものなんだから!」

「……何だかもう、本気で言ってるならどこまでも甘さが過ぎて、突っ込み所しかないわ。特に、RランクでSランクの依頼を一緒にって……死にたいの? 色んな意味で」


 呆れ返ったイリーゼの言葉に、ヴァイスを含む冒険者たちが一斉に何度もうなずいた。

 ヴァイスならずともSランクともなれば、ドラゴンのように、敵に回せば国そのものの脅威となる存在を相手取ることは勿論だが、別方向に危険度の高い、各国中枢部の秘密に触れる依頼が来ることだって有り得る。むしろそう言った面倒事が専門と言い切ってしまってもいい。

 逆に言えば、そんな秘密に触れた上でなお、国として()()()()()()()()()()()()()()、または()()()()()()()()()()()()()()()()()()と認められた者のみが達せられる領域が、他ならぬSランクというわけだ。

 そんなところに持ち込まれる依頼に、駆け出しでなくとも低ランクの冒険者がうっかり首を突っ込めば、一体どんなことになるか──あえて語る必要はないだろう。

 残念なことに、目の前のお嬢さんは何一つ理解してはいないようだが。


「そんなわけないでしょ! 大事な弟子である僕のことは、ヴァイスが何があっても絶対に守ってくれるし!」

「知ってる? それ、『弟子』じゃなくて『単なるお荷物』って言うんだけど」


 ぐっさり!


 ……と、イリーゼの台詞が音を立てて少女の胸に突き刺さったのを、確かに目撃した一同だった。


「わぁお辛辣ー。いいねあの娘、うっかり惚れちゃいそう」

「やめろ、ヴァイスに殺される」

「辛辣っても、事実には変わりないからなー。なあヴァイス、お前本気で、あのお嬢ちゃんの弟子入りを認めたわけじゃないだろ?」

「んなわけあるか。『せめてCランクまで上がってから出直してこい』って言ってある。それでも甘すぎなくらいだが、それすらやる気がねえからな、あいつは」

「だな。まー、半分くらいはお前の顔にも責任があると思うけど」

「やかましい。ほっとけ」

「自覚してんのかよ、嫌な奴……」

「無自覚の方がタチ悪いだろうが、こういうのは」


 脱線しつつある男たちの視線の先では、ぐっと拳を握りしめて足を踏ん張った少女が、予想外も極まることを口にした。


「……な、なら! 少なくともあんたはお荷物じゃないんだよね!? だったら僕と勝負して、負けたら僕にヴァイスのパートナーの座を譲ってよ!」


「…………はあ? 何考えてんだ、あのお花畑(お嬢ちゃん)。いや、なんも考えてないか」

「考えてたら普通、ランク差がありすぎる相手に勝負を挑むとかいう無謀な真似はしないからなー。ランクは絶対の代物じゃないし、相性ってのもあるから、下克上はそれなりの頻度で起こるもんだけど、天下の『精霊の愛娘』とあのお嬢ちゃんじゃな……」

「むしろこれ、『愛娘』ちゃんの方が災難つーか無駄な手間だろ。断ったって諦めねーだろうし、どうすんのかねえ」


「……本気? 聞こえてなかったかもしれないけど、私はこれでもAランクよ」

「だから何さ! ランクが本人の実力に、必ずしも直結するわけじゃないってのは常識でしょ!? 僕は絶対、あんたに勝ってやるんだから!」

「…………はいはい。まあ、目指したり宣言したりするのは自由よね、うん」

「決まり! じゃあ外に出なよ! 僕は先に行ってるからね!」


 言い放ち、ずかずかと大股に立ち去る少女を、一同は無言で見送った。


「……さてと。ヴァイス、チェックアウトは終わってる?」

「ああ、とっくに」

「じゃあすぐに出発できるわね」

「おう」

「って、おい待て『愛娘』のお嬢ちゃん! さっきの娘は放りっぱなしかよ!?」


 ギャラリーと化していた冒険者の一人が思わず突っ込めば、イリーゼは何ら悪びれずにこう言った。


「え、だって私、勝負を受けるとか条件を受け入れるなんて一言も言ってないけど?」

「「「…………」」」


 確かに、思い返せばその通りだが。


「それに、あの子も気づけば追って来るでしょ。いつ気づくかまでは知らないけど、宿屋の近くで立ち回りとか迷惑になるから、場所は移さなきゃ。すみませんけど職員の皆さん、もしあの子がまた来たら、私たちの行き先を教えてあげてくれます?」

「あ、じゃあ俺らも見に行きたいから、どうせなら二人についてくぜ!」

「俺も俺も!」

「ずるいぞ、俺だって行くからな!」

「……暇なのか? お前ら」


 呆れるヴァイスの肩に、顔馴染みがぽんと手を乗せてくる。


「暇もあるだろうが、みんな興味があるんだよ。『帝国最強の冒険者』が『誰にも譲る気はない』って宣言したその相手が、噂に名高い『精霊の愛娘』だからな。直に見たことや会ったことのある奴もいるだろうが、ほとんどは違うから」

「見せ物じゃねえっての」


 不機嫌に言うものの、相手はからかいまじりに笑うだけだった。それを不快に感じさせないのは、彼の人徳と言うべきか。


「それくらいは我慢しとけよ。あの娘に手を出そうとか企む命知らずがいるわけでもなし。仮に企んだって、お前は勿論だが、精霊たちが徹底的に邪魔するだろ? むしろ精霊には、お前も結構な割合で邪魔されてんじゃないか」

「……そうでもないな」

「は?……何だそりゃ。じゃあ何か? まさかお前が、あの娘の『運命の伴侶』とかいう奴なのかよ」

「ああ。一応、まだ秘密にしといてくれ」

「お、おう。……そりゃまた、何つーか……良かったな?」

「疑問形か。別にいいけど」

「いや、だってほら。親友(あいつ)を亡くして、お前は相当にショックを受けてたし。それこそ半身を無くしたのかと思うくらいな。その辺のことは有名だから、あの娘も知ってるんだろうけど」

「直接話したから知ってる。つい昨日、その件で、イリーゼの前で泣いちまったし」


 流石にそこまでは想像していなかったらしく、目を剥く勢いで驚かれてしまう。


「お前が!? あの娘の前で!? へえ……そりゃあ、良かったな。うん」

「今度は疑問形じゃないんだな」

「そりゃそうだろ。『帝国最強』じゃない、素を見せられる相手が他ならぬ相棒だってんだから、何よりだ。……あいつも死に際、その辺のことを心配してたんだろ?」

「ああ」

「余計な世話だが、気の遣いどころを間違うなよ? 相手は女の子なんだから」

「へえ、流石は所帯持ち、含蓄のある言葉だな。嫁さんは元気か?」

「元気すぎて困ってるくらいだ。『子供産んで落ち着いたら、また冒険者に復帰したい!』って騒いでる」

「おお!? 子供か、そりゃめでたいな! 流石は『紺碧の迅雷』、仕事が早い!」

「誉めてねえ! てか、そのこっぱずかしい二つ名で呼ぶな!」

「何だ、何の話だよ?」

「ああ、子供ができたって奴か? ほんっと仕事が(はえ)えよなー、まだ結婚して二ヶ月くらいだろ? むしろ結婚前にデキてた疑惑が」

「やかましい! 恋人もいねえ奴らは黙ってろ!」

「うわっ、ひでえ! 所帯持ちの横暴!」


 わいわいがやがや。


「みんな、凄く楽しそうね。ヴァイスも」

《まあ、二十代の男が集まったらあんなものよ。とは言え、そろそろ出ないとまたさっきの子が突撃してきそうね。ヴァイス、イリーゼがお待ちかねよー》

「お、悪い。んじゃ、裏から行くか」

「おおっ、美女発見! お姉さん、火の精霊だよな? 良かったらしばらく、そうだな半月くらい、俺らを助けてくれたりしない? 何せ来週から、帝都の北にある氷結ダンジョンに行かなきゃいけなくてさー」

《あら、素敵なお誘いね。イリーゼ、構わないかしら?》

「いいけど、話を詰めるのは歩きながらにしてね。どうせ帝都には行かなきゃいけないんだし」


 などと賑やかなやりとりを繰り広げながら、大所帯になった一同は、揃って街の出口を目指すのだった。


 途中、イリーゼはつぶやくようにヴァイスに尋ねる。


「……それにしても。あんな色んな意味で目立つ子が、冒険者になってからずっと、どうやって大過なく過ごせてたのか疑問だったけど……()()()()()()()()()なら、納得だわ。()()()ヴァイスも、あえて撒くだけで済ませてたのね」

「流石、気づいたか。()()を気にしなくていいなら、強行手段も行使できたんだけどな……ま、()()()()()だってことだ」

「でしょうね。……ごめんね、シルヴィ。また申し訳ないけど、情報収集をお願いできる? ヴァイスに聞けばいい話ではあるけど、念のための裏付けがほしくて」

《おっけ~。じゃあちょっと行ってくるけど、すぐ戻るわね~》


 言うが早いか、すぐさまシルヴィの姿が消える。


「流石は風の精霊、フットワークが軽いよな。口調はそれを裏切りまくってるけど」


 というヴァイスの感想はともかく。

 一時間後、《割とガードは固かったわよ~。流石よね~》と言いつつシルヴィが報告してきた内容は、確かに彼の言葉を裏書きするものだった。


「この際、彼女の護衛を引っ張り出してみようかな。その方が後腐れがなくなると思うんだけど、どう? ヴァイス」

「んー……ま、いいか。正直、イリーゼを()()()()に会わせるのは、最高に厄介で面倒だから嫌なんだが、()()()に延々付きまとわれるよりはマシ……いや、いい勝負か……?」

「……そこまで厄介な人なの? あの子って、もしかしなくとも父親似?」

「少なくとも、他人に色んな意味で迷惑をかけたり、厄介事を持ち込みまくるところはそっくりだ。父親の方はがっつり確信犯だけどな。()()()のことはあるにしても」

「うわぁ……Sランクの皆様も大変なのね……」


 心底から同情するイリーゼだった。

 もっとも、そのSランクの一人であるヴァイスの相棒になったのだから、いずれは自分もその『大変な皆様』の一員になることはほぼ確定していると、悟ってはいたのだけれど。


モブな高ランク冒険者たちが書いてて楽しかったです(高ランクなのにモブとは)。

再登場した僕っ娘お花畑ちゃんはまあ、うん。今後も出番はしっかりあるとだけ言っておきます……

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